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ミルクの森で⑧

8.消えかけた光に

田沢湖の田園地帯を抜けると、後部座席に座っていた母が大きなあくびをしました。

「退院できて良かったね」というのは、まさにそのとおりなのですが、その後には長いエピローグのような日々が続いているのです。

病魔は当人だけではなく、その家族の心にさえもクリティカルな傷跡を残していきました。

大切な肉親を失うかもしれないという恐怖は、僕の首筋に冷たいナイフの刃を立てて行ったのです。

僕はその感触と不快感を忘れることができません。

そして、おそらく「それ」はもう一度、人生のどこかの局面でやってくるのです。

僕は、母に眠れない夜があることを知っています。そして、眠るために医者から特別な薬が処方されていることを知っています。

深夜2時の窓明かりには、それぞれの家庭の、それぞれの人生が反映されているのです。

道がつづら折りになり、仙岩峠に差し掛かった頃、僕はディラン・トマスが病床の肉親に送った詩の一節を思い出していました。

おとなしく夜の世界に行くな
老年は終わろうとする日に向かって
燃え上がり 叫ぶべきだ
怒れ 怒れ 消えかけた光に

(『ミルクの森で』・おわり)

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