夏が終わる

襲いかかる熱の圧力のごとき厳しい暑さも、引くと、無くなると、落ち着くと、隙間を感じる。隙間はもの寂しい。パン生地とか詰めて焼いて膨らませて密着させて、埋めてしまいたい。それが無駄だと知っていても。

蚊取り線香の匂いを嗅ぐとご飯にかぶせる蚊帳を思い出す。
今はもう人間のあいだでは絶滅してしまった蚊帳という文化が、ご飯たちにはささやかに残っている。

夏の終わりは一瞬で僕から過ぎ去って、どこかで秘めたるものとなってしまったのだろうか。季節の体感の記憶というのはうまく思い出せない。自分のことなのになんでこんな隙間にパンが?と自身で悩むことになる。数文字のメモを見返しても何一つ思い出せない、空振る空中の手。

夏の終わりは寂しいから、隙間をパンで埋めました。それでしかない、しかしそれ以上のものがあったような気もする。もう過ぎ去ってしまった。来年の夏の終わりの瞬間にならないと思い出せない。そしてまた、忘れてしまう。そう無駄と知って。

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