良い日の最後に脳出血11
入院5日目。11時と言われていたが、10時に入浴のお迎えがくる。来てくれた人が歩く私を見て「自立ですか?」と少し驚きながら言うものだから、歩けるしお風呂もひとりで入れているが、まだ見守り解除の指示が出ていないようなのでコールしたと伝える。見られながらの着替えとか、嫌ですよね、と慮ってくれて「自立で大丈夫との申し送りを、必ずしますね」と言ってくれた。必ず、というところに思いやりと使命感の強さが出ている。自立という言葉を、これまでは親元から離れることとしてしか、見聞きしてこなかった。初めて聞く医療的な「自立」の意味を「自分で立って歩ける」だと勝手に解釈し、以降、自立の人として勝手に出歩いている。だんだん自由が近づいている。
この日のリハビリは、以前にも来てくれた、目と目の間がうっすら光っている女性リハビリ師だった。小さな体育館みたいな楽しい部屋で、カラフルな立方体の木のブロックを使った空間認識?のテストだ。この光っている人が脳の機能担当なのだとわかった。
ブロックを、見本と同じになるように並べられるかどうか。時間はどれくらいかかるか。最初は9個だったのが、途中から16個に増え、最終的には25個になる。図形も複雑になっていく。算数まわりがとにかく苦手な私にとっては、脳出血に関係なくフリーズしやすい作業だ。汗をかきながらやる。20題くらいあっただろうか。「これはちょっと難しいかも」と言われたものをすんなりクリアすることもあれば、あと一つはめたら終わりのところで、なぜかわからなくなることもあった。これは脳から血が出る前の私の通常運転なのだが、目間光リハビリ師は判定に困っただろう。「枠から組んでいくのが珍しい」と言われた。算数的な考え方ができないからなのだろうか。そういえば前回も、100から7を引いていく暗算に手こずったのだった。脳出血とはまるで関係なく、普段から算数はとにかくあやしい。疲れたけど面白かったので、このカラフルな積み木が欲しくなった。名前を「コース立方体」というらしい。あとで調べてみる。
歩くリハビリもする。リハビリ前後とも147/110くらいであまり変わらない。しかしこれも、最初に測って180くらい出たものを、深呼吸と測り直しを繰り返して、やっとかっと出た数値だ。下の高さもどうしても100を超えてしまう。しばらくがっかりしていると薬の種類が追加されたと、看護師が持ってきてくれた。朝にエンレスト100mg。これで、朝はニフェジピン40mg、エンレスト100mg、夕にニフェジピン40mgになった。どんな副作用があるのだろうと悲しくなった。
血圧が下がらないので、頓服で粉薬を飲む。名前は忘れた。粉ということは、即効するということか。即効しなければいけないくらい、危ないことなのだ。これで炎天下で動き回っていたと考えると、いかに馬鹿だったかがわかる。薬が即効してくれて、一発で138/99まで下がる。薬は偉大だけれど怖いとも思う。