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隣のおばあちゃんの秘密


町外れの静かな通りに、ひとり暮らしのおばあちゃんが住んでいました。彼女の名前は鈴木トメさん。歳をとっても元気で、いつも庭で野菜を育てていました。子供たちが学校から帰る時間になると、トメさんは毎日決まって家の前に座り、笑顔で「おかえり」と声をかけてくれました。

ある日、僕は友達と帰り道を歩いていると、ふとトメさんの家の前に見慣れない大きな箱が置かれているのに気づきました。古ぼけた木箱で、上には「大事なもの」と書かれた紙が貼ってありました。友達と顔を見合わせ、何が入っているのか気になって仕方がありませんでした。

翌日もその箱は同じ場所に置かれていました。トメさんは庭で忙しそうにしていて、僕たちには気づいていない様子。思い切って近づいてみると、箱のふたが少し開いていて、中をのぞけそうでした。

「ちょっとだけ見てみようか?」友達がささやきました。

僕はドキドキしながら箱をそっと開けました。すると、中には色とりどりの毛糸の玉や、古い写真、そして一冊の手書きの日記が入っていました。その日記には、トメさんが若かった頃の思い出が綴られていました。彼女は戦争を経験し、大変な苦労をしてきたけれど、どんな時でも家族や友達のために明るく振る舞っていたことが書かれていたのです。

読み進めていくと、トメさんが毎日笑顔で「おかえり」と声をかけてくれる理由が分かりました。それは、彼女が戦時中に帰ってこなかった家族をずっと待ち続けたからでした。今はその寂しさを、近所の子供たちに優しさを向けることで埋めているのだと。

その日の帰り道、僕は友達と話し合い、トメさんには何も言わないことに決めました。それからも、僕たちは毎日トメさんに「ただいま!」と元気よく挨拶するようになりました。トメさんの笑顔が、少しでも明るくなったように感じたからです。


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