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アオタガイの話

 2025年1月2日

 今日も明日も、郵便局で働く。年末年始、想像よりかは忙しくなかった。朝4時ごろの外は、いつもより人が多くて正月っぽいなと思う。家を出る時、隣の部屋の人も同タイミングで出てきて、ものすごく気まずかった。どこかへ行くのだろう。



 先月、花ブービーとして初めて決まったテレビのお仕事、冗談来人〜アオタガイグランプリ〜、見事に優勝できた。まだ死んでないぞという証明はできたと思う。

 とても嬉しかった。全力で勝とうと思って挑んだ結果、勝てた。これは素晴らしい。勝とうと思って、勝てることなんてそうそうないから。勝とうと思って負けること、何も思ってなくて勝てること、これが大半だもの。


 当日は午前中に集合で、コント組の僕ら、伝書鳩さん、デイドリームさんが早く集まっていた。伝書鳩さんはかなりお久しぶりだったので嬉しかった。山田さんが太った気がしたので、聞いたらむしろやせたらしい。デイドリームさんは事務所の二個下の後輩だ。一年目で凄いと思う。テレビの収録などでは、事務所の先輩の存在でかなり安心した記憶があったので、何か力になれたらいいなと思ったけれど、たぶん実際に役に立ったのは、消しゴムを貸してあげたぐらいだった。それも新井さんの消しゴムだったし。

 顔見知りばかりで安心する反面、朝から気合のスイッチを入れっぱなしにしていたため、心は常にあふれんばかりの水が入ったお椀をこばさぬように運んでいるよう、全然会話が出来なかった。申し訳なかった。

 新井さんが横で話しているのを聞きながら、良からぬ想像をいくつもしていた。格好悪いけど、自分が想像する結果は基本的に起きないというジンクスが高校の頃にあったので、それを久しぶりにやっていた。


 アオタガイのシステム上、参加者が四ブロックに分かれて、各ブロック一組だけが勝ち、負けた組は敗者復活アピールタイムに回る。そこで、30秒のアピールを行い、その結果一組が復活する。

 なので、全員がアピールを用意していた。僕らは、僕が三転倒立したまま、水平に一回りして、そこに新井さんがボールを投げ、そのまま足でキャッチをするというものだった。最初、僕が三転倒立しながらタピオカミルクティーを飲むというものだったが、会場が飲食禁止だったため、没になった。


 このアピールの練習を楽屋でしていた。最初の方は新井さんがボールを投げる位置をよく間違えて、キャッチし損ねた。何をそっちがミスすることがあるんだ、ボールを投げるだけなのに!と笑ってしまったが、聞くとどうやらボールの落下地点と高さの二つを意識しなくちゃいけないらしく、それは難しそうだと思った。でも、最後の方はほとんどミスすることなくできるようになった。

 とはいえ、なるべくならこれを見せずに、ストレートで勝ち上がりたいと思っていた。結果的に、日の目を見ずに終わってちょっと安堵している。


 同じ出演者でシャンシャンさん、天明ブラウンさん、無尽蔵さん、梵天さんは顔見知りだったので、これまた嬉しかった。

 シャンシャンさんはかなりお久しぶりだったので、お互いに調子はどうですか?と訊き合っていた。天明ブラウンさんはSUMMITというユニットライブで一緒なので、いつも通りの挨拶をかわして、いつも面白いなぁと思っていた。

 無尽蔵さんは相変わらず新井さんが同期なのか同期じゃないのかいじりをしていた。半期、先輩だったか後輩だったか、僕もちょっと覚えていない。梵天さんには、ちゃんとご飯を食べているのかどうか訊かれた。そんなに病的なのかな僕は。

 えびしゃの中村さんが、めっちゃ面白いですよ、と言っていたえざわぴーくさんにようやくお会いできた。ネタの小道具である被り物を見て、もうすでに面白いし、良いなぁと惹かれてしまう。リハーサルを端で見ていたけれど、ずっと面白かった。小道具はお父さんに作ってもらったらしい。お話しできて嬉しかった。


 お弁当を無心でお腹に入れて、エネルギーになれと念じていたら、番組の収録開始時間になっていた。


 現場でくじを引き、何ブロックの何番目になるか決まる。どきどきした。


 Cブロックの二番目だったので、とりあえず客席で待機。傍から見たら機嫌が悪いと思われていたと気がする。それほどまでに、自分でもブレーキが利かないぐらいには高揚して、目がとんがっていた。



 そこからはもうあっという間で、覚えているのはブロックで勝ち上がり、ガッツポーズをしようと思ったのだが、したことがなくて記憶をたどって、瞬時に映画「劇場」で永田が沙希を初めてデートに誘ってOKの返信が返ってきた時のガッツポーズに結び付いて、たぶん変なポーズをしたことと、二本目のネタの出番前で伝書鳩さんがめちゃくちゃウケていて怖かったことぐらい。たしかこのとき、新井さんが気合を入れるために「花?」と訊いてきたので、「ブービー」と答える流れだったが、「ビー」と答えた。

 ネタが終わって、審査員のハナコの秋山さんが97点をつけてくれて、それがとても嬉しかった。僕らが伝えたかったところが伝わっていたみたいで、こんな幸せなことはない。ますだおかだのますださんにも、顔が面白いと言ってもらえたので、ちょっとずつは成長しているのかもしれないとおこがましいけれど、一人噛みしめていた。


 最後、天明ブラウンさんと僕らのどっちが勝つかという勝負だった。正直、どちらが勝ってもSUMMITの優勝には変わりないなと互いに話をしていた。天明ブラウンさんはめちゃくちゃ面白いから、勝負事としてはあんまりよくないのだけれど、「どちらが勝ってもうれしい」と思いっきり言ってしまった。本心ゆえに言うべきじゃなかったかも、という反省ポイントではある。


 結果、勝てた。正直、怒りに近い集中と、涙を流す行為と、いろいろあって、勝利した感想を喋っている途中から妙に冷静になってきて、ぷかぷか浮いているような、でもカメラもあるしなと、無我夢中だった。そこはまだ怖くてオンエアを見ていない。大丈夫だっただろうか、まあ大丈夫か。


 終わって、楽屋に戻り、ド天国さんとうつけものさんがめちゃくちゃ面白かったと言ってくださった。それが心に刺さって、ありがたいなとしみじみ感じる。一緒に戦った人から言われる言葉としてこれ以上の物はない。この日に初めて、きちんとお会いして挨拶をする形であったので、これからもどこかでご一緒になったら嬉しい。



 帰りに無尽蔵の野尻さんと伝書鳩の三人と僕らで、つけ麺を食べに行った。みんないろいろ話していて、僕は何か話の取っ掛かりを作ろうと思い、つけ麺の特盛とチャーシュー丼を頼んだ。あめんぼさんたくさん食べるんですねと山田さんが言ってくれて、それで僕のターンは終わった。それでも、みんなの話を聞いているのは、楽しかった。


 そんな感じの、あの日だった。今年の起爆剤になればいいと思っている。あと、言っても言っても、圧倒的なパワーがほしい。こう、なんていうのかな、観た人がこれ以上見たら命にかかわりそうだと思わせるぐらいの。一人の人間の生き方として、格好いいぜ。










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