第三百二十二夜 『ゴールデンカムイ』
「かつて経営をしていたときはどんなことから始めたのですか。」
「雪かきです。」
「雪かきですか。それを仕事にしたんですか。」
「いえ、今からもう10年以上前の話ですからね。今よりも訪問営業だったりが一般的な時代でした。そのため私は北海道に拠点をおいて仕事をすることに決めました。北海道か福岡。最後まで悩んでいました。」
「その2択で北海道を選んだのですね。どうして北海道に。」
「まずは地方都市の中で、勢いのある地域を選びました。最後の決め手は、暑さが苦手なので。」
「相変わらず、暑さが苦手だったのですね。確か当時はリフォーム業でスタートしていましたよね。」
「そうですね。行ってみて、一番困難だったのはその点です。リフォームしようにも雪で外壁が見えないことはザラにありました。そもそも、お客のお宅にたどり着けません。」
「雪が物理的にも障害になっていたんですね。」
「そんなこと言っても、数字は作らなくてはなりません。そのために雪かきをしたんです。」
「先ほど行っていた内容ですね。」
「はい。雪かきのお手伝いをして、話を聞いてもらいました。こうすると雪かきでお客様の負担を解消しつつ、我々は外壁の状況も把握できるし、お宅にもあげていただけるようになりました。」
「豪雪地帯だからという逆境を上手に転換したのですね。」
「今はこんな風に話していますが、そんな簡単な話ではなかったですよ。関東のイメージする雪かきとは全然違いますからね。」
年末も近づき、彼とランチの時間を取れたので、過去に彼が経営を始めた時の苦労や思いなどを聞いてみた。
懐かしそうに語る彼の口調は穏やかであったが、おそらく当時はそんな穏やかな心持ちではないのだろう。
様々な失敗譚も聞いたが、一番私の心を強く揺さぶったのは、雪かきの話であった。
逆境にあってもできるから逆算して数字を作っていった彼のその考え方は雪をも溶かす熱いエピソードだった。
また1時間と言いながら2時間も彼から話を聞いてしまった。
年末である。
今夜で一応のアメリの業務は一度締まる。
彼の過去の言外の苦労を考えながら移動のため電車に乗る。
まだまだ世間は慌ただしく動いている。
物語の続きはまた次の夜に…良い夢を。