最後のチャイム
七月のはじめ、僕が通う中学のA先生が亡くなった。その死因は、事故死。何でも学校の仕事が終わって、帰宅途中の車内で、脳溢血で意識を失い、そのまま電柱に激突したらしい。事故現場は近所だったので、その激突音が僕のうちまで響いてきた。落雷みたいな凄まじい音だった。その後から救急車のサイレンも聞こえた。
僕はA先生とは関わり合いがなかったので、詳しくは知らないが、そのA先生は、数学を教えていて、その上、放送委員会の顧問もしていたそうだ。仕事熱心であり、平等であり、生徒からも他の先生からも、尊敬されていたという。
僕が、A先生が死んだのを知ったのは、交通事故の翌日に開かれた朝の全校集会の時であった。体育館に集まった生徒達に、校長がその意を伝えた時には、体育館内にすすり泣く声が溢れ返った。
そして、最後に、全校生徒で黙祷を捧げたのだが、この時、妙に不思議な事が起こったのである。生徒達が、みんな厳粛に黙祷をしていると、なんと、始業を知らせるチャイムが鳴ったのである。
何で、チャイム如きで、そんなに不思議がるのかというと、これには、実は、こんな裏話があるのである。
これは、後で友達に聞いた話なのだが、放送委員会の顧問をしていたA先生は、朝、出勤すると、直ぐにチャイムのスイッチを入れ、そして、すべての授業が終わると、そのスイッチを切るという。そうしないと、一晩中、チャイムが鳴り続け、近所迷惑になるからである。で、A先生は、毎日、その作業を日課としていたのだが、その朝は、もう既に死んでいたわけだから、スイッチを入れる事は出来ず、黙祷の最中にチャイムが鳴るのはおかしい。変に思った放送委員の生徒が、放送室に飛んで行き、調べたら、やっぱり、スイッチは、入ってなかったそうだ。
で、前出の友達は、話の終わりに、A先生が、最後の挨拶の意味で、チャイムを鳴らしたんじゃないか、と言っていた。