生きること、人を好きになること
恋多き人生を送ってきた。
さかのぼれる最古の記憶が、2歳のころに男の子に「好きです」と言った瞬間だ。その前から、つまり0歳や1歳にして、お気に入りの男の子がいれば、短い腕をベビーカーから伸ばしてその手にふれようとしていた、と母親が証言している。
生まれつきの恋愛体質なのだと思う。
以前、男の子とセックスしたあとに「これまでに好きになった人数」の話になって、数えてみたら30人だった(もちろん先述の2歳の恋も入れて)。付き合った人数でもセックスした人数でもなくて、単純に好きになった人数ね。付き合ったりセックスしたりした数の方が全然少ない。
彼に聞き返すと「俺は3人だけ」と言う。1人目は中学で突然キスされた女の子、2人目は私、3人目は元職場の後輩の女の子(のちに結婚する)。
でも、彼はその他に何人もの女の子と付き合って、沢山の女の子とセックスしているのだ。あの脚が細くて黒髪が美しい一個下の元カノはどうした!好きじゃなかったってこと??って聞いたら、そうなんだって。セックスのために付き合ったり、適当にセフレをつくったり、ハプニングバーに行ったりしてきたらしい。すごいな。
なんとなく、3人のうちの1人に選ばれたとなると、すごいような気がする。あの脚が細くて黒髪の美しい女の子より私のことを好きだったんだ!と、正直、一瞬うれしくなった。
でも、そんなことは実際にはどうでもいいことなのだ。自分の感情を「好き」と言語化するルールも、「好き」と「関係性」を結びつけるルールも、人によって全然違う。しかも、そもそも決定的なのが、誰かに好かれることと私の価値は基本的に関係しない。
よくツイッターでは「好き」にまつわるルールが語られているけど、正直、ふうん、としか思わない。「会いたいと思ったら好き」「好きならマメに連絡するはず」「ずっと一緒にいられると思ったら好き」「本当に好きなら先にセックスしても付き合える」…ややこしいな。こういう言説が幅をきかせているから軽率に「好き」と言えなくて困る。
好きだと思ったら、好き。私は単純にこれでいいと思う。主観でしかない曖昧な感情に、関係性や期待感をごちゃごちゃに混ぜるから、好きがブレる。好きだ、好きだ、好きだ。それでいいじゃん。最高だな。
人と付き合わないでセックスをしていると、「遊ばれている」「体めあて」などとなじる人がいる。なんなんだろうね。責任を伴う口約束がある関係こそが全ての正解なんだろうか。
「体めあて」という言葉も実感として理解できない。体と心(脳)が別にあるかというと、さっきの彼はそうなのかもしれないけど、私は一緒にあると思っている。セックスのとき、脳がたかぶると、全身がしびれるし、体をさわられると、脳がしびれる。体と心を分けるのって無理がある。だからセックスしたらふつうに好きになっちゃう。でも、それと付き合うかどうかはちょっと別の話。
これまで30人くらいの人を好きになってきて、みんなその時の私にとっては最高にステキな人だったし、その恋の全てが特別で、他の何とも似通っていなかった。2歳の恋も入れて数えてるなんて、笑われちゃうかもしれないけど、その時は好きだったんだもん。自分の真剣な感情をあとで笑うなんて、自分にたいしてダサいじゃないか。
人を好きになるのって、ほとんど相手の問題じゃなくて、自分の感情を信じる力だと思う。それを鍛えずして、「良い男がいないんですよねー」などと言っていても、そんな人はあらわれないんじゃないかな。
私は腹筋を鍛えたりはしてなくて、ぽっちゃり体型なわけだけど、恋愛体質でいたいので、自分の感情を信じる筋トレを意識的にしている。それが何かっていうと、なるべく無駄なことをすることである。
例えば動物園に行って、べつに大して美味しくもないけど割高なホットドッグを買って、のそのそヒマそうに歩くゾウでも見ながら食べる。ゾウのうんちの臭いがしてさらに美味しくないし、わりとクソな体験である。
あるいは観たばかりの映画のエンドロールの歌が気に入って、まだストリーミング配信されてないけど帰り道で我慢できなくて課金して三回聞き、飽きて聞かなくなる。少し待てば無料配信されるのに愚かな行為である。
まあ何でもいいんだけど、こうして、その場のバイブスに従った愚行を繰り返していくことがたいせつだと思っている。べつに細かく覚えてなくていい。ただ、ちゃんと自分の感情を認めて生きてきたし、これからもそうできる、という自信をつけていくトレーニングなので。
だって恋愛なんて、どうせ無駄じゃんか。私、30人も人を好きになったのに、全然ダメな人間だもん。でも無駄だからこそ、何の役にも立たないからこそ、感情がむきだしになって、体が火照って、気持ちよくて、最高なんだよなあ。だから人を好きになることは好きだ。たぶん一生やめられない。
運命の人が現れて、人生や、思想や、自分の価値を変えてくれるなんて、ありえない。私が私として生き、考え、感情を生み出し、それを信じることで人を好きになり、楽しむだけのことだ。意味が、本当が、なんだっていうの。今日も私は最高だし、今日も君を大好きでいる。
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