最後の乗客
深夜のバスは、街を離れ暗闇の田舎道を走っていた。乗客はたったの4人。運転手は目の前の道に集中し、退屈そうに目を細めていた。
車内は静かで、エンジンの低いうなり声だけが響いていた。だが、その静寂が突然破られた。後部座席の一人が不意に叫び声を上げたのだ。
「誰か、いますか?!」
その男は、後ろの席をじっと見つめている。だが、そこには誰もいない。運転手はミラー越しに男の顔を見たが、他の乗客は無反応だった。
「幻覚でも見たんだろう。疲れているんだ」と、運転手はつぶやいた。
しかし、次の瞬間、バスのライトが一瞬、ちらついた。乗客たちはざわめき始める。さらに、バスのエンジンが異常な音を立て始めた。
「なにかおかしい…」
運転手は、車両の異常を確認するため、バスを路肩に停めた。エンジンを止め、後ろを振り返る。
「みんな、落ち着いてくれ。少し外の様子を見てくる」
運転手がバスを降りると、冷たい風が彼を包んだ。辺りは真っ暗で、ただ風が草を揺らす音が聞こえるだけだった。だが、彼は何か異様な気配を感じた。
そしてその時、バスの窓からもう一度叫び声が聞こえた。「あれを見ろ!後ろに…」
運転手が振り返ると、バスの最後尾に影が見えた。それは、確かに何かが動いているようだった。彼はバスに急いで戻ろうとしたが、その瞬間、ドアが閉まり、バスは突然動き出した。
「おい、待て!」運転手は必死にバスを追いかけたが、バスは無人のまま闇に消えていった。
翌朝、バスは街外れの森で発見されたが、乗客も運転手も行方不明だった。ただ一つ、最後の乗客がバスの後部座席に座っていたという証言だけが残された。