【映画】 グー・シャオガン 春江水暖
とあるきっかけで何の前知識もないまま観ることになったこの映画、題字からして自分から観ようと思わないタイプの映画だったけれども、見始めてすぐその非凡さにどんどん引き込まれていってしまいました。何から何まで素晴らしく150分の長さをまったく感じさせず一気にみせます。固定概念で入り口を閉ざしていたら絶対に出会えなかった映画でした。観てよかった。偶然に感謝。
タイトルバックが丁寧で大河ドラマ風、全体に映像がとても美しかったので、中国の有名な監督さんなのかなー、と思いきや、見終わって映画についていろいろ調べた所、監督はなんと1988年生まれ、長編映画デビュー作。そして数々の受賞歴もあり。そうかー、どこかただよう軽やかさ、瑞々しさはここにあったのかとは後付で納得。
冒頭から普通に中国の現在が描かれていて面白いなと観ていたけれど、ん、、、、?この映画、ちょっと普通でない、と感じたのは、結婚を反対されている若いカップルの彼氏の方が自分は泳ぎが得意なんだよ、と川を岸に沿って泳いだシーン。延々と泳ぐ場面がずっと遠景で続く。何か起こるのかな、と少しはらはらさせられるが遠くからのショットなので泳いでいる本人の顔も見えなければ、途中岸辺を追いかけているはずの彼女の姿も木々に隠れていて見えない。・・・・で、何も起こらず100mくらい?を泳いであがってきて無事彼女と再会。泳ぎ切るまで一体何分かかっただろうか。その間一切カットなし。でもなぜか飽きない。
また違うエピソードの中で、その泳いでいた彼(職業は学校の先生)が授業で舞台となっている土地、杭州市福陽区に関する有名な絵巻のことを生徒達に教え、絵巻も映し出される場面がある。軽く見過ごしていたが、それから少し経ってから、突然、ああ、この映画が絵巻だったのだ、とようやく気がついた。
川や自然、街が延々と長回しで映し出されるのは、全て絵巻の視点だったから。そう合点がいくと、本当に絵巻を見ているかのようで、この構成と演出に監督の驚くべき才能を感じずにはいられない。
そして、性格もルックスも個性的な登場人物達がまたいい。さすが中国の役者さんはなんだか存在感がすごすぎる・・・と思ったら、監督のご親戚などで本当にレストラン経営者、漁師などだとのことで、それぞれご夫婦や親子での出演と知ってまたびっくり。主要登場人物の中でプロの役者さんは2名のみだそうで、市井の人々の顔と日常はプロ以上に本物でリアルでこちらも見どころ。
ここで改めてあらすじを書いても何ですが、かいつまんでいうと中国の今、古いものが取り壊され、新しい価値観が出現し、その中にも脈々と残る伝統といった内容が綴られています。あ、、、こう書いてしまうとありがちで、見に行きたい気持ちも削がれてしまうかもしれませんが、映像だけでなくドラマの方も介護問題から結婚観、ダークサイドの借金など様々な要素が実に盛り沢山なので楽しめます!