20歳で妊娠した話③
自分でパンツを下ろして、ナプキンを見てみた。だけど、それらしいものは見当たらなかった。だけど、一応看護師さんを呼んだ。
看護師さんは手袋をしてナプキンをごそごそすると、
「よし、出てるね。もう帰る支度していいよ」
と言われた。赤ちゃん見る?と言われたから、少し迷って見ることにした。
そんな私を見て看護師の方は言ってくれた。
「嫌だったら見なくてもいいんだよ。血まみれだから気分悪くなっちゃう人もいるし、見たら罪悪感とか産めなくて申し訳ないって思ってしまう人もいるから」
そう言われたけど、自傷とかの経験がありグロいものには抵抗がなかったし、罪悪感を感じたとしてもそれが赤ちゃんに対しての誠意というか、懺悔というか、筋だと思ったから、見ることにした。
6cmだと言われた私の子は、かわいかった。
看護師さんはこれが頭で、目がこれだよと教えてくれた。その時9週だったけどもう目ができていた。体は半透明で透き通ってた。目はちゃんと2つあってほんとにちっちゃいちっちゃいほくろみたいだった。
見たらやっぱり悲しくなって、失いたくないと思ってしまった。今も悲しい。
一生この子のことを背負って生きていくつもりだ。
中絶後は、1ヶ月くらい出血が続いたけど少しずつ妊娠前と同じように戻っていった。
本当に、避妊には気をつけなくてはいけないと思うようになった。そして、少しでも体調が悪かったり生理が遅れたりすると妊娠していないか不安になってしまうようになったし行為の時も避妊しているか、破れたりとれていないかを確認するようになった。
〜後日談、というかちょこっと話〜
妊娠がわかってから中絶までの日々、お風呂上がりにお腹の中の子のことをよく考えていた。
産んであげられないのに、伝わるはずがないのに心の中で子どもに声をかけることがあった。
「お母さんは今日も仕事してきたよ。明日も頑張るよ。赤ちゃん、私のところに来てくれてありがとう。産んで挙げられなくてごめんね」
そんな感じで声をかけていた時、突然頭の中にパッと名前がおりてきた。こういう名前がいいな、とか性別はどっちだからこの名前だ、と考えてたわけじゃない。
ひかり。
この子は、私のところに来てくれた光なのかもしれない。頭の中で突然私に光が当たる映像も浮かんだ。
この子は、光だ。
なんの前触れもなくそう思った。
性別はもちろんわかるほど成長していなかったからわからない。
でも、男の子でも女の子でもこの子はひかりという子だ。
そう思ってしまった。漢字じゃなくて、ひらがな。
産んでもないくせに名前をつけるなんて馬鹿みたいだしおかしいことなのかもしれない。
でも、中絶してから9ヶ月が経つ今でも心の中で名前を呼んで声をかけている。
こんなの、私のそう思ったという妄想なんだろうしエゴみたいなものかもしれない。でも私は突然、名前が頭の中に、私の中にスっとおちてくる、入ってくるという表現が正しい体験をした。
でももし、また妊娠できてその子を産める時が来たら。ひかりと名付けたい気持ちはある。
でもその子はひかりじゃない。
私と彼氏が勝手に産んでしまって、勝手に殺した、その被害を受けた子だ。
もしその時が来たら、あなたにはお兄ちゃんかお姉ちゃんがいるんだよと伝えたいと思った。でもそれってあなたの母親は堕ろしたんだ、と伝えるのと同じで昔の私は中絶をした母親なんてきっと嫌だった。それを聞いたら嫌な気持ちになるかもしれない。
だから、もしもその子が、またはその彼女が同じ状況になって我が子が苦しんでいたら伝えようと思う。
私がするべきは、覚悟ができていない時は避妊を怠らないこと、ずっとひかりを忘れないで生きること。