強すぎるから負けるという話
運が勝敗を左右する勝負事、ポーカーや麻雀等の所謂ギャンブルに興じている人なら誰しもが表題のようなフレーズを聞いたことがある、もしくは口にしたことがあるのではないかと思います。
・下手なやつと打つと勝てない
・初心者ばかりの中に上級者が入ると逆に負ける
その多くはただの負け惜しみで、そんなことを口にすれば本物の上級者にこう諭されます。
「じゃあ自分より強い人と弱い人、どっちと打ちたいの?どっちの期待値が高いの?」
そんなことみんなわかってるんです。自分より弱いプレイヤーと打てば期待値は出ます。
彼らが言いたいのは「相手が弱かったせいで負けた」ということなのです。
ん??まだピンと来ませんかね?
ちょっと例を挙げてみましょう。
全員100BB持ちのNLHキャッシュゲーム。
あなたにAAが配られました。Aさんのオープンレイズにあなたが3betすると、Bさんが4betオールインをしてきました。更にAさんがコール。あなたは当然コールします。
BさんのハンドはKK、そしてなんとAさんのハンドは87sでした。
喜びも束の間、ボードに8が2枚落ちてそのままAもKも落ちずにあなたは負けてしまいました。
Aさんが87sでコールしたことによって、あなたは100BB以上のプラスだったはずが、逆に100BBのマイナスになってしまったのです。
この事例は明確に「Aさんが下手すぎたせいであなたが負けた」のです。
私の尊敬する余語葦織プロが下の動画の4:20〜あたりで本議題に触れています。
「相手が弱いから勝てなくなった」というプロギャンブラーのぶきさんの発言に対して「無茶苦茶な論理」とバッサリ切り捨ててますね。と同時にそういったことを口にする人は多いとも述べています。
もしかしたら本当に相手が以前より弱くなったのかもしれませんし、真偽はわかりません。
ただ一つ言えることは、のぶきさんは相手が下手なプレイをし続けた結果、不運な負けが続いて成績が出なくなった、と思っているということです。
余語プロはこの動画で、プロギャンブラーのぶきさんが勝率9割を掲げてコーチングや講演等の活動をしていることに対し、その数字の無意味さや、かつてと変わってしまったのぶきさんを残念に思う心情を語っています。
※「カジノポーカー総合チャンネル」の葦織塾では、ポーカーや数学的な思考の基本的な考え方を学ぶことができます。私がポーカーを覚えたての頃から存在する数少ないポーカーチャンネルの一つで、初心者〜中級者の方に特にオススメしたいコンテンツです。自身の成長の過程で繰り返し観ることで、よりポーカーの理解が深まることでしょう。
本題から逸れましたが、ポーカーや麻雀といった抽せんと選択のゲームにおいては、最適解からズレればズレる分だけ期待値を失います。
つまり、下手なプレイヤーと対戦することは長期的に見て必ず利益に繋がります。間違っても「相手が下手なせいで負ける」なんて理論は成り立ちません。下手なら勝てます。
しかし人がプレイできる時間やバンクロールには制限があり、その期待値が日の目を見ないままプレイヤー人生が終わってしまう可能性すらあります。
残るのはただ「相手が下手だったせいで負けた」という事実だけであり、それはどんな綺麗事を並べても覆りません。
「相手が下手ならば勝てる」という理論と、「相手が下手なせいで負けた」という事実は相反する内容であるにもかかわらず、実際に同居する事象なのです。
最後に私の話をします。
私がシンガポールのカジノで専業を始めて数ヶ月後、突如として強烈なダウンスイングを喰らいました。
その内訳のほとんどが、圧倒的に有利なオールインでの下振れでした。フロップオールインでセットがワンペアに捲られる。ターンで上手くブラフオールインをインデュースしたのにリバーで2アウツを引かれる。プリフロのノールックオールインに何度もAA、KKを割られる等。
相手の度重なるミスプレイが、私のマイナス収支を膨らませ続けたのです。
強烈と言っても2500BB程でしたが、シンガポールのミニマムステークスは10/20SGD(800円/1600円)と世界で最も高レートで、短い期間での約400万円程のマイナス収支とその内容に心が完全に折れていました。その期間のオールインEVは少なく見積もっても4000BB近く乖離していたと思います。
カジノから朝帰りしたその日も、大敗を喫した後でした。いつも通り笑顔で迎えてくれる妻に会うなり私は
「ありえない!!!強すぎるから負けるんだ!!!!」
と地団駄を踏みながら叫んでしまったのです。
もちろん私の心の中では
「(ノールックでエニハンオールインしてくるクソ弱い相手に対して相対的に自分が)強すぎるから(通常起こり得ない勝負が実現してその結果運悪く)負けるんだ!!!!」
だったのですが、そんなこと伝わるわけがありません。
「こいつ負けすぎてついに頭おかしくなったんじゃね?」と言わんばかりの表情で私を見る妻。
旦那のポーカー(と他の理由)のために友達の1人もいない海外まで連れてこられて、毎回負けて帰ってきてその上支離滅裂な愚痴まで聞かされる妻の心情たるや…
今でもこの件でよくいじられますが、当時は本気で離婚も考えていたそうです。
私が件の発言をした後に妻が描いてくれた絵を最後に載せて終わりにしたいと思います。
そう…「強すぎるから負けるんだおじさん」は何を隠そう私だったのです。