古さを感じさせない作品には、何があるのか。2021年8月13日の日記
最近、私が見ているツイッターでこの作品が紹介されていた。
情報を入れずに、読んだ方が絶対に楽しめますので、まずは一読を。
※ここからは、漫画の内容について書くので、未読の方はご注意ください。
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※ここから本編の内容と共に書かせていただきます。
読後に、この作品を調べて見ると、2015年の作品だというのが分かった。
「モーニング 2015年46号」に掲載された読み切り作品!※雑誌掲載当時のままの内容です。 以上、コミックDAYZより。
まず、その事に私は驚いた。
作品には『時代の古臭さ』と言うものをまったく感じなかったからだ。
普通に2021年に発表された作品だと思っていた。『ルックバック』といい、この作品といい、今年は、読み切り作品の大当たり年だと考えていたので、余計にそう感じたのだろう。
この漫画を出来るだけ簡単に説明すると、刑事の経堂龍之介が殉職した同僚、若林の遺言「なおきしょう」を聞き、恋愛小説で直木賞を目指す物語。となるのだろうか、文章にすると荒唐無稽であるのだが、漫画で読むと非常に腑に落ちるのである。
そして、作品に古臭さを感じさせない要因として、主な登場人物が自分の性別に対して拘りを持っていない事が挙げられる。
経堂龍之介も刑事という、男らしさを求められがちな仕事に就きながらも、ラブロマンス小説を書くことに対して、何も抵抗を持っていない、それどころか、大量の恋愛小説を購入して、創作のヒントにしようとしている。
そこには、経堂龍之介個人の葛藤が無いのである。
葛藤が無いと書くと、何も考えていないと受け取る人もいるだろうが、そうではない、この葛藤こそが、『男らしさ』の呪縛なのである。
刑事をしている俺が、恋愛小説なんて書けないし、読むことなんて出来るか。このような、『男はこうあるべし』的な考えは、経堂龍之介には微塵も持ち合わせていない。
生前、同僚の若林がラブロマンス小説家を夢みていたこと、龍之介にラブロマンス作家になることを勧めていたこと、その若林の遺言が「なおきしょう」だったこと。
だから、龍之介は恋愛小説を書くことにした。
ただ、それだけである。
同様に龍之介の娘と同じ高校の先輩で、小説家の顔も持つ、金時も強烈な印象だった。
龍之介の持参した原稿に目を通すと、すぐに火を点けて原稿を燃やす、龍之介に語彙を総動員して罵詈雑言を浴びせかける。
そこには、そう思っているのだから、言葉にして何が悪いという一貫した考えみたいなものを感じる。
金時も龍之介同様、『女らしくしなくては』という葛藤が無いのである、それが読んでいて清々しくもある。
その清々しさは、性別の呪縛から逸脱して悠々と進む時に発生する追い風のようでもあり、そこには時代の古さを感じさせない風が吹いているのだ。
漫画のエピローグで、冒頭の若林の遺言だった「なおきしょう」は、直木賞ではなくて、若林が残した二人の子どもの名前だった。という話は『おまけ』みたいなものだと思っている。
そんなことは、もう、どうでも良いのである。
龍之介は、ラブロマンス小説家になりたかった若林の夢を引き継ぎ、それを実現して、最終的には直木賞を受賞した。
それで充分ではないだろうか。