夫の幸せは私の不倫の上に成り立つ

「夫の幸せは私の不倫の上に成り立つ」

〜第一話〜

秋の空はやけに青く澄んで、どこか突き放すような冷たさがあった。
商業施設でのハロウィンパレードで、仮装した可愛い娘と一緒に手を繋いで歩くあなたは幸せそうに見える。  
そんな微笑ましい私たち家族には秘密がある。

私は、あなたの知らないところで他の人と会っている。平日の午後、仕事終わりにほんの少しだけ、心を解き放つ時間を持つのだ。

「ほら、あっちにカボチャの飾りがあるよ!」とあなたが娘を指差し、目を輝かせている。娘もその指を追って「あっ!」と歓声を上げる。その光景は、まるで絵に描いたような幸せな家族の姿。けれど私は知っている。このひとときの温かさが、私の抱えている「秘密」によって支えられているということを。

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仕事漬けのあなたには、きっと理解できないだろう。育児も家事も、ほぼひとりでこなしている平日の私は、どれほど孤独で、どれほど疲れ果てているか。そんな中で、ふとした瞬間に誰かに「大丈夫?」と聞かれるだけで、心が救われる気がするのだ。それはあなたがしてくれない問いかけであり、私がひとりで探し求める答えでもある。

「やっぱり休日は家族と過ごすのが一番だな」

あなたがそう言って、私に微笑みかける。娘の手をしっかり握っているその姿は、頼もしい父親そのもので、どこかほっとした気持ちになる。私は微笑みを返しながら、心の中で小さくつぶやく。

「家族の幸せは、私の小さな裏切りの上に成り立っている。私が壊れないために、彼には知られちゃいけないこの関係…それが家族を守っている皮肉な現実。」

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パレードが終わり、商業施設のカフェで一息つく。あなたは娘に「楽しかったね」と話しかけ、アイスクリームを食べさせている。そんな姿を見ると、私がこうして不倫という形で心を保っていることが、本当に悪いことなのか分からなくなる。むしろ、私がその秘密を抱えているからこそ、こうして家族の穏やかな日々が保たれているのだと思えてくる。

私はただ、日々のワンオペ育児と家事を乗り越えるために、自分を支える手段として、誰かの存在が必要だった。そして、その支えがあるからこそ、私はこうしてあなたと娘に笑顔を向け続けることができている。

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夕方、日が落ちかけた頃に家に帰り着く。あなたは娘を抱き上げて「今日も楽しかったね」と語りかけている。その姿に、私は少しだけ胸が痛んだ。こんなふうに、あなたが家族といる時間を大切に感じられるのも、私の不倫があってこそだと思うと、ほんの少しだけ複雑な気持ちになる。

本当のことを伝えたら、家族は壊れるのだろうか。何も言えず、何も変えず、ただ静かに「幸せな家族」を続けていく。この「秘密」が、私たち家族の幸せの一部として存在している限り、この道を歩き続けるしかないのだと。

〜第二話〜

約束の日が近づくたび、胸がざわめく。
休日の夜、久々に夫に娘の世話を任せ、私は出かける準備を整えた。
髪を束ね、化粧を少し濃くするだけで、まるで別人になったような感覚が訪れる。

夫のために尽くし、娘に全力を注ぐ日々。それなのに、夜に彼のもとへ向かう瞬間だけが、私を“私”にしてくれるのは皮肉だ。
小さなバッグを手にし、私は街へと歩き出す。

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夜の街に灯るネオンを抜け、待ち合わせのバーで彼に会うと、私の内側がすっと軽くなる。彼は「どうだった?」と尋ねるだけで、私の全てを知っているように微笑んでくれる。まるで、何もかも許される場所にいるみたいに、私はその問いにただ「うん、大丈夫」と答える。

私たちは無駄な会話を交わさない。必要な言葉も、挨拶も、説明も、何もない。彼の隣に座り、グラスを傾けながら、私はただ自分の存在が解き放たれるのを感じる。

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しばらくして、彼が手を差し出す。私は何も考えずにその手を取り、夜の街を歩き出す。二人でいるだけなのに、何かが私の中で弾けるような感覚がある。育児も、家事も、夫の冷たい背中も、すべてが遠くなる。ここにいるのは、ただ「私」だけ。母でもなく、妻でもない、本来の「私」が、彼といる時間の中で少しずつ解き放たれていく。

ホテルに着くと、私は彼の腕の中で、日常の中で抑えていた息を吐き出すように深く息をする。誰かに求められ、愛され、心の底から自分を取り戻す時間。それは、決して長くないひとときだが、私にはその短い時間が何よりも大切だった。

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ベッドに横たわりながら、私はふと「幸せ」という言葉が頭をよぎる。家族と過ごす時間の中での「幸せ」とは違う、ここで感じる「幸せ」。それが本当に私のものなのかどうか分からない。ただ、この瞬間、私は確かに息をしている実感がある。

〜最終話〜

ある日、世の中が変わった。「婚外恋愛の自由」が認められ、社会がそれを受け入れるようになったのだ。不倫という言葉すら、まるで過去の遺物のように扱われるようになり、人々はパートナーに隠し事をする必要がなくなった。

そのニュースを聞いたとき、私は少しの驚きと大きな安堵を感じた。これで、あの「秘密」を抱え続ける必要がなくなるかもしれない。もしかしたら、夫にすべてを打ち明けてみてもいいのではないか。そう思うと、心の奥で閉じ込めていた感情がふっと軽くなるのを感じた。

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ある夜、夫が仕事から帰宅したあと、私は意を決して話しかけた。

「話があるの」

夫は驚いた顔で私を見たが、何も言わずに椅子に座り、私の話を待ってくれた。私は、これまでの日々の中で感じていた孤独や、育児や家事に追われているうちに生まれた「自分を取り戻す」ための時間が、別の人と過ごすことで支えられてきたことを、正直に伝えた。

彼はしばらく黙って私の話を聞いていたが、やがて静かにうなずき、「それが君を支えてくれていたんだね」とだけ言った。その言葉に、私は涙がにじむのを感じた。怒りや非難の言葉を覚悟していたけれど、彼のその一言が、まるで許しを得たような気持ちにさせてくれた。

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それからというもの、私たちはお互いに少しずつ心の内を打ち明け合うようになった。夫もまた、仕事に追われる中で感じていたプレッシャーや不安を、私に話すことができるようになった。それはまるで、長い間閉ざされていた扉が開かれたかのようだった。

娘と過ごす休日も、これまでとは違って見えた。夫の隣で感じていたあの微かな疎外感が消え、純粋に家族としての穏やかな時間を楽しむことができるようになったのだ。夫もまた、私に隠し事をしなくなり、少しだけリラックスした顔を見せてくれるようになった。

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秋が深まり、紅葉が美しい季節。私たちは家族で近くの公園を歩きながら、ただ穏やかに笑い合っていた。もう、秘密はない。全てを打ち明けた上で、私たちは新しい形の「幸せ」を手に入れたのかもしれない。

「ねえ、今日は本当に楽しいね」と夫が言う。

私も心から微笑んで「うん、私も」と答えた。

〜特別編〜

それから一年が経ち、私たちの生活はずいぶんと変わった。夫とは、まるでチームメイトのように、互いに支え合い、秘密を持たずに生きている。驚くことに、夫にも彼女ができた。最初にその報告を受けたときは少しだけ胸がざわついたけれど、彼もまた私と同じように「自分らしさ」を取り戻しているのだと思うと、自然とその感情もおさまっていった。

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ある週末、私は夫に彼氏を紹介することになった。カフェのテラス席で待ち合わせ、彼氏が先に到着していた。彼は少し緊張した様子で、夫が来るのを待っていた。しばらくして、夫がやってきて、二人はぎこちない握手を交わした。

一緒に食事を囲みながら、夫と彼氏が笑い合う姿に、私は思わず微笑んでしまった。こんな光景があるなんて、かつては想像もできなかったけれど、今は何とも言えない安心感と温かさに包まれている。

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そして、数週間後。夫が少し照れくさそうに「実は…俺にも彼女ができたんだ」と報告してきた。私は驚きつつも嬉しさが込み上げ、思わず「おめでとう!」と声を上げてしまった。今度は、私がその彼女に会ってみたいと思う番だった。夫と彼女、私と彼氏、そして娘まで一緒になって、家族のように過ごす時間が増えていった。

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やがて、娘も含めた総勢7人で旅行に行く計画が持ち上がった。最初は奇妙に思えたけれど、みんなでワクワクしながらプランを立てるうちに、この旅行がどれだけ楽しいものになるか想像できるようになった。

旅行当日、私たちは二台の車に分かれてドライブに出発。宿に到着すると、広いコテージのリビングでわいわいと会話が弾み、娘も楽しそうに走り回っている。夜になると、大きなテーブルを囲んで、みんなで食事をし、互いの近況を話し合った。普段は言えないような悩みや、喜びを共有できる場に、みんなが心からリラックスしているのが感じられる。

この「家族」のかたちは、どこか奇妙でありながらも温かい。もはや、私たちには隠し事もなく、ただ一緒にいることの喜びを感じられる。

娘が寝静まったあと、みんなで星空を眺めながら、自然と笑顔がこぼれる。こうして歩み寄った新しい世界で、私たちはこれまでよりも深い絆を築いていた。

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