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ぽつぽつ記

 2024年11月19日

 しわ寄せのごとく、冬が到来。朝の郵便局へ向かう道のりは冷たい。それでも、ゆっくり朝日が昇って、体温を取り戻す街。局内をまばゆいオレンジ色に照らす時間帯がある。閃光のように等しく。手紙も運ぶ人の影も静まるフロアの中は、それはそれは綺麗なのだ。


 新井さんが自分の涙腺というものを初めて見たらしい。目がしょぼしょぼしていて、鏡で見たら、目の下に穴が空いていて、「目に穴が空いていたら終わりだな」と思ったそう。

 僕は何となく知っていた。でも、言われてみたら目の下の穴にいつ気がついたのだろうか。中学の頃、歩いていたらサッカーボールが顔面に直撃して、網膜に穴が空いたことがあったのだが、そのときあたりだった気がする。ちなみに穴はレーザーでふさいだ。当たり前だけれど、痛かった。


 最近、知らない間にあざが出来ている。腕の内側に二か所。噛んだ後みたいでこわい。


 電気代を払い忘れて、もうそろそろ止めますという紙が来ていた。8月分だった。電気代を払うお金はあるのだけれど、支払書をもって払いに行くのが面倒くさい。かといって口座振替にするのも面倒くさい。だから、電気代を払うのにはかなりの労力を要する。そして、いつの分を払ったのか毎回忘れてしまう。

 僕が面倒くさがりじゃなかったら生まれなかったはずの紙なんだなとしげしげと眺めた。明日払いに行く。


 電車の雑音がすごく耳に入る。文字通り、ざわざわ。音圧がひどい。人の会話なのだから、意味があるラリーなはずなのに、無作為な文字の羅列のように聞こえる。妙に不気味で、窓の外の一点を見つめるしかない。


 新しい分厚い上着をおろす。これはあたたかい。そこにマフラーで顔を埋め、帽子を深くかぶる。寒さを完全に防御。かかってこいいいいいいい。銀河鉄道999の車掌スタイルで街を自転車で走る。


 昨日のトウフーの帰り道、ケバブ丼大盛りを二個購入。親がご飯を食べなさいとくれたお金で。太ることも親孝行になるからと言われた。4kg太ることを約束させられた。誰からの力も借りずに1人で生きたいと強く思いながら、電車に乗る。ケバブの匂いが思ったより強いせいか、目の前の人と目が合った。わ恥ずかしい。悲しさとか悔しさとかって、結局のところ、簡単に上塗りできるんだなと思いながら、深く俯いていた。そのせいでケバブ丼がリュックの中でがぼぼぼと漏れていた。がぼぼぼ。


 僕の持っている主要な靴は青々しいバンズのスニーカーだけ。街中を見ても、そんな色の靴を履いている人はあんまり見かけない。そして、いろんな人から、不評。ロボットみたい、何か硬い、浮いている、など。そうなると、僕もこの靴は良くないんじゃないかなと思えてくる。買った時は綺麗だなと期待で胸が膨らんでいたのに。

 この靴はたしか、三人から二人体制になる話し合いのときに、初めて履いていった。どのタイミングでおニューの靴おろしてるんだよ、と何か笑いになるかなと思ったけれど、誰一人触れることは無かった。当たり前だ。でも、僕に出来そうな笑いはそれぐらいで、そんなタイミングだったからこそ、どうにか関係なく笑いがあったらいいなと思っていた。お笑いは負が正になるから、本当にすごいとおもう。


 怖いけれど、ぶるぶる手を伸ばした先にいろんなことがあったからこそ、今がある。だから、引き続き、大きく息を吸って、何にも分からないけれど、手を伸ばす。


 最近、人のおならを見かけた時、わざわざ寒い外へ出てまで人のおならを吸いたくないよぉとちょっと思ってしまう自分がいる。







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