![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/154178971/rectangle_large_type_2_93d0d167c962bea96cafa2253d344d71.png?width=1200)
自社株買い:知っておくべき、投資に役立つ重要キーワード17選【米国株編】⑪
近年、耳にすることが多くなった米国企業の『自社株買い』。米企業が行う、もう一つの株主還元策、配当に比べ、自由度が高いことや税金面での便利さ等の理由で活発化しています。このnoteでは、自社株買いの目的や盛んになった背景、そして今後の課題を探ります。
自社株買いの歴史
自社株買いは、米国では1980年代から本格的に広まり始めました。それ以前は、自社株買いは株価操作とみなされる可能性があり、あまり一般的ではありませんでした。1982年、米国証券取引委員会(SEC)が規則10b-18「安全港ルール(*Rule 10b-18)」を制定し、自社株買いに関する法的な枠組みが整備されます。
米国企業は「Rule 10b-18」の規制緩和が大きな転機となり、特定条件を満たせば合法的に自社株買いが可能となりました。法的リスクの軽減により、自社株買いは企業のキャッシュフローを活用した株主還元の重要な手段となります。これ以降、自社株買いが急速に普及していきます。
拡大とパンデミック
さらに、1990年代以降米国企業の間で自社株買いが急速に拡大し、特に2000年代に入ってからは、多くの大企業が積極的に実施するようになりました。
2008年の金融危機後、企業の業績回復と手元流動性の増加を背景に、自社株買いが活発化、米国企業による年間の自社株買い総額が1兆ドルを超える年も出てくるまでになります。
コロナ禍における米国企業の自社株買い
しかし、
コロナ禍の影響で、米国企業の自社株買いは大きく減少。S&P500構成企業の自社株買い規模は、2018年のピーク時の年間約8,000億ドルから、2020年7-9月期には1,048億ドルまで落ち込み、52%のマイナスとなりました。時価総額比でも
2018年10-12月期の0.92%から2020年7-9月期には0.36%まで急低下します。
自社株買いが減少する一方で、米国企業の現金・現金同等物は増加。(2019年10-12月期の約1.9兆ドルから2020年7-9月期には約2.5兆ドルまで増加し、約0.6兆ドル(約62.4兆円)の待機資金が蓄積されました。)多くの企業が、先行きが不透明な状況下で危機対応として現金を積み増す動きを加速させました。(2020年3月27日に成立したCARES法により、政府支援を受けた企業(航空会社など)が、また米大手銀行は、FRBによって2020年末までの自社株買いが禁止されています。)
このように、コロナ禍において米国企業は自社株買いを大幅に抑制し、代わりに現金保有を増やす傾向にあったことがわかります。しかし、経済の正常化が期待される中で、2021年以降は自社株買いの再開が本格化する可能性が高まっていました。
近年の自社株買いの動き
2021年以降、米国企業の自社株買いは高水準が継続。2024年に合計で米企業は8,260億ドル(約123兆1,000億円)相当の自社株買いを実施する意向を表明しており、今年の実績が1兆ドルを超えると予想している市場関係者もいます。
なぜ、企業は自社株買いをする?
自社株買いの目的とメリット
企業が自社株買いを行う主な目的やメリットは、
株主還元の柔軟性:配当に比べて実施時期や金額の自由度が高い。
税制上の優位性:配当は受取時点で株主に課税されますが、自社株買いでは株主が保有株式を売却するまで課税されません。
一株当たり指標の改善:発行済み株式数を減少させることで、EPS(一株当たり利益)やROEなどの業績をあらわす指標が改善できます。
シグナリング効果:企業が自社株買いを公表することで、市場に対して自社の株価が割安であるというシグナル(信号)を送る効果を言いますが、
経営者は投資家よりも自社の将来性や真の企業価値についてより多くの情報を持っていますので、自社株買いの公表は企業と投資家のコミュニケーションツールとして機能し、市場の効率性向上に寄与する可能性を秘めています。また、経営陣が手元資金を温存しないで、自社株買いをするのは、将来の業績に自信を持っているあらわれにもなります。株式希薄化の防止:ストックオプションなどによる潜在株式数の増加を相殺。
「Rule 10b-18」とは
『Rule 10b-18』通称「安全港ルール」は、企業が自社株買いを行う際に、市場操作の疑いを回避するための指針を提供する米国証券取引委員会(SEC)の規則です。
目的
このルールは、企業が自社株買いを行う際に、証券取引法違反の疑いを回避するための「安全港」を提供します。
主な条件
Rule 10b-18に従うためには、以下の4つの条件を毎日満たす必要があります。
取引方法: 1日の取引は1つのブローカーまたはディーラーを通じてのみ行う。
取引時間:
取引開始時の最初の取引は避ける
取引終了前の10分間(一部の株式は30分間)は取引を避ける。
価格: 購入価格は、その時点での最高独立買い呼び値または最後の独立取引価格のいずれか高い方を超えてはならない。
取引量: 1日の総取引量は、過去4週間の1日平均取引量(ADTV)の25%を超えてはならない。
ポイント
このルールは強制ではなく、企業が自主的に従うことで法的責任のリスクを軽減できる指針。
Rule 10b-18に従わなくても、必ずしも市場操作に該当ならず。
四半期ごとにForm 10-QやForm 10-Kで、自社株買いの詳細を開示する必要があります。
2023年5月に新しい規則が採択され、企業は日次ベースでの自社株買い情報を四半期ごとに開示することが求められるようになりました。
注意点
もちろん、このルールは、インサイダー取引や他の不正行為から企業を保護するものではありません。企業は重要な非公開情報を保有している間は自社株買いを避けるべきとされています。Rule 10b-18ルールは、企業が自社株買いを行う際の指針となり、市場の公正性と透明性の維持に貢献しています。
自社株買いに積極的な企業は?
セクター別では、情報技術や金融セクターが自社株買いの中心で、GAFAMを含むテクノロジー大手企業が積極的に自社株買いを実施。特にアップル、マイクロソフト、メタ、アルファベットは2024に入ってからも積極的です。情報技術セクターは、自社株買いの32%を占めており、2020年第2四半期と比較して約7割増加しているというデータもあります。
今後の課題
自社株買いに対する批判も存在します。企業が自社株買いに資金を使うことで、設備投資や研究開発、従業員の賃上げなどが抑制されているという指摘があります。
米国では2022年に成立したインフレ抑制法により、上場企業の自社株買いに対して1%の課税が導入。さらに、バイデン政権はこの税率を4%に引き上げる計画を公表しています。
米国企業の自社株買いは1980年代以降急速に拡大し、現在も高水準で続いていますが、同時に政策面での規制強化の動きも出てきています。今後、企業の長期的成長と株主還元のバランスをどう取るかが課題となっていくものと思われます。
まとめ
2000年代以降、テクノロジーや製薬など、キャピタルインテンシブ(資本集約型)ではない産業が台頭し、自社株買いが急増、これらの企業は高い利益率を誇り、余剰キャッシュを自社株買いに充てることで、資本効率を最大化しています。
2022年には、パンデミック後の企業業績回復に伴い、世界的な自社株買い額が過去最高の1.66兆ドルに達し、特に上記の通り、北米企業が主導しました。株式買い戻しの増加には、インフレ抑制法による1%の課税も影響を与えており、企業は税負担を回避しつつ株主還元を強化しています。
米国企業は株主への利益還元として自社株買いを多用していますが、資本構成の最適化や従業員ストックオプションの希薄化対策など、他の動機もあります。シグナリング効果を正確に評価するには、これらの要因を考慮する必要もあるでしょう。
しかし、企業経営陣は、投資家よりも自社の将来性や真の企業価値についてより多くの情報を持っています。手元資金を温存しないで、自社株買いをするのは、将来の業績に自信を持っている証でもあることから、個人投資家にとっても「自社株買い」が投資をする際の重要な判断材料となるのは、明らかだと思います。
これまでの、知っておくべき投資に役立つ重要キーワード17選【米国株編】↓
*ご注意-このnoteは企業IRや直近のニュース等を参考に、一般的な情報提供を目的として書いています。投資家に対する投資アドバイスではありません。投資における最終意思決定は、ご自身の判断でお願いいたします。またデータ等の数字は、細心の注意を持って記載していますが当noteに載せている情報に基づく行動で損失が発生した場合においても、一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。