人はヤドカリ
昔読んだ文章で納得するものがあった。
『人は街中などでイヤホンをすることで現実世界との隔絶を行なっている』というものだった。
街中でなぜイヤホンをするのか?
音楽を聴きたいから。
それも十二分にありながら、現実世界の音を耳に入れたくない思惑もだいぶ含まれているのだと思う。
つまり、社会と隔絶して社会に参加したいのだ。
あるとき靴屋で、中国出身の女性販売員と雑談していて聞いた話だ。女子高生ぐらいのお客に声をかけたけどイヤホンで聞こえなかったようで無視された形になってしまい悲しかった、というものだった。話しかけられてるのは分かっているだろうに無視するというのは日本では普通に想像できる。
話しかけて欲しくないサインとしてイヤホンをすることは浸透していると思う。
話しかけて欲しくないというか、存在を半透明にしているんだから話さないでよという感じだ。会話をしたら色が出てしまう。今は世界をモニタリングするシミュレーションゲームで街中を歩くみたいなモードなんだよって。半透明な存在で社会参加したい気持ちはそういったバーチャルな世界の趣きがある。
でも本当の隔絶は望んでいない、本当に隔絶したいなら家に居る。
自分でありながら自分じゃない装いをしたい詐欺師が本当のことを少し混ぜた嘘を吐くようなものだ。なかなかリアル世界では別人であろうと思い切れない。これがSNSなら別人になって楽しんでる人もいるだろう。
イヤホンは典型的なものであって、リアル社会に参加しながら引きこもり透明化していくという行為を、人それぞれの方法、塩梅で行なっている。