第百九夜 『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』
N様は3年ほど前に二度三度だけ、お話をさせていただいただけの方であった。
当時勤めていた会社の商品ではお力になれることはできなかったものの。
会社の代表として個別面談を行う私は利にならない相談を解決した。
それがつい先日、N様の方から連絡が届いたのである。
「お久しぶりです。覚えておりますでしょうか。I駅にて面談をしていただいたNです。おかげさまで今木造アパートを3棟所有し、さらに資産を拡大しようと考えておりまして、またお話しできればなと思うのですがいかがでしょう。」
純粋に懐かしいと思った。海外赴任経験等強烈なキャラクター性を持つ方であったので、記憶に残っている。
「お声かけありがとうございます。私もは実は独立して会社を立ち上げました。Nさんにとっても良いものを今はお話出来るかもしれませんのでぜひお会いしましょう。」
N様の返事は早い。
「それでは以下の日程でぜひ御社に伺わせてください。自分も成長したかと思いましたが、独立して会社をお持ちとは。さすがですね。」
軽快なテンポで日程を提示してくださった上に、ご足労いただけるということだ。
「ありがとうございます。Nさんのご成長の話もぜひ聞かせてください。」
さて、これは株式会社アメリにおいては当たり前の光景である。
逆アポイントととでも言おうか。
私と彼はこういったケースが非常に多い。
我々は退職時に過去の顧客のデータは全て置いていくものの、お客様側の連絡先には残っていることがほとんどである。
その中から一部の方はこのようにご連絡とご依頼をいただけるのである。
それはおそらくお客様にとって「感動」を与えることができたからだろう。
感動という定性的な言葉を彼は嫌うだろう。
しかし、私は接客業を行っていた時に、常に社員教育の場で伝えていたことがある。
もちろん私が考えたのではなく、会社の企業理念に書いてあることなので、当たり前に全従業員ができるようにならねばならぬことであるが、殊更、これは教育することが多かった。
お客様にとってニーズを満たすのは当たり前である。そのさらに一歩先の潜在欲求を引き出して「感動」を与えて初めてロイヤルカスタマー(ファン)になる。
ラーメン屋でラーメンが出てきただけで喜ぶ人はずつは少ないだろう。
そこに予想外のおいしさや、サービス、自身にとっての立地の良さ等が付加されて初めてその店に通おうとなるのである。
私と彼は勤め人の時代から常にお客様の前に立ったら自分が会社の顔であると腹を括って対応をしていた。我々の一挙手一投足が会社のブランドであると。
その結果、潜在欲求を満たせたお客様に関しては、向こうからアポイントを切ってくれるのである。
営業の仕事のおもしろさは売ることではなく、こういった予期せぬ縁を結べることなのかもしれない
物語の続きはまた次の夜に…良い夢を。