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【架空文通】佐々木さんのお手紙に対する返事(映画『アップデート』風に)

佐々木さんへ

 この前、映画『アップデート』を観ました。で、それをヒントに短編小説を作り、中に手紙の返事を織り交ぜておきますね。

 体の調子がおかしい。きちんと動くのだけど、なんか自分が動かしているのではない、と思える時がある。思い通り動くのだが、誰かが黙って代わりに動かしてくれているような感じだ。
 交通事故に遭い、脊椎をやられて全身不随になった。しかし、医療器具メーカーの試験に参加し、元通りの体に戻ったのが昨日の話だ。試験の内容は、ICチップを脊椎に埋め込んで、それが脊椎の損傷個所の代わりに脳の命令を各部に伝達するというものだ。医療器具メーカーの技師が映画『アップデート』を見て、これだ、と思ったそうだ。まんま、パクリではないか。 とりあえず、文通の締め切りが近いので、病室で手紙を書いていた。

「うーん、返事は何を書こうかな。困ったな。ネタがない。」
独り言を言うと、頭の中で誰かがしゃべった。
「提案していいですか。」
「え、もしかして、埋め込まれたチップ。」
「そうです。」
「そこまでパクるか。もしかして、最善の方法を提案してくれるのかい。」
「そうです。助けてと言って、任せると言えば、こちらでやります。」
「うわー、これで芥川賞、取れる。酒池肉林のパリピになれる。助けて、任せる。」
「わかりました。」
 手が勝手に動き出し、手紙を書き始めた。これは楽でいいや。

 こんにちは、前回はどうしようもなく下品な手紙を書いてしまい、申し訳ありませんでした。
「おいおい、何を勝手に謝っているんだよ。」

 そうです、本当に全国を旅してまわろうと思っています。その中で京都では、貴殿に一目会えればと思っています。あらかじめ伝えておきますが、待ち合わせの時、外見で判断して逃げないでください、話せば知性あふれる素敵な人格だという事がすぐ分かりますので。
「ちょ、おま、外見って。手が止まらない。」

 貴殿は今年の夏に新潟の花火大会を見に行きたかったのですね。長岡のですよね。中止となり残念ですね。かわりに、二人で京都の河川敷で線香花火をしませんか。二人だけの花火大会です。
「そう来るか。さすが人工知能、って、こら、勝手に誘うな。まあ、いいけど。」

 貴殿が京都で通い詰めているラーメン屋さんはどんなラーメンを出すのですか。わたしは煮干出汁のすっきり系が好きです。あ、でも、貴殿の好みを知りたいので、どんな味であろうとも連れて行ってもらいたいです。
「おまえ、味に好みがあんのかよ。だいたい、まだラーメン食べたことないのに、どれがいいって分かんのかよ。」

 わたしが前の手紙で言及した電話の女性が気になりますか。ご安心を、その女性とはお付き合いに至りませんでした。当時の私は女性の扱いに慣れていないところがあって、思い出すだけで死んでしまいたい気持ちになります。でも、もう大丈夫です。
「おまえは慣れているというのか。一体、何がインプットされているんだ。」

 貴殿は恋愛に失敗してしまってから十年も独り身だなんて、本当に貴殿の周囲の男性の目は節穴ですね。私だったら、今すぐ駆け付けて花束を贈るのに。それとも、言い寄ってきた男性はいたけれども、有象無象ばっかりで拒否してきたのでしょうか。
「こいつ、気分はロミオとジュリエットだな。よく、考え付くな。」

 貴殿の恋愛談において、失敗の一つは、とありましたが、まだまだ何かあるような表現ですね。もしかして、貴殿は恋愛を集中的に沢山したのでしょうか。私はそんな貴殿でも受け入れますよ。
「たしかに、あの表現は気になった。こいつ、恋愛に鋭くてどうすんだよ。」

 十年前に出会い系アプリを使い込んでいた、とのこと。だとすると、かなり先駆的ですね。そのころに使ったとなると、よほど孤独だったのでしょうか。
 アプリを使って楽に恋人を見つけられた人は、楽さゆえに、見つけた恋の貴重さを感じられず、もっといい人を見つけられるのではないか、と引き続き恋を探すのではないでしょうか。
 こんなダメな私、と書かれてありましたが、昔はどうであったか知りませんが、今の貴殿に人格的にダメなところは見当たりませんよ。
「そう、そう。」

 今後はできるだけ自分の安売りを辞めたい、とのこと。できるだけって、何度かしたことがあるのですか。もしかしたら、貴殿は優しいから好きになってあげちゃうのかもしれませんね。もしそうなら、私の時もそうしてくださいね。
「うーん、こいつ、本当にICチップなのかな。」

 綺麗なお姉さんが好きと書いてあったが、どんな人を指すのだ、具体的に教えろ、とのこと。綺麗なお姉さんとは、武井咲、北川景子、ガッキー、常盤貴子、井川遥、松雪泰子のような人です。
「絶対、おまえ、AIじゃないよな。」

 貴殿の人生が失敗のカタマリである、とのこと。あの時のあれが成功だったとか、失敗だったとかは死ぬ間際まで分からない、というのが私の持論です。というのも、ある事に失敗して、仕方なく道を変えたら、素敵な事に出会った、なんて言うのはよくあることだからです。
 私は、禍福は糾える縄の如し、と思っていますので、成功したら次は失敗が来るぞ、失敗したら次は成功が来るぞ、と構えるようにしています。実際、その通りになっています。
 貴殿の成功を私は知っていますよ。文通を始めたことです。
「こいつ、最新技術のくせに、言う事が古いな。」

 貴殿がデザイナーとして引き続き頑張っていくために必要だと思われることを前回の手紙で私は書きました。でも、そもそもでいうと、貴殿に合う職は貴殿のセンスだけで商品として成立するものを扱うか、貴殿のセンスが全く必要とされずルールに即して作られる商品を扱うかのどちらかだと思います。この二つに共通するのは、作る過程で誰かと議論する必要が無い、という事です。貴殿は優しい人なので、やってあげよう、という気持ちが無意識に働きやすい人なのだろう、と思っています。これが裏目に出ない職業がいいんだろうな、と。
 ここいらで、終わりにします。またね。チャオ
「お、終わったか。捨てて、書き直さないと。って、あれ、便箋を折りたたんで、封筒に入れているよ。おい、こら、投函するな。って、体の主導権はいつもどんだよっ。」

またね