たばこ の 王様
『ラムセス2世』は3200年前のエジプトのファラオ(王様)であるが、この名前を冠した煙草が存在していた。昔バイト先の店長が、「日本では殆ど流通してなくて横浜と金沢でしか売ってるの見た事ないけど、ラムセス2世は旨かった」とフランス製のたばこGITANESを吸いながら話してくれた。
社会人になって聞いた記憶をたどり、横浜SOGOの輸入煙草屋に行くと、それは確かにそこに売っていた。マイルド·セブン(現メビウス)が一箱250円くらいだった時代に、ラムセス2世は一箱1,000円という高級品だった。1975年にラムセス2世のミイラ腹部からタバコが発見された、という出来事が名前の由来ではないかと言われているが、ニコチアナ・アフリカーナというタバコがアフリカ大陸には自生していて、古代エジプトでは防腐剤や防虫剤として用いられていたという説がある。
ラムセス2世は米国フィラデルフィアの煙草メーカーの銘柄であるが、オリエント葉と呼ばれる発酵させた高級トルコ葉を、ドイツの工場の生産ラインで紙巻きしていた、というコスト度外視のこだわりの一品と言われている。口に咥えるとフィルターのところが甘く、煙を吸うとなんとも言えない異国情緒溢れる匂いと幸福感があった。
(注:怪しい葉っぱではありません)
ところが間もなくラムセスは生産中止になってしまう。最後に見かけたのは、酔った帰りに偶然入った、高田馬場にある果物屋兼タバコ屋だった。“こんなとこに いるはずもないのに”と思って聞いたら、店主が店の奥から大事そうに小箱を出してきて、その中の一つを売ってくれたのだ。
実は、同時期にゲルベ·ゾルデという、やはりオリエント葉を使っていた煙草に、毒入りワインで有名になったジエチレン・グリコールが入っていた事が発覚した、という話があるが、ラムセスの生産中止となんらかの関係があるかもしれない。
(注:怪しい葉っぱではありません)
元来、モノは直ぐに捨てる方だが、ラムセスの空き箱だけは4度の引っ越しを逃れて今なお残っている。そのパッケージを見ると、社会人になった頃に同僚と寮の部屋で煙草を燻らした事を思い出す。
まさに、幻の煙草となってしまってもファラオの記憶が刻まれているかのようである。