これっきり、ヨコスカ ~横須賀編~
【おことわり】
続きですが、別に前のは読まなくても大丈夫です。前後のつながりはありません。
あと、観光情報とかグルメ情報だとか地域の素敵な情報などはありません。
それといってとりとめもありません。なんとなく横須賀についておもいだしたことを書き留めるだけで。ごめんなさい。
魂なき横須賀民
テレビが横須賀に取材にやってくると、よく取り上げられる食べ物があります。
「横須賀のソウルフードと言えば、そう、ポテチパンです!」
ナレーションだとか、芸能人だとかが、そんな風に紹介してくださる食べ物。ポテチパン。
ポテチを砕いたものをキャベツとかマヨネーズとかであえて、コッペパンに挟むという、素朴な食べ物です。
横須賀市民ならみなさんご存じの! といった触れ込みでテレビに出てくるポテチパンを見るたびに、私は少し複雑な気持ちになります。
いや、知らん。というか、食べたことない。
私はこのポテチパンを食べたことがありません。
そもそも、存在自体をテレビで見るまで知りませんでした。
文字通り横須賀の中心部である京急の横須賀中央駅界隈で暮らしている方々には知れた食べ物のようです。
私は横須賀市の中でも割と端っこのほうに住んでいるので、どうやらご縁がなかったみたいです。
このポテチパンをしらない私、というのが、私にとっての横須賀という町に対する印象を物語っているような気がします。
神奈川県のわりと隅っこにある、横須賀市。
そのさらに隅っこのほうにある久里浜あたりに暮らしてきた私にとって、横須賀という町は実は遠い存在なのかもしれません。
ソウルフードと言われているものを食べたことがないというのは、どことなく魂なき市民と言われているようで癪なのですが、それでいて、悔しいからポテチパンをいますぐ食べに行きたい!とはまるでなりません。
近くて遠い、横須賀の町。町の魂の味も知らず、私はまだぬけがらの市民のままでいます。
市歌とゴミ収集車
皆さんはお住いの市の市歌をご存じでしょうか。
横須賀市民はたぶん知っています。
学校で歌わされます。
さんざん歌わされたのですがあんまり覚えていません。
メロディーはなんとなく覚えているんですけどね。
堀口大學作詞、團伊玖磨作曲。由緒正しそうです。
ちなみに歌は以下のリンクからどうぞ。
この横須賀市歌、いつの間にか夕方に鳴る防災無線の音楽とゴミ収集車の音楽に採用されていました。
郷土愛をはぐくむために採用したのだろうとは思うのですが、実際のところはよくわかりません。
ただこの横須賀市歌、市外から移り住んできた方たちにはまるでなじみがないため、そもそも横須賀市歌とすら認識されていないようです。
実際に曲と紐づいたイメージは横須賀市という
町のほうではなく、ゴミ収集車のイメージで、どうやら少なくない方が、横須賀市歌をゴミ収集車の歌として覚えてしまっているみたいです。
郷土愛をはぐくむってむずかしい。
ちなみに私は横須賀市歌より、横浜市歌の方が好きです。
やっぱり郷土愛って難しい。
あやしさと職質とヴェルニー公園
横須賀といえば軍港。
JRの横須賀駅を降りてすぐのヴェルニー公園という海沿いの公園からは、潜水艦や護衛艦がお手軽に見ることができます。
正直、地元のものからするとお手軽に見られすぎるので、遠方からわざわざ見に来るほどのものなのだろうか、と思わなくはなかったりします。
私はどちらかというと、横浜の大さん橋で大きな客船を見られた方が嬉しかったりします。
無いものねだりといったところなのでしょうが。
見えるものは灰色の船ばかりですが、海辺のウッドデッキを歩くのはわるくありません。
バラの花壇や噴水もあり、ベンチも多いのでちょと休んだり、お弁当をたべたりするにも好都合です。
夜になっても街灯や港の灯もあって、なかなか昼とは違っていい趣だったりもします。
ある夜、そんなヴェルニー公園を、歩いていた時のことです。
ふと携帯電話に友人からの着信がありました。
これは長くなりそうだと、いったん潜水艦が見渡せるベンチに腰を下ろして、電話を取りました。
その電話の内容がなんであったか、今となっては思い出せません。
ただはっきりと思い出せることは、それからしばらくして、お巡りさんの一団が私に話しかけてきたことです。
おそらく、五人くらいの一団だったでしょうか。
「こんばんは」
気さくな感じで声を掛けてきたお巡りさん。
フレンドリーですが、明らかに職質です。
制服の胸にはなぜか〈静岡県警〉の文字がプリントされていました。
そのころ、ちょうどサミットか何かがあったため、どうやら横須賀でのテロを警戒して応援にやってきていたようでした。
どうやら私は、テロ警戒にピリついた現場で呑気に友人と長電話をしていたようです。
ベテラン風のお巡りさんが身分証明書と荷物の確認をしたいといい私は素直に応じました。
「ほらね、爆弾とか潜水艦に投げるといけないから」
軽い感じで物騒なことを言い出すお巡りさん。
テロリスト同士で連絡を取り合い、今にも潜水艦へ爆弾を投げつけそうと思われたようです。
確かに、顔立ちが中東系っぽいと言われたこともあるし、わりと挙動は不審気味だし、かんがえればかんがえるほど要素満載な私です。
さもありなんといえるような気もします。
幸い疑いは晴れましたが、ヴェルニー公園が軍の基地と接する最前線の公園ということは身に染みてよくわかる出来事でした。
というわけで夜のヴェルニー公園へ遊びに行くときは、極力あやしくない恰好で行きましょう。
あやしくない恰好ってなんだろう。
生まれてこの方、あやしくなかったことなどない私にはさっぱりわからないのですが。
これっきり、ヨコスカ
あんまりかわりばえのしない町。
横須賀に対する印象はずっと、これです。
地元のデパートのさいか屋が半分なくなって、もはやデパートなのか何なのかわからなくなったり、汐入のダイエーがコースカとかいう馴染みのない名前の似たようなショッピングモールになったり、横須賀中央の駅前の再開発をしていたり、ちょっとずつ変わっていくところはあるけれど、町の印象はあまりかわりません。
古いビルと飲み屋と軍港と。
近くに軍港があるせいか、必要なものは何でもそろっている。電車だってある。横浜にも東京にもそう遠くもない。
都会のせわしないスピードよりはややテンポが遅く、はるか田舎のスローライフよりは幾分便利な町。
おそらく、ずっと住んでいくにも申し分ない町です。
実際、外に出ない横須賀市民も多いと聞きます。
だけど、やっぱりトンネルと、トンネルと、トンネルとを越えた先にようやっとある半島の爪の先にあるような小さな町です。
新しいものもあまり入ってこない。
駅のメロディーだって、いまだに山口百恵のまま。
この中途半端な町にいることを潔しとしない自分がいて、何度か出ようともしたけれど、なかなかうまくいかなくて、帰ってきたりもして。
帰ってこさせるだけのちょっとした魔力があるような気もします。
港町ゆえ、帰るところになるという懐の深さがあるということなのでしょうか。わかりません。
でも今度こそ、これっきり、ヨコスカ。
ぬるま湯のような居心地のよさをありがとう、ヨコスカ。
ちょっと押しつけがましい郷土愛精神をありがとう、ヨコスカ。
ここに書いた以外にも山ほどある思い出をありがとう、ヨコスカ。
さよならのかわりに。