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私はおさらの20歳の生誕祭にも当然行くのだと思っていた
9月某日、私は新潟にいた。その日は雨が降って、まだ晩夏と言える季節なのにひどく寒かった。おまけに、高速バスにイヤホンと眼鏡を忘れてきた。そもそも、高速バスの日にちを間違えてお情けで乗らせてもらっていた。
のっけから散々であるが、それでも私の心は温かかった。推しの生誕祭である。めでたい以外の何物でもない。
アイドルというものへの感謝は尽きない。私がかわいい女の子に生まれていたら、そのかわいさは私のためだけに消費されていただろう。他人へのサービスに心を砕くより、狭い世界でかわいいねと言われて生きる方がずっと楽だ。
アイドルはその道をかなぐり捨てて、自分と同じようにかわいらしい子たちと「勝負」をしながら生きている。自尊心が失われることもあるだろう。傷つくこともあるだろう。それでも、歯を食いしばって舞台に笑顔で立っている。我々オタクはその覚悟を消費して生かされている。
その人の生誕祭だ。とびっきり良い公演に違いない。思いっきり感謝をしたい。そう思って、気がついたら現地にいたのだった。
小見山沙空ちゃん(以下おさら)のアイドル道は真摯なものだ。学生の身分で忙しいだろうに、毎日のようにメールが来るし、公演もこなして、SRやSNSの更新もマメにしている。どんなときもマイナスの言葉を吐かず、一生懸命熱い言葉でアイドルをしている。
彼女はNGT48のエースになると信じて疑わなかった。先日出た「Awesome」のシングル選抜に漏れてしまったとき、SRで彼女は泣いていた。悔しかっただろう。それでも、同い年でセンターに抜擢された小越春花ちゃんを祝福する言葉を述べていた。
泣くのは自分がそこに立ちたかったからだし、立つ自信もあったということだし、私はその時、この子はずっともっと高いところにいけると思ったのだ。そして、自分が悔しくてもきちんと他の子を祝う気持ちの良さもある。
今の彼女はNGT48の中では下から数えて二番目の年齢だけれど、後輩ができたときのことも思い描いて楽しみにしていた。彼女の人なつっこさ、熱さ、気持ちの良さは後輩ができたらより発揮されるのではないかと思った。
そうして私はキンブレに生誕Tシャツ、推しタオルという出で立ちで公演に参戦した。前から二番目という神席に当たり、いよいよ公演が始まった。
会場が彼女の推し色である緑に染まっていた。この会場にいる人たち全員が、おさらの誕生日を祝っている。そう思ったら泣きたい気持ちになって仕方がなかったし、スピーチの時には本当に泣いてしまった。おさら自身も、この緑に染まる会場を見て胸を熱くしていた。
歌い踊るおさらは本当にかわいかった。今はまだ、上の世代のお姉さんに比べて少し垢抜けないところがあるけれど、そのお姉さんたちに倣ってもう少しメイクを覚えたら、立ち振る舞いを覚えたら、とんでもない美少女になる。彼女はまさしくダイヤの原石だ。
最後のメンバー同士でのわちゃわちゃも含め、本当にいい公演だった。お見送りの際にはこちらは声は出せなかったが、おさらは私の名前を呼んでくれた。
「また来るよ!」と伝えたかった。18歳の生誕祭も、19歳の生誕祭も、20歳の生誕祭も来るよ!と。その時には今よりきれいになってるんだろうな。今日買ったポラを見て、この時は幼かったな、なんて笑うこともあるんだろうと思った。
しかし、それはかなうことはなかった。
本日卒業発表させていただきました。
— 小見山沙空【NGT48】 (@sara_komiyama) September 29, 2021
私の気持ちです。読んでください。
最後までNGT48のメンバーとして、がんばります!これからもよろしくお願いします! https://t.co/oqdfpwyNi7 pic.twitter.com/3KQiwHUoDm
先日、おさらの卒業が発表された。
これは知ったときは、あまりの衝撃に、なんで?としか言えなかった。卒業が近い子は「そういう影」を見せることがある、と聞いていたが、おさらにはそれがなかった。いつも前向きで、熱く、力強い子だった。どんどん成長して、次はもっといいものが見られると思わせてくれる子だった。その「次」が唐突に絶たれた。
現実的なことを言うと、彼女は今高校二年生で、進路の岐路に立たされている。自分の将来を考えたとき、やりたいことが見つかったなら、卒業を決めても仕方がないことかもしれない。
しばらくは呆然としてしまっていたが、ようやく整理がついたので文章にすることができた。おさらが私たちにくれた元気の分だけ、おさらには元気でいてもらって、素晴らしい未来が待っていることを祈っています。