私がトゥワイスをしない理由
【Run It Twice】
ターンまでにオールイン(2WAYのみ)になった場合、お互いにショーダウンしてハンドを確認しあい、合意の上で1回〜3回残りのストリートを開く行為。少ない回数を希望したプレイヤーの意向が適応される。
それぞれの結果に応じてpotが分配される。(3回を選択して2勝1敗ならpotの2/3を得る)
オンラインポーカーではお馴染みの機能ですが、ライブキャッシュでトゥワイスをする機会は多くありません。一部のハイステークス(ラスベガス等)で認められているという話を聞いたことはありますが、私が打ったことのあるマカオの100/200HKDやシンガポールの25/50SGDではこのルールは採用されていませんでした。
それでもトゥワイスが広く知れ渡っている理由はTriton Pokerや、古くはPoker After DarkやHigh Stakes Pokerでトッププロ達が行なっていたのをご覧になっていたからではないでしょうか。
大前提として、トゥワイスをしてもしなくても得られる期待値に変わりはありません。ですが多くのオンラインプレイヤー、特に専業やレギュラーはトゥワイスを好みます。それはなぜでしょうか？
オールインEVというものがあります。オールイン時点での期待値のことです。
例を出すと、お互いが100BB持ちのヘッズアップでプリフロップオールインになりました(わかりやすくするためにいきなりオールインしたものとします)。あなたはAAを持っていて、相手はKKを持っていました。あなたの勝率は80%です(厳密に言うとスートによって違いますがわかりやすくしています)。
200BBのpotをあなたは80%の確率で手に入れることができます。すでにpotに100BB入れているので、このオールインの期待値(EV)は200BB×0.8-100BB=60BBとなります。
しかし不運にも20％の確率で負けてしまった場合、あなたはこのpotで100BBのスタックを全て失います。EVからなんと-160BBも下振れてしまったわけですね。
この例は極端ですが、勝率の高いオールインをし続けて、低いオールインを避け続ければ理論的に実収支は向上し続けます。上手いプレイヤーほどその精度は高く、彼らのオールインEVの線グラフは右肩上がりになっていることが殆どです。
しかしポーカーの分散は強烈です。上のAA<KKのようなアップセットをフルスタックで食らってしまうと、その下振れを取り戻すには同じシチュエーションがあと4回連続で来てその全てで勝つ必要があります。
十分にEVを稼いでいるのに実収支はマイナス、なんてのはよく聞く話です。ポーカーで生活しているようなプレイヤーにとっては、分散は飯の種でもあり、自らを破滅させる悪魔のような存在でもあります。またバンクロールが十分でない場合、本来であればそのステークスをクラッシュできる程の実力を持っているのに、分散に負けて破産することすらあり得ます。
「分散さえなければ」「EV通りなら勝てるのに…」そんなプレイヤーの期待に応える機能がrun it twiceなのです。
トゥワイスは分散を抑えてくれます。トランプのデッキには限りがあるので基本的に3回までしか選べませんが、できることなら無限にトゥワイスしたいと思うプレイヤーも少なくない筈です(何かのポーカー動画でTruetellerがトゥワイスの希望回数を聞かれて「Hundred times」って答えてたのが面白かった)。
↑勝率85%のフロップオールインを4回トゥワイスして3回負けた人
これは蛇足ですが、1年ほど前にポーカースターズにcash outという新しい機能が追加されました。ターン以前のオールインの際、ハンドのエクイティ通りにポットをプレイヤーに振り分けることを選択できる機能です。これにはハンドの価値(ポットの額ではない)×1％の手数料をスターズに支払う必要がありますが、逆に手数料を払ってでも分散を抑えたいプレイヤーが多く存在することの証明でもあります。
ここまで分散とトゥワイスについて書いてきましたが、私は一切トゥワイスをしません。トゥワイスはお互いの合意の上で行われる行為なので、片方が断る(又はトゥワイスの機能を初めからOFFに設定している)以上行われることはありません。
理由はいくつかあります。
・ライブに(ほぼ)ないルールを採用したくない
・スタックすることで相手がティルトするかもしれない
・バンクロールに不安がない
・男なら1回勝負
・ふつーに全部欲しい
しかし私がトゥワイスを絶対にしない最大の理由は、３年前のとある出来事がきっかけでした。
私の友人にサムライ梅という男がいます。
【サムライ梅スペック】
・34歳 独身(セフレはいる)
・長身、痩せ型
・実家住まい
・無職(株トレーダー)
・全身刺青
・口が臭い
最近母親から家に入れる毎月のお金を2万円から2万5千円に上げるよう頼まれたところ「ふざけんじゃねぇ」と一喝したしょうもない男です。
その日はいつものポーカーセットを秋葉原カジノクエストでテーブルとディーラーをレンタルして開催していました。
写真の2人はもう居ませんが、在籍中の女性はスタッフ一覧から確認できます。興味があれば行ってみてください。
http://akiba-casino.jp
事件が起きたハンドを撒いていたディーラーは「あお」という女の子でした。
素晴らしいディーリングスキルです。ルックスもクールビューティって感じでおそらく人気のディーラーさんだったと思いますが、残念ながら彼女も今は在籍していません。
初の海外遠征も終わり、本格的にポーカーにハマってきた私は流石に以前よりはかなりマシになっていました。
参加するハンドをほぼ全て気分で決めていた頃に比べれば、かなり広いながらもオープンレンジというものを構築していただけで大きな成長です(コールレンジはまだ気分)。
8人テーブルでフォールドで回ってきたHJ、私にAAが配られます。3BBオープンするとBUのサムライ梅から3ベットが返ってきました。ポーカーで1番嬉しい瞬間の一つです。
サムライの大和魂オールインを期待して4ベットしますが、彼はコールに留めます。まぁ及第点といったところでしょうか。
フロップは822r。かなりアグレッサー側に有利なフロップです。4ベットポットかつ超ドライなペアボードにも関わらず、私は75％のCBを選択します。キチガイみたいなサイズですが、バランスも考えずに何でもかんでも大きく打つことしかできなかったのが当時の私です。
サムライはコール。胸が高鳴ります。
ターンの6が落ちるや否や、私は即座にオーバーポットオールインを敢行します。私の超弩級大陸間弾道ミサイルに流石のサムライも表情を歪めます。現状勝っていることが確定する素晴らしい演出です。
暫くの間、静寂がテーブル全体を包みます。サムライは苦痛にもがき苦しみながらも1枚のチップを投げ入れます。ショーダウンされた私のハンドを見て絶望の表情を浮かべながら力無さげにQQを捲る梅。たまりません。
さながら敗戦必死の落ち武者のような表情のサムライから2回のトゥワイスが提案されます。当時からトゥワイスを一切しない主義だった私でしたが、手を合わせて懇願までされてしまっては情けをかける他ありません。
何せ状況が状況です。私のAAに対して彼のQQは2アウツしかありません。私の勝率は約95％。それを2回勝つだけです。
継続率95％のパチンコを2連させるだけの簡単なお仕事。正直どっちでもいいやと楽観して彼の提案を受け入れました。
1回目、梅の「こいっ！」とう掛け声も虚しくラグが捲られます。当たり前です。残り2枚のQをそう簡単に引けるわけがありません。
とは言え流石に私も緊張しています。もしリバーに憎たらしい顔をした女王のカードが出ようもんなら、全て手に入ったも同然だったポットの半分は梅の物になってしまいます。
運命の2回目。サムライの気丈さも誇りも全てかなぐり捨てて梅はディーラーのあおちゃんに「お願いっ！あおちゃん本当にお願いっ！」と両手を力強く握りながら声をかけます。お願いも何もリバーのカードは既に決まっています。神頼みどころかディーラーに頼むようになったらいよいよ終わりです。私は澄ました顔でリバーが捲られるのを見ます。
そこには澄ました顔をしたQ❤️がいました。
9番シートに座っていたサムライ梅は喜びのあまり「うおおおおおぉぉぉぉぁぁぁああああおちゃん愛してるぅぅぅぅ！！！！チューしてもいい！？？？？」と言いながらディーラーにほぼゼロ距離まで接近しました。
あまりの気持ち悪さにポットの半分を失ったバッドビートよりもそっちが印象に残ったのは私以外のセット面子も同じだったようで、未だに身内セットでバッドビートが起こる度に誰かがこの話を口にします。
その後も月2回程のペースでカジクエを使わせてもらっていましたが、彼女が私たちのテーブルを担当する回数は極端に減った気がします。
私は現在PPPokerというポーカーアプリをメインにプレイしています。やはり殆どのプレイヤーはオールインでトゥワイスを提案してきますが、その度に私はあの梅田の気持ち悪い「チューしていい？」を思い出しながら
「ダメに決まってんだろ」
と『トゥワイスを断る』ボタンを押しています。
ポーカーを覚えてから今まで、トゥワイスをしたのはあの1回だけです。
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