見出し画像

ミルクの森で④

4.名状しがたい季節に

初雪が降った後に、何日か好天が続き、一度積もった雪が溶け出して、アスファルトを黒く濡らすことがあります。

秋の終わりと冬の始まりに挟まれた、短い幕間のような季節。

正しくは何と呼べばよいのでしょうか?

もはや晩秋ではなく、かと言って「冬」と呼ぶのは、秋田の本格的な冬の厳しさを知る者として、躊躇われる。

母が入院してから3ヶ月が経ち、そのような名状しがたい季節がやってきました。

医者が提示する各種の数値も安定しており、ついに「一時退院」の許可がおります。

母も一所懸命にリハビリに励んでおり、病気によって損なわれた、すべての事柄が回復の途上にあるように思えました。

「僕は」と言えば、母の看病を理由にして、手付かずになっていた仕事の山と格闘していました。

「なんとか年内には、この積み残した仕事を片付けなくては」

しだいに残業が増え、病院に見舞いに行く回数も減っていきました。

それはある日の土曜日の午後のこと。
一時退院の予定日の、ちょうど一週間前の出来事でした。

病院に見舞いに行くと、どうも母の様子がおかしいのです。

寝てばかりいて、ろくに話もしないのです。

「おかしいな?医者は数値も安定していると言ってたのに。」

もしかして、リハビリで疲れてるのかもしれないと思ったのですが、寝ながら食事しているのを見て、しだいに腹が立ってきました。

「ただの怠慢じゃないだろうか?」という疑念が沸き起こって、思わず母に説教をしてしまいました。

「みんなが母さんのために頑張っているのに、本人が寝てばかりいちゃダメだよ。来週は一時退院でしょ。しっかりしないと。」

そう言うと、母は力なく頷いていました。

よくある日常的な親子ゲンカ。
その時はそんなものだと思っていました。

後日、僕はこの些細な一場面のことを、何度も思い出し、深く後悔することになるのです。

(『ミルクの森で⑤』へ続く)

いいなと思ったら応援しよう!