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これは絶望の物語なんかじゃない【七草にちか WING編】

プロデューサーのみなさま、お元気ですか?
お元気なわけないですよね。

先日、新ユニット『SHHis』から、七草にちかちゃんが実装されました。
正直なところ、新キャラクター発表時の彼女に対する注目のされ方は歪んだものだったと思っています。「はづきさんの妹」らしい、「社長」の過去に関わってくるらしい、という外的な動機。その他、ビジュアルの強い緋田美琴や初のライバルキャラクターである斑鳩ルカなどの存在によって、彼女自身への注目度は他と比較すると霞んでしまっているようにも感じました。今思い返すと、既にその時点から私たちは愚かだったのです。

このnoteでは、感想というには少し踏み込んで、かといって考察というほど大層なものでもない、いわゆる振り返りみたいなことをしていこうと思います。

七草にちかは、オーディションでもスカウトでもなく、自分自身を押し売ることでアイドルになりました。この時点での彼女のアイドルに対する熱意は、並々ならぬもののように感じます。
しかし、WINGを勝ち進んでいくにつれて、彼女の笑顔はみるみるうちに失われていってしまいました。七草にちかのWING編における大きな論点は、この「何故彼女は変わってしまったのか?」にあると思います。

普段のシャニPからは考えられないような発言です。「普通」といえば園田智代子が代表例ですが、彼は智代子にすら「素朴」や「親しみやすい」という言葉を使っています。もちろん、その要素がアイドルとして彼女の武器になりうるからですが、それと同じく、普通なら「平凡」なんてマイナスイメージに繋がるような言葉、無個性を象徴するような言葉を1人の女の子に対して使ったりすることは滅多にありません。この台詞から既に、七草にちかが嫌な意味で、他とは異なるキャラクターであることがわかります。

そしてにちか自身も、自分が平凡であることを理解しています。これが何よりまずい要素であると、我々は後に知ることになるわけです。

おそらくにちかは、アイドルになることでその「平凡」から抜け出せると信じていたのではないでしょうか。正確には、アイドルとして活躍することで、というよりも、アイドルという肩書きを得ることで、です。

なので、283プロに所属出来るとわかった当初の彼女は、とても大喜びしています。にちかのこの時点での目標は「アイドルになること」であり、ここが既にゴールだったからです。
しかし、そんな彼女に翳りが見え始めます。

最初から危なっかしさはありましたが、おそらく本格的に不穏な空気が漂い始めたのはここからでしょう。
前述した通り、にちかの目標は「アイドルになること」そのものでした。なったはいいものの、アイドルという存在を維持し続けることの難しさまでは、深く想像していなかったのだと思います。それがこのWING編における、彼女の苦しみの核ではないでしょうか。アイドルになれたからといって、その事実だけで平凡から抜け出せるわけではない。アイドルでい続けるためには、自分の「足」で勝ち進んでいかなければならないのです。

はづきさんはにちかの姉です。普通に考えれば、妹に幸せになれる道を進んで欲しいと思っているはず。それでいてこんな試練を与えたのは、アイドルという道を選ぶことで、にちかが幸せになれないことを始めから予感していたからだと思います。

プロデューサーも疑念を抱いているように、この時のにちかがWINGを優勝するヴィジョンなんて、まるで想像出来ません。それくらい彼の目に映るにちかは平凡であり、彼女のWING優勝がどれだけ「不可能」に近いことなのかを実感させられます。
はづきさんが妹にその「不可能」を突きつけたということは、それだけアイドルの道を選んで欲しくなかったのでしょう。

ここで、この『grab your chance!』のコミュにおける、にちかへのシャニP評を確認していきます。

この言葉は、にちか自身の持つ希望と絶望の両方を表しています。
「明るい」「楽しい」「みずみずしい」、これらの要素はアイドルとして申し分ないポテンシャルと言っていいはずです。しかしそれらの輝きは、彼女がパフォーマンスを行うことで「コピー」へと成り下がってしまいます。これはパフォーマンスを売りにするアイドルとして致命的なことですが、反対に言えば「コピー」にさえならなければ、彼女が輝ける可能性はまだ残されていることも同時に示唆されていると考えられないでしょうか。これはにちかWING編のコミュの中でも、数少ない救いの見い出せる言葉です。
けれど、少なくとも現時点での彼女には、コピーという選択を捨てることは出来ません。

「知ってる曲」や「踊れる曲数」、これらはみな先駆者(アイドル)の引いたレールの上であり、彼女はそれをなぞっているに過ぎません。まるでオリジナリティーを持ち合わせていないのです。というよりも、気付けていません。自分の存在を自分自身で殺してしまっています。

そんなにちかの敬愛する相手が、次のコミュ『なみ』で明かされました。
ちなみにこの「なみ」、人名であることはもちろんそうですが、「並」というにちかの現状とも掛け合わせてそうな気がします。

数年前のイベントコミュ『きよしこの夜 プレゼン・フォー・ユー!』でちらつかせていた天井社長の過去の担当アイドルが、このような形で再登場してきました。あの時点から伏線を張っていたわけですね。こっっっわ。ホラーかよ。

ここでシャニPは、にちかに当時の八雲なみの曲を聴かせてもらいます。その曲は、先程の『grab your chance!』のコミュでにちかが歌っていた曲でした。そして彼はこう思います。

「にちかが歌っていた曲だ」ではなく、「にちかだ」と表現していますね。
この時点で我々は、七草にちかと八雲なみを、重ね合わせながら考えていかねばなりません。

八雲なみの活動期が二十数年前ということは、シャニPがプロデューサー業として彼女に関わったことはまずないでしょう。つまり、アイドルとしての八雲なみのことしか彼は知らないはず。それでいてこの発言ということは、既にアイドルという仮面で覆い隠せない程に、八雲なみはどこか辛くて悲しげな顔を見せながら活動していたことになります。

八雲なみの存在は、次のコミュからさらに顕著に、にちかへと関わってくることになります。

八雲なみのスカウトの話。スポットライトやカメラが当たるように、雑踏の中でも人目を惹く特別な女の子。反対に、誰も見てくれない、平凡で人ごみに紛れてしまう自分(にちか)。両者を対比させていることがよくわかる内容です。

自分の「足」では勝負出来ないと悟ったにちかは、憧れのアイドル・八雲なみのステップを無理やり真似します。単に真似をするだけならさほど問題はないのですが、彼女の場合、その背景に過剰な自己犠牲を伴ってしまうのが問題です。

にちかはとんでもなく自己評価の低い人間です。自分の平凡さを、誰よりも自分自身が一番理解しているはずです。だからこそ、
アイドルでい続けるためにはWINGで優勝しなければならない→WINGで優勝するためには自分の「足」で勝ち進まなければならない→でも自分の「足」にはそれを叶えるだけの力がない→自分のままでは何も出来ない→だから八雲なみになるんだ という非常に残酷な判断に至っています。要するに、彼女の中には「自分」として戦う、という選択肢がはなからありません。自分自身を諦めてしまっているからです。
ちなみにこのにちかのセリフは、『きよしこの夜 プレゼン・フォー・ユー!』での、八雲なみの発言とも重なりますね。

八雲なみもまた、合わない靴に無理やり自分を合わせていました。今のにちかと同じです。そして彼女はアイドルを辞め、突如失踪するという結末を迎えています。それを踏まえると、いかに今のにちかが危険な状態にいるかがよくわかりますよね。

このコミュタイトルは『on high」です。"高い所"。にちかにとって、とても高い所にいる八雲なみ。けれどその八雲なみは、平凡な自分と同じ痛みを抱えていました。それをにちか自身が知るのは次のコミュでなのですが、既にシャニPはこの時点でうっすらと気付いています。

最後の共通コミュは『may the music never end』というタイトル。音楽はきっと終わらないであろう、みたいな意味かと思ったんですが、「may」でググってみると「〜するために」や「願わくば〜ならんことを」といった意味も兼ね備えてるみたいです。ちょっと英語の成績は笑えないレベルで酷かったので、文法的なことは何もわからんのですが…。

ただ、準決勝前のコミュでシャニPが祈っているところを見ると、案外3つ目の"祈願"の意も含んでいる気はします。どうか、彼女の音楽が終わりませんように、といったところでしょうか。

このコミュでにちかは、社長室に置いてある八雲なみのレコードを見つけます。

と同時に、シャニPはにちかと別の場所で彼女のことを考えています。

「『平凡』な子に出来る200%のこと」という言い方がものすごく嫌ですね。平凡な子が200%頑張ったって、才に恵まれた子の7~80%には敵わない、みたいな言い方です。平凡な人間にはやはり限界があるかのような。私は序盤で、にちかがくすんでしまう原因は、現時点で「コピー」することしか術を知らないからであって、にちかがにちかとして輝けるようになれば道は開けるのではないか、とか言ったと思うのですが、その持論を持ちたい私からすると、このシャニPの発言は結構痛いですね。彼女の可能性はここまでだ、と言われてるみたいで。

にちかの進むべき道は本当に合っているのか、そう心の中で問い掛けるシャニPに

これですよ。タイミングが何とも皮肉なもんです。
きっとにちか自身、シャニPと同様に、自分はこれで正しいのか、本当にアイドルはやりたかったことなのか、ずっと自問自答していたと思います。けれどここまで自分を支えてきた八雲なみという「神様」のような存在がいて、良くも悪くも彼女はそれに従い、心の拠り所にしてきました。ところがその神様でさえ、自身のアイドル活動に疑問を持ち、苦しみながら活動していたのです。おそらくこの時、にちかの八雲なみに対する絶対的信仰は揺らぎ始めました。

「憧れは 理解から最も遠い感情だよ」なんて、某BLEACHの某藍染様が言っていたりしましたが本当にその通りで、このレコードを見つけたことで初めて、にちかにとって尊敬と信仰の相手だった八雲なみに、自分と同じ苦しみを持っていたかもしれないアイドルとして、疑念と共感を抱き始めるようになったのだと思います。

どのみち八雲なみの呪縛から抜け出さないことには、にちかはにちかとして幸せになれません。

特に顕著なのはシーズン2突破後のこの会話です。にちかのこと、ちゃんと見てもらえてるんだ、と声をかけようとしたシャニPに対して、彼女の口から出てくるのは「なみちゃん」のことばかり。これでは、上手く行けば「なみちゃん」がすごい。行かなければ自分は「なみちゃん」にはなれない。どちらにせよ、自分で自分のことをまるで認めてあげていません。成功はなみちゃんの手柄で、失敗は自分のせい。これでは精神的に潰れてしまうのも当たり前です。

共通コミュの話に戻ります。

普通、というか今までの283のアイドル達は、アイドルとして高みを目指すため、そのプラスを得るためにオーディションを戦っていました。しかしにちかの場合は、はづきさんから課せられた「WINGで優勝出来なければアイドルは辞める」という枷があります。いつしかその枷が、彼女をプラスを得るための戦いではなく、「終わり」というマイナスから逃れるための戦いへと変えてしまっていました。

これは準決前のコミュでシャニPも言っていますね。

はづきさんとて、当然妹に辛い思いをさせたいわけではありません。彼女が楽しそうに、笑顔でアイドルをやっているなら、優勝出来なかったからと言って無理矢理辞めさせたりなどしないでしょう。けれど、案の定にちかは苦しみながらアイドルを続けています。 それ故のこの言葉ですね。にちかが幸せになれるなら、アイドルという彼女の音楽に終わりは訪れません。
ちなみに、そんなに苦しんでやるくらいならアイドルなんて辞めればいいのに、と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、いずれにせよその選択も、彼女を幸せにはしてくれないはずです。
前述したように、にちかはおそらく「平凡」から逃れるためにアイドルになりました。大好きだった八雲なみのように、アイドルになれば自分も特別に近付けるかもしれないと思ったからです。つまり、平凡で何も無かった彼女にとって、「アイドル」という肩書きを得たことはたった一つのアイデンティティーであり、同時にそれを失うことは、また何も無い平凡な人間に戻ることに他ならないわけです。

話がそれました。

そんなこんなで(そんなこんなで?)、終わりから逃れるためにオーディションを戦ってきたにちかですが、この4つ目の共通コミュで、自分を支えてきた八雲なみという「神様」を喪失してしまいます。それにより、今までなるべく向き合わないよう逃げてきた、アイドルとは本当にキラキラしたものなのか、自分はアイドルとしてまだ続いていくべきなのか、という命題と衝突せざるを得なくなりました。

最後の敗退コミュで「なみちゃんは楽しかったかな」と言っている辺り、「神様」という指標を失ってからの彼女が、どれだけ苦しみ、迷いながら進んできたかがわかります。終わっても地獄。前に進んでも地獄。そりゃあ笑顔だって自然に作れなくなりますよ。

勢い任せでたらたら書いていたら、このnoteの着地点がわからなくなってきたのでそろそろ締めます。最後の優勝コミュを見ていきましょう。

「ひんやり」して「ぴったりじゃない」靴。自分に合わない、自分の本意ではない靴を履いてアイドルとして歩んでいく。八雲なみの当時の心境が窺えます。

にちかが「自分」でつかんだ時間だから、と言うシャニPに対して、彼女はこう言いました。おそらくオーディション中のにちかであったら「なみちゃんに」と答えていたはずです。けれど今は、「なみちゃんに"も"」と自分の存在を認めつつ、彼女に対してお礼を言っています。もちろん、本当はもっと舞い上がるくらい喜んで、自分を抱きしめてあげていいはずのシーンですが、まだ彼女にはそれが出来ません。けれど、これはきっと大きな一歩のはずです。

4つ目の共通コミュで八雲なみという「神様」に対して疑念を抱いた彼女は、そこでその神様を喪失しました。これは先程も触れましたね。にちかの準決勝・決勝は、明らかに今までのオーディションよりも苦しんでいたように感じます。それはきっと、神様を失った彼女が、八雲なみに頼るだけでなく多少なりとも自分の「足」で進んできたからです。だからこそ常に不安がつきまとい、平凡な自分では話にならないんじゃないかと、自分自身で勝負することの苦しみに苛まれてきたわけです。

そしてにちかは、自分の力で、自分の「足」でWINGを優勝しました。

七草にちかは確かに平凡な少女かもしれない。でも、八雲なみという呪縛から放たれた今、彼女はようやくコピーではない「にちか」として、自分の足で、自分の輝きで、アイドルとして羽ばたいていけるはずです。どちらにせよ、辞めても平凡と向き合う地獄ならば、辞めずに自分の平凡をぶち破る道が一番最善でしょう。

シャニPならきっと、彼女に合った靴で、彼女だけの靴で一緒に歩んでいってくれるはずです。
村上春樹が執筆した『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』という著書に、「生きている限り個性は誰にでもある。それが表から見えやすい人と見えにくい人がいるだけだ」という言葉があります。どんなに平凡でも、まだ見えないだけで、彼女だけの輝きは必ずある。
この「七草にちか WING編」は、決して絶望の物語ではなく、にちかが前に進むための、希望の物語です。いつか、彼女の羽がシャニPの光に照らされる日を願って。このnoteは締めさせていただきます。

にちかちゃん、あなたは幸せになれるよ。

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