ぞうきん
ある日、小学校の掃除時間、1年生のクラスでぞうきんの取り合いが起こった。
「これは僕のだ!」 「違う!わたしが昨日家で作ってきたんだから!」
ケンとサキが、たった一枚のぞうきんを挟んでにらみ合っていた。
そのぞうきんは、どこか普通のものとは違っていた。真っ白ではなく、うっすらと古びた茶色がかった色をしている。そして、何か不思議なことに、触れるとほんのり温かいのだ。
「先生、これ、誰のか分からないけど、不思議なぞうきんなんだよ」とクラスの誰かが言った。
先生がそのぞうきんを手に取ると、ふと考え込んだ。「ああ、このぞうきん、もしかしたら…」
先生は少し笑って、「この学校には、ちょっと昔の秘密があるの」と静かに話し始めた。
「何十年も前、この学校で働いていたおばあさんがいてね、毎日みんなが使うぞうきんを、心を込めて作っていたんだ。彼女は学校のみんなが元気で安全でいられるよう、願いを込めて一枚一枚縫ったんだよ。でもある日、そのおばあさんが急に学校を去ることになって、最後に一つだけ、特別なぞうきんを残していったと言われている。」
ケンとサキは顔を見合わせ、ぞうきんをじっと見つめた。まさか、自分たちがその特別なぞうきんを手にしているとは思ってもいなかった。
「このぞうきんは、きっとみんなに力をくれる。だから、争うんじゃなくて、みんなで使おうよ」と先生は優しく提案した。
その日から、クラスのみんなはそのぞうきんを大切に使うようになった。毎回ぞうきんで机や床を拭くと、少しずつ教室がピカピカになるだけでなく、不思議と心も明るく、仲良くなっていった。
「やっぱり、あのおばあさんの願いが込められていたんだね」とサキが笑い、ケンもうなずいた。
そのぞうきんは、学校の宝物としてずっと大事にされていくことになった。