10年国債の利回り(長期金利):知っておくべき、投資に役立つ重要キーワード17選【米国株編】⑤
長期金利(米国10年国債利回り)は、景気の先行きや物価上昇の予測を反映して変動するため、「経済の体温計」と呼ばれることがあります。利回りの上昇は借入コストの増加や債券の魅力の向上を通じて株価にネガティブな影響を与え、逆に利回りの低下を通じ、企業の投資環境を改善し、株価上昇を促す傾向があります。債券の性質や特徴について学んでみましょう。
結論
「金利が下がると、投資家は喜び、株式市場も歓迎する」
株価が上昇する過程では、多くの場合、相対的な長期金利の低下があります。今回のパンデミックでは、経済が大きなダメージを受けないように、政策金利をゼロ近辺にFRBが引き下げたこともあり、10年国債は利回りで1%以下を経験しました。
その後は、急激なインフレ対策のための政策金利引き上げに伴い、10年国債利回も上昇しますが、米国株式市場はそれをこなし、見事に上昇し過去最高値を更新して、また利下げの局面を迎えようとしています。
10年国債について詳しく、見ていきましょう。
長期金利の決定要因
政策金利:
米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)が設定する政策金利も、10年国債の利回りに影響を与えます。政策金利が上がると、一般的に長期金利も上昇し、下がると長期金利も低下する傾向があります。
インフレ期待:
投資家は将来のインフレを考慮して利回りを決定します。インフレ期待が高まると、実質的なリターンを確保するために名目金利が上昇することがあります。
経済状況とリスク許容度:
経済が好調でリスクが低いと考えられる場合、投資家はリスクの高い資産に移行するため、国債の需要が減少し、利回りが上昇、反対に不況時には安全資産として国債の需要が増え、利回りの低下が見られます。
上記の1-3等を要因として、国債が実際に売買され、日々の利回り、金利が決まって行きます。
債券発行から、市場での売買までの流れは、次のようになっています。
発行市場(プライマリーマーケット)
オークション方式:
米国財務省が定期的に新規発行国債のオークションを実施します。
主要ディーラーや機関投資家が入札に参加し、価格と数量を提示します。
競争入札と非競争入札:
競争入札では、参加者が希望する利回りと購入額を提示します。
非競争入札では、落札平均価格で一定額まで購入できます。
ちなみに、8月の10年国債(Treasury Note)は、利率(クーポン)3.875%で発行され、満期が2034年8月となっています。
Treasury NoteとTreasury Bondの主な違い
償還期間:
Treasury Note: 2年から10年の中期債
Treasury Bond: 20年、30年の長期債
種類:
Treasury Note: 2年、3年、5年、7年、10年の5種類
Treasury Bond: 20年、30年の2種類
*米国の場合、10年国債は分類上は中期債(Treasury Notes)に含まれますが、実際の金融市場や経済分析においては長期金利の代表的な指標として広く認識され、使用されています。
利払い
Note,Bondとも利付債(クーポン付き債券)です
流動性:
Treasury Noteの方が一般的に流動性が高いとされています。特に10年物Noteは最も流動性が高く、指標銘柄として扱われるます。
価格変動:
一般的に、償還期間が長いため、Treasury Bondの方がNoteよりも金利変動に対する価格感応度が高くなります。
利回り:
通常、Treasury Bondの方がNoteよりも高い利回りになりますが、これは、長期のリスクに対する補償といえます。
米国債は、米国政府が発行する債券であり、信用リスクは極めて低い(ムーディーズの格付け Aaa、S&Pグローバル・レーティング同AA+など)とされています。米国内の機関投資家をはじめ世界中の投資家から、流動性の高い、重要なアセット(資産)ととして、常に運用対象に選ばれています。
流通市場(セカンダリーマーケット)
発行された国債は、経済環境や金利情勢などをみて、流通市場(株式市場のように取引所ではなく)で日々取引、売買が繰り返されます。
ディーラー間取引:
主要ディーラーが相対で取引を行います。
電子取引プラットフォームを通じて、即時に価格を提示し合います。
機関投資家との取引:
機関投資家はディーラーを通じて売買を行います。
複数のディーラーから価格を取得し、最良の条件で取引します。
個人投資家の参加:
証券会社を通じて購入できます。
最低1,000米ドル単位から取引可能です。
電子取引プラットフォーム:
近年は電子取引の割合が増加しています。
リアルタイムで価格情報が更新され、取引の効率性が向上しています。
価格決定メカニズム
経済指標、金融政策などの要因により、市場参加者の間の需給バランスで債券の価格が形成されます。
取引の大部分はディーラー間や機関投資家との間で行われるため、これらの参加者の動向が価格形成に大きな影響を与えます。
米国10年国債市場は非常に流動性が高く、世界中の投資家が参加する巨大な市場です。高い流動性により、効率的な価格形成と取引の容易さが実現されています。
上記の、利率3.875%,10年国債は、直近では3.75%~(債券価格100.92ドル前後)で売買されています。
米国10年国債の役割
リスク・フリー・レート:
米国10年国債の利回りは、リスクのない投資の基準として広く用いられ、他の金融商品の価格設定や投資判断の基準となります。
金融商品の価格決定:
10年国債の利回りは、他の金融商品(株式や企業債券など)の価格にも影響を与え、投資家は資産配分を考える際の重要な指標として活用します。
このように、米国10年国債の利回りは政策金利、インフレ期待、経済状況等を要因に、最終的に市場の需給、売買によって決まります。
10年国債利回りと株式市場
利回りが上昇(債券価格の下落)
借入コストの増加
10年国債利回りが上昇すると、住宅ローンや企業の借入コストが増加します。これにより、個人消費や企業の設備投資が抑制され、企業の収益が圧迫されるため、株価にマイナスの影響が出ることがあります。
投資資金の移動
10年国債の利回りが上がると、安全資産としての魅力が増し、株式市場から資金が流出して債券市場に流れることがあります。このような資金移動は、株価の下落圧力につながることがあります。
割引率の上昇
株式のバリュエーションは将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて評価されますが、10年債利回りが上昇すると割引率が上がり、株式の現在価値が下がるため、特に成長株にネガティブな影響が及びます。
利回りが低下(債券価格の上昇)
低金利環境の恩恵
10年国債利回りが低下すると、住宅ローンや企業の借入コストが減少し、消費や企業の投資が活発化につながり、企業の収益拡大が期待され、株価が上昇しやすくなります。
株式市場の魅力増大
10年債の利回りが低い場合、債券の利回りが魅力的でないため、リターンを求める投資家は株式市場に資金を移すため、株価が上昇する傾向があります。
リスク資産へのシフト
低金利環境では、債券の利回りが低いため、リスクを取ってでも高いリターンを求める投資家が株式や他のリスク資産に資金をシフトさせます。
10年国債利回り、成長株とバリュー株
成長株への影響
10年国債利回りの上昇は、特に成長株(グロース株)に悪影響を及ぼします。これは、成長株の価値が将来の成長期待に基づいているため、割引率が高くなることで将来のキャッシュフローの価値が下がるためです。テクノロジーセクターなどの企業は、この影響を特に受けやすいです。
バリュー株への影響
バリュー株(割安株)は、安定した収益や配当を提供する傾向があるため、10年債利回りの変動による影響を比較的受けにくいです。ただし、利回りが大幅に上昇すると、バリュー株もまた投資家にとって魅力が減少することがあります。
まとめ
株式市場と同様に、米国の債券市場は膨大な規模を誇ります。10年国債は利率(クーポン)あるために、わかりにくい複雑な資産のように見えるかもしれませんが、債券の性質を知り、金利を敏感に感じられるようになると、冷静に株式への投資判断ができるようになります。常に、金利を意識して、株式市場を俯瞰することをおすすめします。
*ご注意-このnoteは企業IRや直近のニュース等を参考に、一般的な情報提供を目的として書いています。投資家に対する投資アドバイスではありません。投資における最終意思決定は、ご自身の判断でお願いいたします。またデータ等の数字は、細心の注意を持って記載していますが当noteに載せている情報に基づく行動で損失が発生した場合においても、一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。