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秋の海に消えた微笑み

秋の海は、夏の賑やかさを忘れたかのように、静寂が広がっていた。波は優しく、砂浜にそっと触れるように寄せては引いていく。どこまでも続く水平線が、空と溶け合って幻想的な景色を描き出していた。

玲奈は、砂浜に座り込み、冷たい潮風に髪を揺らされながら遠くを見つめていた。彼女にとって、秋の海は特別な場所だった。恋人の拓也と過ごした数年前の夏の日々が、鮮やかに蘇る場所。だが、その思い出はいつも儚く、どこか切なさを伴っていた。

「拓也…」玲奈は、小さな声で名前を呼んだ。拓也はもうこの世にはいない。突然の事故で彼は帰らぬ人となった。彼との思い出が詰まったこの場所に来ることで、玲奈は彼と再び繋がれるような気がしていた。

夕陽が沈む頃、玲奈は立ち上がった。海辺に漂う薄い霧が、幻想的な風景をさらに深めていた。すると、遠くに人影が見えた。玲奈は目を凝らして、その人物を確認しようとしたが、霧が濃くてはっきりとは見えない。だが、どこか懐かしい雰囲気を感じた。

その影が次第に近づいてくる。玲奈の胸が高鳴った。その歩き方、シルエット、そしてその気配――まるで拓也がそこにいるかのようだった。玲奈は無意識に足を前へ進めた。

「拓也…?」彼女の声が震えた。

影はゆっくりと玲奈の前で立ち止まり、霧の中から現れた。その顔を見た瞬間、玲奈の心は一瞬で温かくなった。そこに立っていたのは、まさに拓也だった。

「玲奈…」拓也が優しく微笑んで、手を差し出した。彼の声は柔らかく、どこか遠くから響いてくるようだった。

玲奈は涙を浮かべながら、その手を取った。手の感触は驚くほどに温かかった。二人は何も言わずに、ただ静かにその場に立ち尽くしていた。

そして、拓也が再び口を開いた。「玲奈、ありがとう。君がここに来てくれて嬉しいよ。でも、僕はもう行かなきゃならない。君はこれからの人生を前を向いて歩んでほしいんだ。」

玲奈は言葉を失った。だが、彼の目を見つめると、その言葉が心に深く染み渡った。

「さようなら、拓也。」玲奈は微笑んで、最後に彼の手を握り返した。

その瞬間、拓也の姿はふっと消え、霧の中に溶け込んでしまった。

玲奈は静かに涙を流しながら、海を見つめ続けた。秋の海は再び静寂に包まれていたが、玲奈の心には新たな決意が芽生えていた。彼女は一歩踏み出し、未来へと歩き出した。


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