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束の間の知り合い

 2024年10月6日

 毎回,駅前におそらくいかがわしいお店かパチンコ屋のティッシュを配っている人がいる.というのも,配っている人は基本的に黒服のおじさんでインカムのようなものを付けているし,渡す相手もおじさんばかりだからだ.僕は今まで一度ももらったことが無かった.

 でも,今日なんと,初めてもらった.一体何が今までと違うのかは分からないが,僕は渡す相手の基準を満たしたらしい.ただなぜか,大丈夫ですと反射的に断ってしまった.結局,何のお店かは分かっていない.

 あと,毎回配っている人は違うのだが,雨の日も寒い日も配っていて,その中で大きなコートに大きな耳当てをしている人が印象的で覚えている.その耳当てがまあるいあんぱん二つに見えるので,あんぱんと心の中で呼んでいる.

 あんぱんは最近見かけない.


 道を歩いていると,たまたま歩く速さが同じ人がいて,少しの間一緒に歩くときがある.もちろん,気まずいので,僕は歩く速さを上げたり下げたりして,ずれる.でも,疲れているときはそのまま歩く.

 そうすると大抵,相手がどこかへ行くのだが,たまに相手も歩く速さを変えない時がある.知らない人が見たら,知り合い同士なのかなと思われるぐらい,一緒に歩く.嫌じゃないのかな.

 でも,寂しい時,それがすごく心地よかったりもする.車の助手席に乗せてもらったような気分.心の中で,失礼します,と言う.

 自分の中でも馬鹿げた感情だとは思うし,気持ち悪いことだとは分かっているから,結局はさっと自分でずれるのだが,なぜか本当に悲しいと思ってしまう.心の中で,短い間でしたがありがとうございました,と言う.


 刹那の間,知り合いになって,他人になって,知り合いになって,他人になって,それを繰り返して,街の中を歩いている.




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