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響いた!ユーフォニアム~9年の軌跡~1期第12話
©武田綾乃・京都アニメーション
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怒涛の11話が終わり、12話です。夏休みだろうが今日も今日とて練習。青春とコンクールは待ってくれない。
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滝「今のところ、ユーフォも入れますか?」
あすか「どこですか?」
滝「162小節目です、コンバスとユニゾンで。」
ここの滝、光源がすごいですよね。夏の厳しい日差しとその照り返しがよくわかります。観客が気にしない、気づきづらい部分こそ手をかける。ユーフォの強力な武器です。
さて滝からの不穏な提案。その真意やいかに…
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タイトルにはユーフォニアムの文字が。作品名が入る回は神回と相場は決まっていますが、11話の後にまた…?
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神妙な面持ちで練習する久美子。うちわを仰ぐりこと、教室全体の白がかった画面効果で湿度と暑さが伝わってきますね。
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まぁ先生の言うことも分かる。ここはちょっと音の厚み、弱かったもんな。
顔を洗ってきた後藤。普段少女しか絵に映らないので、絵に新鮮な空気を運んできますね笑
どうやら滝の提案は演奏の迫力を増すためのものだったようです。
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あすか「じゃあちょっとやってみるね。黄前ちゃん聴いてて?」
真剣な顔つきのあすかと聴衆。さっき言われたばかりの、それも本来担当ではないパートをさも当たり前のように吹くあすかに圧倒される一同。麗奈とはまた毛色の違う、圧倒的な威圧感を湛えるあすか。そう、ユーフォにはまだこの人がいる。安心感と畏怖を1:1でブレンドさせたようなこの人が。
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あすかに促され挑戦してみる久美子。
このみどりと夏紀の挿絵はほんの一瞬なんですけど、京アニさんはまたこういうことを手間なのに惜しげもなくやるんですよ。みどりは下がり眉の不安な表情ですが、ここはコンバスとのユニゾンなのでみどりは難易度を知ってるわけですよね。で、久美子の演奏技術も知っている。あすかが異常なだけで、今の久美子がこんな一瞬で吹けはしないだろうなという表情ですよ。対して夏紀はあすか先輩みたいに黄前ちゃんなら吹いちゃうのかな~という感じでしょうか。1秒くらいの演出ですが、本当に芸が細かいですよね。
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結果は葉月からみても明らかで、まだまだ習熟が必要でした。
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あの、わたし、個人練いってきます!
これはまずいと即座に個人練へ行くと宣言する久美子。もはや一刻の猶予もない喫緊の課題となってしまいました。
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麗奈「よくなってる。でもコンクール的にはダメ。」
久美子「…だよね。」
演奏を聞きつけてやってきた麗奈から、ダメ出しをうける。やると決まったからには、全国へ行けるレベルで吹かなければならない。時間的制約もなにもかも、言い訳にはできない。全体の印象のために、個人の腕を上げる必要がある。外面的な印象とは裏腹に、吹奏楽というのは本当に恐ろしい世界だと感じさせられます。
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ねぇ、麗奈。私うまくなりたい。麗奈みたいに、私、麗奈みたいに特別になりたい。
芽生えてしまった。久美子はたまたま元々持っていたのか、それとも元来人間にはこういった感情があるのかは分からない。とにかく芽生えてしまった。あすかの圧倒的な演奏、香織の健闘、滝からの期待、そして親友の目指す場所…さまざまな要因が絡み合い"目覚めさせて"しまった。
行く場所は栄光に満ちた花園か、それとも挫折と後悔が渦巻く荒れ地か、あるいは…
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じゃあ私はもっと、特別になる。
麗奈は自分にはないものを久美子に感じつつ、同質な部分にシンパシーを感じてもいる。それは久美子も同じ。お互いがお互いの安全弁として機能しているんですよね。久美子が特別になるのは構わないが、自分の特別はもっと特別なものである必要がある。無邪気な競争心と、目指す場所の遠さを印象付けるシーンだと感じます。
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その後も夕方まで練習し、戻ってこない久美子を呼びに来たみどり。当の久美子は熱中症で鼻血を流していた。あ、あぶないよ!
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保健室に行き介抱される久美子。渡された飲み物を一気に飲み干す。
いやー熱中症は怖いですよ。脳のダメージは不可逆なので、機能障害に陥ったらその後の人生は大変な苦痛を伴うものになります。みなさんも気をつけましょう、、
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もう大丈夫、吹いていれば治ると久美子。若さというパワーで解決。
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葉月「久美子、最近あついよね!前はどっちかっていうとクールっていうか冷めてるところあったのに。」
みどり「はい、今は月に全力で手を伸ばすぜ!って感じです!」
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月か…。よくわからないけど、でもうまくなりたいっていう気持ちは前よりも強くなった。熱いのか冷めているのか、そもそも今までの自分はどんなだったのか。とにかくあのオーディションの麗奈を見て、あの音を全身で受け止めてしまってから、完全に侵されてしまったのだ。うまくなりたいという熱病に…
まだ言及していませんでしたが、黒沢ともよさんの演技の抜け感って唯一無二だと思います。演技的なうまさを担保しながら、友だちと話しているかのような平易さがものすごく久美子にマッチしているんですよね。久美子という人間を伝える上で、絵と黒沢さんの演技が絶妙な化学反応を生んでいるように感じます。
久美子はやはりある種のランナーズハイというんでしょうか。練習とは次元の違う本物の演奏を麗奈から浴びせられ、完全にスイッチが入ってしまった様子です。コンクールで勝てない悔しさから泣いていた麗奈を訝しんでいた自分が、同じ麗奈から強烈なインパクトを受けるというのは、どこか悔しさみたいなのもあるんじゃないでしょうか。同じ年齢の子がここまで出来ているのに、一応小学生からやっている自分はどこまでできるのか、たどり着けるのか。うまくなりたいという裏には、複雑な事情が見え隠れします。
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川を挟んで練習をする久美子と秀一。不純異性交遊禁止ー!ピピー!
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帰路で葵と出会う。全国いけそう?と訊かれ、わからないけど春よりも段違いにうまくなった、と久美子。
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久美子「葵ちゃん。吹部辞めたこと、後悔してない?」
葵「してないよ、全然してない。私は吹部より受験の方が大切だったから。多分部のごたごたがなくても辞めてたと思う。私には続ける理由がなかったから…。」
いや~、またしても技巧が光るシーンですね。ここの舞台はあじろぎの道という、宇治に実際にある散歩道のようです。さて久美子が葵に問い掛けをしたシーンで久美子は街頭に照らされ、葵は闇夜の中にいます。今は迷いなく目の前の目標に向かうだけの久美子と、どこか気持ちを清算しきれない葵の心情を表しているんでしょうね。それはつまり吹奏楽自体に未練がないのは本当かもしれませんが、夢中になれる青春を手放してしまった、そうせざるを得ないと決断できてしまった自身の精神性にある種の劣等感ややるせなさを感じているんでしょう。上達したいわけでもない、退部することを本気で引き留める友人もいない(と思い込んでいる)、全国もどうでもいい…けど。けど、それらを望む前向きな心を持てていたら私も…という哀しみを感じるんですよね。イケイケドンドンな吹部勢との対比が苦しいですが、リアリティがある描写だと思います。ユーフォのキャラは本当にみんな細部が違っていて、作品に深みをもたらしていますよね。
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帰宅した久美子は、同じく家に帰っていた麻美子に会う。吹部を辞めた葵と、同じく受験を機に吹部を辞めた姉の姿が重なる。同じ3年生でも部活を続ける人と続けない人がいる、そこには一体どんな差があるんだろう。葵ちゃんは辞めたことを100%納得してる様子じゃなかったけど、自分も2,3年生になるにつれてそうなっていくのだろうか。
BGMは「張りつめた糸のように」。まさに久美子の心情をよく表した不穏な曲ですよね。7年やってきても大成しないのにやってて意味があるのか、勉強に力をいれようか、先生に言われたユニゾンのパートを吹けるようになるんだろうか…。さまざまな思いが交錯します。
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しゃらくせぇ!特別になるんだよ!
集合住宅で、しかも夜にユーフォを爆奏する久美子。いいですね~青春の葛藤の発露。もうよく分からないカオスなんですよね。学校の丘で麗奈が行ったものとは違う、もっと原初の感情。思春期の久美子には大きすぎる問題。
なぜ漫画で少年少女の主人公が多いかと思ったことはないでしょうか。答えは単純で、行動がカオスだからです。大人は色々経験して大体のことに説明ができ、かつ体力が減っているので楽で波風の立たない方策を選びがちです。ですが少年少女はあらゆることが人生での初体験、そして解決策も分からないからこそ奇想天外で型破りな行動をとれる。ココが絵になるから、少年少女は主人公として据えやすいんですよね。と同時に彼女らの成長って実は味気ない何かへの退化も同時に発生する矛盾性もはらんでいて。つまり高校3年生時のコンクールを集大成だと強制的に区切られることは、大人と子どもが入り混じった魅力的な彼らを見れるいい機会なんです。
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明くる日。今日も今日とて練習です。上達に近道はない。
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ちょくちょくクローズアップされるこの子は誰なんだろう…?いつも冷静で落ち着いてみえるなぁ…
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トロンボーン、いま出だしで躓いたのは誰ですか?と問われ手を挙げる秀一。練習でできないことは本番でもできない、そう言われ「はい」と力なく答えます。
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162小節目から一人ずつ聴かせてくれ、と滝。コンバスとのユニゾンのパートだが…
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黄前さん、そこ、難しいですか。本番までにできるようになりますか?本番でできないということは全員に迷惑をかけるということになりますよ。もう一度訊きます、できますか?
久美子への容赦ない追求。これは死の行軍なのだ。全国という頂に至るためには、取捨選択が必要になってくる。使えるものを使い、使えないものは切り捨てる。そこに甘えや慈悲はない。
一人ずつ、というがあすかは吹かなかった。彼女は滝の中で及第点、或いはそれ以上の水準にあるんでしょうか。香織にとっての麗奈と同様に、久美子にもやっかいな同志がいますね。
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はい、できます!!
虚勢でもいい。できるかできないかじゃない、やるんだ。滝の想像する自分を、本物の自分が一歩先を行く。香織が示してくれた姿を、受け取る久美子。
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…わかりました。
滝は久美子の意思を汲む。メガネを曇らせ目を見せない演出、いいですねぇ。
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その指、息の強さとタイミング。求めるべき音はちゃんと頭で鳴っているのに、実際にその音が出ないもどかしさ。次々と確実に狙った力加減で、狙った息の強さで、狙った音をリズムに合わせて出していくことが如何に難しいか、私は思い知らされていた。
純粋な技術の壁にぶち当たる久美子。練習すればできるのか、それともある水準以上にはならないのか。不安の中を進んでいきます。
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まず飲む、と麗奈が現れる。熱中症をあまくみるな久美子!笑
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合わせようと提案する麗奈に、うん!と久美子が答える。屈指の実力者である麗奈から誘われるというのは、自信につながりますよね。今は別パートの人だからいいけど、もそんな心配はまだ欠片も持っていない久美子なのでありました。
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Bパートへ。朝から練習する久美子の音を聞いて微笑む麗奈。よしよし、私の下僕は練習に勤しんでいるようだ的な笑
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おはよ~、と挨拶を交わす3人。そうなんです、迫力に圧倒されていましたが、同じ部の同じパートの3人なんですよね。実際は優子と香織も、全国へ行くという一点では麗奈を頼もしく思っているでしょう。
優子と香織も、練習に苦戦する久美子の身を案じている様子です。
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あの、ずっと言いたかったことがあって。オーディションの時、生意気言ってすみませんでした。
麗奈は麗奈でやはり思う所があったみたいですね。傲慢さを持ちながら、きちんと謝罪できるとはやり手だ。
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ううん、こちらこそ、付き合せちゃってごめんなさい。
香織もまた大人の対応。喉元すぎれば、でしょうか。終わったことは終わったこと。後悔はあるけど、区切りはつけた。今は同じ船に乗る船員として、この航海を無事に成功させないといけない。3年生として背中で覚悟を見せつける香織、かっこいいです。
そして後ろにいるのは北宇治高校に巣食う悪霊でしょうか…茶髪で血色がやたらにいいですが…
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なーに赤くなってんの。
正体は夏紀でした笑
ここの優子かわいいですよね。中吉川なんてファンの間では言われますが、このふたりの関係性はとてもいいものです。
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コンクールまであと10日です。各自課題にしっかり取り組んで、練習に臨んでください。
コンクールの日が近づく。言い訳なしの一発勝負。できる限りまで己を高めたい。
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テーピングで手がぐるぐるのみどり。さすがは名門出身、笑顔で取り組んでいます。
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りこからうまくなったと褒められる久美子。「じゃあ一丁、黄前ちゃんに稽古つけてやっか!」とあすか。スーパーユーフォ人の稽古、苛烈を極めそうです。
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その時はまだ10日ある。このまま練習を続ければなんとかなる、そう思っていた。
不穏な独白が入ります。
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トロンボーン塚本くん。今のを常に吹けるように。
ふいに出される滝からのOKサイン。しかし過剰に褒めそやすことはない表現でした。合格ラインではあるが、まだ全国には足らない。そういった意図が含まれていることを、秀一は読み取ったようです。嬉しさと僅かな焦りが体表を覆います。
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トランペットはきちんと音を区切って。ホルンはもっとください。
全体に指摘を入れる滝。その顔には真剣さがにじみます。そして…
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滝「それからユーフォ。ここは田中さん一人で演ってください。」
あすか「ッ…!」
件の162小節目、できる!と久美子が言い放った箇所に容赦のない裁定が下される。珍しく狼狽えるあすかが非常に印象的なシーンですよね。平時の練習でこのような姿のあすかはココくらいじゃないでしょうか。彼女の中では少なくとも及第点ではあったことが伺えるものの、滝の中ではそうではなかったようです。滝の指導者としての選球眼が、常人離れしてるとはいえまだ高校生のあすかとは乖離があることを示した名シーンじゃないでしょうか。
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低音パートと麗奈に衝撃が走ります。
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滝「田中さん、きこえましたか?」
あすか「はい。」
すぐにマインドを滝レベルに修正するあすか。
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時が止まる久美子。
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それは一瞬だった。反論の隙も猶予もなく、先生はそれだけ言うとすぐ演奏にもどった。そう、これは関西大会進出を賭けた戦いなのだ。
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これだけ時間をかけてやってきた。それに私は経験者だ、葉月とはワケが違う。それでも届かない、全国レベルという水準。茫漠とした道のりが久美子の前に広がっている。
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いつも通りに接する二人。本当に本当に、この二人が隣にいてよかった。
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久美子ちゃんは月に手を伸ばしたんです!それは素晴らしいことなんです!
みどりの励ましは虚しく、久美子の頭を掠めて通り過ぎ、みなと別れ一人帰路に就く。
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うまくなりたい。誰にも負けたくない、誰にも…
大きな話題を呼んだシーンですね。担当は麗奈の髪掻き揚げシーンも担当した、木上益治さん(三好一郎名義でのクレジット)です。木上さんの先輩である本多敏行さんは、木上さんの腕前をこのように語っています。
描いた原画を彼に渡すと動画を描いてくるんだけど、普通に中を割ってくるだけじゃなくて、原画を描いた人間が予想もつかないような動きを自分でその中で作ってきちゃうんです。自分が描いた絵よりすごい絵になってくる。こっちの期待を上回る結果を動画で出しちゃう。例えば時代劇で、刀を持った侍がフラフラっとなるシーンで、普通だと原画と原画の間をただ割ってしまうんだけども、彼はそこに一歩よろけを付けたりとかする。一つ動きを付け加えてきたりするんですよ
怪物くんやキャッツアイを筆頭に、数々の京アニ作品や往年のジブリの名作まで幅広く手腕を振るわれてきた方です。顔を上げながら、腕を振り上げ走るなんでもないような動きですが、計算されつくした中割りとレイアウトを感じる技巧的なシーンです。初めて大きな挫折を味わった久美子の心情を見事に表した、屈指の名作画といえるでしょう。
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うまくなりたぁ~~~い!
やり場のない思いを虚空へ叫ぶ久美子。自分でどうにかなるものは神に祈らない、己の中で反芻し力に変えなければならない。
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秀一「おーい久美子、なにやってんだ?」
久美子「うまくなりたい…」
秀一「えー?」
久美子「うまくなりたいって言ってんの!!」
秀一「そんなの、俺だってうまくなりてぇ!」
久美子「私の方がうまくなりたい!」
秀一「俺の方がもっとうまくなりてぇ!」
おいおい、大衆の面前でイチャイチャすな!!笑
いいですね~、青春全開!全力で向き合っているからこその、感情のぶつけ合いです。
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私のホウガッ…くやしい…悔しくて死にそう…
も~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!黒沢ともよさんのここの演技!!!!!!すごすぎる!!!!!なんもいえねぇ!!!!!!!!!!(某水泳選手)
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頭に響いてきたのは「地獄のオルフェ」。そして久美子は悟った。
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その時私は知った。その辛さを。あの時麗奈はどんな思いでいたかを、私は知ったのだ。
圧巻のストーリーライン、展開。言葉がないです。視聴当時固まったのを覚えています。11話で完膚なきまでに殴られ、次の話くらい落ち着いたものになるだろうと思っていたが良い方向で裏切られました。久美子はストーリーテラーでもあるので、つまり視聴者の目線にもいます。麗奈や香織たちがどんな辛酸を嘗めてきたのかを、今までは外面だけでしかわからなかったんです。それをまざまざと久美子を通して我々は体感した形ですね。地獄のオルフェを聴いて吹部への入部の意思を固め、そして今度は特大の挫折とともに頭の中に流れ、先人たちの苦労を知ったのでした。
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ヤ◯チャ笑
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麻美子「あんたちゃんと勉強してんの?」
久美子「お姉ちゃんに関係ない。」
麻美子「部活ばっかして。今から真面目に勉強しておかないと、大学入れないよ。」
久美子「お姉ちゃんなんて受験で吹部辞めたくせに希望の学校いけなかったじゃん。意味ないよ」。
麻美子「うるさいな。音大いくつもりないのに吹部続けて何か意味あるの?」
久美子「ある、意味あるよ」
麻美子「どんな意味よ!」
久美子「私ユーフォ好きだもん。私、ユーフォが好きだもん!」
普通の大学を受験するために吹部を辞めた姉と、音大に行くつもりがないのに吹部を続ける久美子。自分をユーフォニアムに導いた人間が、進路のために音楽を辞めた。ましてそれは実の姉。久美子はユーフォが好きだと、麻美子を牽制する。
麻美子はかつての自分と妹を重ね、大して得るものものないし、さっさと辞めて勉強へ舵を切るよう促す。不器用な物言いですが、彼女なりに久美子を慮ってのことなので責められないですよね。
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私、ユーフォが好きだ。
久美子はここで葵が思い浮かんでいたのではないかと、私は思います。続ける理由がないと言い切った葵。ユーフォが好きだから部を続けるというなら、葵は楽器が嫌いだったのか。いやそんな訳がない。であれば、ユーフォが好きくらいじゃ部活を続けられないんじゃないか、いつか自分にも吹奏楽に見切りをつける日がくるんじゃないか、これだけ青春という種火を燃やしているのに、いつかは消えてしまうんじゃないか。そんな底しれぬ恐怖が久美子の身をすくませます。
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忘れ物をしたと学校へ戻る久美子。滝は普通に残業か、あるいはさらに演奏が高みに登るにはどうしたらいいかを考えていたのでしょうか。
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忘れ物はケータイでした。滝は「使ってませんよね」と杓子定規な指導をいれます。
最近教頭から練習させすぎだとお叱りがあると、滝。久美子は「はぁ」としか言えません。滝目線の部員と、部員目線の滝。この辺りの対比もユーフォを楽しむ上で重要ですよね。
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滝「私の父は十年前まで、この学校の吹奏楽部で顧問をしていました。ですからこの学校に配属された時は、少しうれしかったんです。」
久美子「プレッシャーとかなかったんですか?お父さんと同じ仕事って。」
滝「さぁどうでしょう。小さい頃は父と同じ仕事に就きたいなんて思ったこともなかったのですが。でも選んだのはこの仕事でした。結局好きなことってそういうものなのかもしれません。」
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ですよね、好きってそれでいいんですよね。
今度は麻美子との対比ですね。望むと望まざるに関係なく"好き"に従順である、そういうものであると語る滝に同調する久美子。しかしまだひとつのことを好きでいられるかどうかという問題は解決できていません。それがみんなできれば、世の中に後退や諦めはないことになる。数多の先人がどのように物事を諦めてきたのか、まだそれを久美子は知る由もないのです。その青さが武器でもあるのですが。
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滝「吹けなかった所、練習しておいてください。次の関西大会に向けて。あなたの出来ますという言葉を、私は忘れていませんよ。」
久美子「はい!」
この時の久美子にはこれがプレッシャー聞こえたのか激励に聞こえたのか、或いはその両方か。どちらにせよ、できるようにならなければ部全体として全国出場から遠ざかることだけは分かっているんです。香織やあすかが通ってきた道のりを今、辿ろうとしている。
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麗奈を呼駅へ呼び出す久美子。
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今まで滝先生と二人きりだったんだ!それでね!
重大なプログラムエラーが発生する麗奈笑 シリアスシーンが続く中でも、しっかりお笑いを入れるユーフォすばらしい。久美子は「ユーフォが好き!」と自信たっぷりに、また不安な心を押しつぶすように宣言するのでした。
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そして次はいよいよコンクール本番です。酸いも甘いも連れて、まずは関西を勝ち取る。チーム北宇治、初陣です。
編集後記
ということで12話でした。11話からテーマを引き継ぎつつ、久美子の葛藤が描かれた名場面満載の回でしたね。特に吹部を、ユーフォを続けるかどうかというのは久美子の一貫したテーマでもあり、種が蒔かれた回でもありました。香織の問題が一段落したことで、麻美子や滝といった大人側の話も徐々に埋め込まれていきます。
同一のテーマを多くの視点から描き、回答が変わる様子というのは哲学性があって見応えがありますよね。そもそも大人は別段解決する力が強まるのではなく、諦める材料を多く持っているだけなのかもしれません。
さぁ次がいよいよ1クール目の最終話です。入部すらためらっていた久美子が涙を流しながら奮闘するまでに至った北宇治の物語はどのような局面を迎え、部員たちは何を思うのか。乞うご期待!