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【ガンボージノーバ】忘れられた庭#エッセイ#ひと色展2023コラボ企画
見知らぬ町をバスの中から眺めている。冬の朝はまだ薄暗い。赤信号で止まり、ふと窓の向こうの雑木林が目に入った。うもれるようにひっそりと小さな廃屋があった。
生物の気配が感じられない。人が長く住んでいない家はどうして一目みて分かるのだろう。割れた窓から散らかった仄暗い室内が見え、そのさらに奥の窓には白々と明るくなってきた街の風景がくっきりと張りついていた。
その荒れ放題の庭…もとい薮の中に、ひとつだけ実をつけた木があった。
黄色い小さな柑橘がひとつ。
ぽつん。きれいなまんまる。
つるんとしたグレープフルーツのようだけどすこし小ぶりな気もする。黄昏時の満月のようなくっきりとした黄色。お店に並んでいても遜色がないほど綺麗な果実。
誰も気づかない見て見ぬふりの荒廃したこの庭で、最後の力を掻き集めて実をつけたように見えた。誰のために?
知らなければこんな気持ちにならなかったのに。
知らなかった自分には、過去には戻れない。
世の中はそんなもので溢れている。
それでも生を諦めたくないとも思う。
ゆっくりと景色が動き出す。
瞳を閉じて微笑みを浮かべながら
最後の祈りをささげるキミは朝の喧騒の中へ流れていった。
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