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「こわいってなんだろう?」ART55コラボ企画『アート×哲学対話』開催レポート

今回は読書会を飛び出して、ART55とのコラボ企画『アート×哲学対話』の開催レポートをお届けします!アート作品を鑑賞し感想から参加者さんたちと問い出しをし、哲学対話を行いました。

今回対話のテーマとなった問いは「こわいってなんだろう?」
「こわい」という誰もが抱く感覚ですが意外と「なんだろう?」と考えたことは少ないのではないでしょうか?

対話が進み最後には「こわいは解放なのかもしれない…」と、対話が始まる前には思いもよらなかった言葉が生まれました。

参加者さん9名と共に紡いだ、アートと哲学対話の化学反応の開催レポートをお楽しみください!

『アート×哲学対話』って?

『アート×哲学対話』とはART55という現代アーティスト紹介プロジェクトとコラボした哲学対話の企画です。

展示されているアート作品を鑑賞した後、感想や好きな作品、動いた感情や蘇った記憶などの種を集めて「問い」を出し、哲学対話を進めていきます。

ART55主催の世羅田さんから「まだ名前のあまり知られていないアーティストの作品でも素敵な作品が沢山ある。普段アートに触れない方にも来て見ていただくためにアートとは違う切り口の企画をやりませんか」とお声がけいただき始動し、今回は2回目の開催でした。

哲学対話のサポートとして地域で対話の場「まちいろドロップス」を主宰するみっちゃんにもご協力いただきました。

ART55(アートゴーゴー)
COMMUNE BACEマチノワを拠点に、マチノワの山本満さん、ギャラリー絵屋の世羅田京子さん、作家の香川穂波さんがタッグを組み、これまで町田の中心市街地で発表の場が少なかった現代アートシーンにリンクする作家55人を紹介するプロジェクト。

中村龍馬さん作品展「ぐるぐる」

今回は2024年7月13日〜15日に開催された中村龍馬さんの作品展「ぐるぐる」とコラボさせていただきました。

中村さんは独特のタッチで「怪獣」を描く現代美術作家。会場には天井に届かんばかりの大きな版画作品が多数並び、思わず「おぉ…!」と驚きと恐れが混じった声が漏れました。

「作品を作るというより、自分の内側の感情や感覚の行き場として、手ぐせのように怪獣を書いている。その一部に色をつけたり、版画にしたり、立体にしたりして作品としている」とお話しされるとおり、哲学対話の間も常にスケッチブックに鉛筆を走らせ怪獣が生み出されていました。

作品の感想から問いの種を探す

そんな中村さんの怪獣たちを鑑賞後、それぞれが作品から感じ取ったたくさんの種から問いを出しを行いました。

まずは参加者さんが声にしてくれた気になる作品とその感想の一部をご紹介します。

Aさん:私が気になったのは小さなこの作品です。

作品全体を見た時、反射的に「こわいっ…」と感じたのですが、この作品はガッツポーズをして、「やった!」と喜んでいるように見えました。
怪獣ってこわいと思われがちですが彼らにも喜怒哀楽やいろんな事情があるんだろうな〜と想像してしまいました。

Bさん:私はこの袖にフリンジがついたような怪獣が気になりました。

以前読んだことがあるマンガのキャラクターを思い出しました。そのマンガで気になったテーマが「偽善」だったんです。
偽善って人の為って書くのにニセモノって意味じゃないですか。自分がやってることって偽善だなとずっと引っかかっていた時期があって。

Cさん:ぼくは彼に話を聞いてもらいたいと思いました。

他の怪獣に比べて、穏やかさや温かさを感じました。お腹にたくさんの涙を流した目のようなものもありますし、色んなことを知っている長老みたいなものを感じました。

生まれた問い「こわいってなんだろう?」

次にこれらの種をもとに対話をしながら問いを生み出していきました。

問い①
良い行いに良い理由が求められるのはなぜか
まずは偽善というワードから、「良い行いとされることや、人を助けるような職業には、みんな"良い理由"を求めてしまう」「結果やってることが善行であれば、その理由は偽物であってもいいんじゃないか」「私利私欲なく行える善行ってそんなにないから、偽で当然ってくらいでもいいのでは」など話が広がりました。

問い②
人はなぜ祈るのか

「作品の中に七夕が怪獣になったような作品がありました。なぜ人は短冊に願いを書くんでしようか?」という作品から、普段気になっている問いにつながったものありました。

七夕の怪獣

問い③
怪獣はなぜでかいのか?

「そういえば今回の作品も大きいものが多いですよね。ゴジラとかも大きいし、怪獣ってなぜ大きく描かれるんでしょうか?」

問い④
ヨロイってなに?

「大きいのもそうだけど、怪獣って鎧を纏っているものも多い気がする。鎧って比喩的にも使われますよね」

問い⑤
こわいってなに?

「参加者さんの感想の中で作品を見たときにこわいと感じたというお話がありましたが、なぜこわいと感じたのかな?と気になりました。そもそもこわいってなんだろう?」

上記5つの問いから多数決を行い、5つ目の「こわいってなんだろう?」に決まりました。

いざ、哲学対話「こわいってなんだろう?」

今回の問い「こわいってなんだろう?」
まずは中村さんの作品たちに対して「こわい」と感じたか、感じなかったか、それはなぜかというところから対話を始めました。

Dさん:僕は作品を見てこわいと感じました。漫画ジョジョの奇妙な物語などとタッチが似ている感じがして。ジョジョもなぜかイラストがこわくて読めないんです。それと同じようなこわさを感じました。

Dさんの発言をもとに、「こわさ」には情報量の多さ、処理しきれなさ、理解不能さなどの要素があるのではないかと対話が進みました。

他にもこわさを感じた方からは「ファイティングポーズや攻撃のポーズなど何かしら意味のあるポーズをとっていない。手を広げて真っ直ぐ立っているだけだと何を考えているかわからない感じもこわい」という発言もありました。

また他の参加者さんからは「やっぱり未知のものはこわい。これをやるとどうなるのか、食べるとどんな味がするのか、予想もつかないことはこわい」と発言がありました。

それに対して「未知だからこそワクワクする、やってみたいと思う!わかっているものは面白くない」「未知のこわさにワクワクを感じることで新しい大陸が見つかり、新しい食材が見つかってきた歴史もある」などさらに対話が発展していきました。

そんな対話の終盤でした。
Eさん:ある知り合いの少女の話なのですが、彼女は虐待など壮絶な生い立ちの中、海外の恐怖小説を好んで読んでいたんです。理由を聞くと日常の恐怖が物語の中の恐怖の中にいる時だけは忘れられて解放される感じがする、と言っていたんです。

「こわさ」とは避けたいもの、できれば感じたくないものとネガティブに捉えられることが多いですが、今回の対話では「こわさが未知のものを切り開くワクワクの源」「こわさは時に解放をもたらす」などこわさのポジティブな側面にも光が当たる対話となりました。

対話を終えて

対話の後、作者の中村さんからこちらの作品に関して解説をしていただきました。

この作品、同じ型で擦っているんですがそれぞれ全然違うんです。
なんか自分自身みたいだなと思ったんです。

自分という一人の人間だけどその日の体調や気分によって全然状態が違うから他者に対しても全然違う態度をとってしまう。
昨日はフレンドリーだったのに、今日は冷たいみたいな。

そして他者に対しても「同じ一人の人」として捉えるのが難しいなと感じたりするから、他者と関係を築くのが難しい。
そんな自分自身を表している感じが気に入っているんです。

アート×哲学対話ではアート作品を見るだけではなく、見ることから生まれた感情や感覚を言葉にし、作品から一度距離をとりながら自分の内側や他人の思考に耳を澄ませて対話に没頭し、また浮上するようにアートにふれ、作者さんの言葉が改めて響いてくる。

水面に顔を出したり、また深く潜ったりとさまざまな角度・深度からアートに触れ咀嚼する

アートに対するハードルの高さや時に「こわさ」を感じていた自分自身にとって、アートとの距離がグッと縮まる体験になっています。

今後もART55とのコラボが継続予定です。
開催の詳細はART55のHP雨デモ晴レテモのInstagramからご覧ください!


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