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赤い車

*ホラーです

大学生のユウタは、中古車ショップで「掘り出し物」として売られていた一台の赤い車を手に入れました。安価なわりに、ボディはぴかぴかでエンジンも好調。「これはラッキーだ!」と喜び、早速その赤い車でドライブを楽しむことにしました。

しかし、最初の夜、異変はすぐに起こりました。走っている途中、バックミラーに一瞬映った人影。ユウタは驚いて振り返ったものの、車内には誰もいません。「気のせいだろう」と自分に言い聞かせ、アクセルを踏み続けました。

数日が経つにつれ、車内の異変は増えていきました。後部座席で何かが動くような気配、窓に指で描かれたような曇り模様、そして夜になると、車のスピーカーから聞こえる謎のささやき声。「おかえり」「待っていた」そんな声が、エンジンを切っても止まることはありませんでした。

ユウタは怖くなり、友人のタケシに相談します。タケシは、「車に何かあるんじゃないか?」と怪訝な表情で言い、ネットで車の過去を調べ始めました。すると、衝撃的な事実が判明しました。その赤い車は、数年前に大きな事故に巻き込まれ、乗っていた家族全員が亡くなった車だったのです。

「この車…ただの事故車じゃない。霊的なものが絡んでいるかもしれない…」

恐怖が膨らむ中、ユウタは車を手放す決意を固めました。しかし、手放そうとするたびに、車が異常な音を立てて動かなくなります。まるで彼を拒むかのように…。

ある晩、ユウタは意を決して、車を廃車場に持ち込むことにしました。しかし、廃車場に近づくにつれて車のハンドルが勝手に動き、進路を変え始めました。ブレーキも効かない。スピードはどんどん上がり、ユウタの体はシートに押しつけられます。バックミラーを見ると、後部座席に人影が…それは、血まみれの家族が無表情で彼を見つめていました。

「おかえりなさい…」

耳元で聞こえたその声と同時に、赤い車は暗闇の中に消え、ユウタの姿も二度と誰の目に触れることはありませんでした。

数日後、新聞には「若者失踪」の記事が掲載されましたが、ユウタの行方はわからずじまいでした。そして、あの赤い車は、再び中古車ショップの目立たない隅に静かに停められているのでした。


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