【一口馬主】1歳馬の馬体の見方(保存版)
タイトル通り、1歳馬の馬体の見方について体系的にまとめたものです。ひとつ前のエピファネイアの記事を書いているさいに、自分があまりにも馬体を見られておらないことに愕然としてしまい、さすがにまずいだろうってんでリハビリがてら書いてみることにしました。ただし、これはあくまで自分用のメモですし、従来のパラダイムを覆すような斬新な視点もとくに含まれていないので、過度な期待はしないようにお願い申し上げます。
この馬体論は「テイエム」の冠名でおなじみの竹園正継氏が2004年に出した『馬見の極意』という本がベースになっています。というか、95%ぐらいはこの本の要約だと言っても過言ではないかもしれません。もう20年も前に書かれたものですが、いまだにその内容はまったく古びていないと勝手に自負しております。
※個人的に重視しているファクターを重要度の順に◎→◯→▲→△といった風に分けています。
・馬体チェックポイントその1〜皮膚、顔、首
◎毛艶がよく、皮膚はなめらかで薄い
毛艶や皮膚は健康状態と新陳代謝のバロメーターでもあります。皮膚の薄い馬は汗腺の機能に優れており、効率的に汗をかく。汗をかくのは体温を一定に保つためで、新陳代謝のよい馬ほどレース中の体温調節がうまく、高いパフォーマンスを持続することができます。
使い古された表現かもしれませんが、ビロードのようになめらかでキラキラ輝く皮膚を持った馬を選びたいところです。ただし、一口馬主のカタログに載っている立ち写真は後から加工をかけたものが多いので、どれも素晴らしく見えてしまいがち。実際の質感はウォーキング動画を見た方がわかりやすいかもしれません。
△黒目が大きく澄んだ涼しげな目
利発さや穏やかな気性を表します。
▲顎っ張りがよい
飼い葉食いの良さを表す。競走馬は飯を食って大きくなってナンボ。ゲッソリとしていなければいい。
◎頭のサイズは大きすぎず、首は無理のない長さ、無理のない太さ、無理のない角度
「名馬は首で走る」と言われるように、頭と首のバランスがきわめて重要です。頭が大きすぎるとリズミカルな首の運動が妨げられてしまうし、逆に小さすぎると勢いをつけることができない。首についても標準からズレすぎると推進力を欠いてしまいます。「適度なサイズ感の頭を持った適度に太くて適度に長い首が適切な角度で前躯に連結している」のがベスト。
・馬体チェックポイントその2〜前躯
◯前膊や前腕に筋肉が付きすぎていない
貧弱な前腕の馬は論外ですが、あんまりムキムキすぎるというのも考えもの。前肢の速い動きがいたずらに阻害されるだけで競走能力の向上には繋がらなかったりします。そもそもムキムキの筋肉なんていうのは、育成段階に入ってからいくらでも付けられますからね。これはダート馬でも同様。
◎胸は深く狭く
胸の深さとは、キ甲から腹の線に向かって垂直に引いた線の長さのことを指します。この部分が長ければ長いほど大きな心臓を持っているものと推測されます。胸の幅は前方から馬を見ないとわかりませんが、こちらは適度に狭いぐらいがいい。逆にあまり幅が広いと、人間でいうガニ股のような状態になってしまい、レース中にスムーズな肢の動きができなくなる恐れがあります。また、1歳の時点でキ甲が抜けかけている馬には注意しましょう(早熟の可能性がある)。
・馬体チェックポイントその3〜中躯
◯背中は長すぎても短すぎてもいけない
「馬の背中は短い方がいい」とよく言われますが、あんまり短いのも×。5円玉に紐を通して作った振り子を思い浮かべてもらえればイメージしやすいと思うのですが、自分の手である程度の慣性をつけてやらないと振り子は動き出さない。振り子の基点となる馬の背中も同じで、極端に短すぎるとトップスピードに乗りづらくなってしまいます。一方で、長すぎると基点が安定せず、動作のブレが大きくなってしまう。ほどほどな短さでいい。
◎腹の線が長く、腹袋に力がある
サラブレッドの理想的な体型は「長躯短背」と言われます。この場合の長躯というのは前脚の後ろから股へと続いていく腹の線が長いことを指します。腹の線の長さは持久力の高さの表れです。ちなみにここでいう持久力とは、長距離を走るためのスタミナではなく、一つのレースを最初から最後まで全力で走り切れる力、ぐらいの意味で使っています。
このことは腹袋についても言えます。写真のスターズオンアースのように、長い腹の線が腹袋のところで切れ上がってしまわずに、グッとこらえたのちに股へと向かってゆるやかなカーブを描いていくのが理想。激しい調教を施していないうちから腹が切れ上がっているような馬は飼い葉食いか持久力のどちらかに問題があるのかもしれません。個人的には、腹袋が大きくて力のある馬ほどその後の伸び代も大きいと考えています。
◎腰は高いに越したことはない
理想は腹袋のラインと平行するぐらい。こちらも上記のスターズオンアースの写真を見てもらうのがわかりやすいのではないかと思います。少々アンバランスに映ってしまうかもしれませんが、1歳の夏ごろは身体の各部位がてんでに成長を遂げる時期なので、必ずしも均整がとれている必要はない。なかでも腰が高いということは、それだけ馬体に成長の余地を残している、という証左でもあります。腹袋と同じくその馬の伸び代に直結する最重要のファクターです。
ただし、エピファネイアやキタサンブラックのように素晴らしいプロポーションの馬を多く出す種牡馬がいる一方で、キズナのようにバランスの崩れた馬をよく出す種牡馬もいるなど、馬体のバランスについては一概に言えないところもあります。
・馬体チェックポイントその4〜後躯①
◯トモは長くて深くて巨大で、前躯と比べて勝っている
トモは当然大きい方がいい。貧弱で形のよくないものは避けたい。牝馬の場合は少し割り引いても構いませんが、それでも大きいに越したことはない。
▲トモ全体が斜め後方に流れておらず、脾腹~腹下~後膝の三部位がなるべく接近している
この部分は完全に個人の好みの範疇だと思うのですが、トモ全体が斜め後ろに流れていたり、脾腹~腹下~後膝のトライアングルが広すぎたり、やたらと後ろのスタンスで立ったりする馬というのは体感ではあまり走っていないように思います。
▲適度に尾離れしている
トモが力強かったり物事に対する集中力をきちんと持っている馬は「尾離れがいい」と言われます。立ち写真だとお尻に隠れて見づらいので、ウォーキング動画でチェックしてみるとわかりやすい。実際の競走成績と引き比べながら尾離れだけに注目して募集馬の映像を見たことが過去にあったのですが、極端に尾離れしていない馬の成績は壊滅的なレベルでした。
△正尻を選び、極端に逸脱した形の尻は避ける
お好みで。
・馬体チェックポイントその5〜後躯②
◎筋肉はしなやかそうで柔らかみを感じるもの
後躯についても前躯と同じことが言えます。近年でもっとも理想的だなと思ったのがリバティアイランドとグランアレグリア。全身にまとったしなやかで柔らかそうな筋肉がべらぼうに薄い皮膚越しに見て取れます。前者は上に貼った父のドゥラメンテにもそっくり。
◎大腿二頭筋と半腱半膜様筋の境目がくっきりしている
上の2頭の写真を参照。大腿二頭筋が逆のくの字のような弧を描いて発達し、半腱半膜様筋へ移るあたりでゆるやかな段差ができています。ちなみにこの項で何度か言及する「筋肉の発達」というのは、いわゆるムキムキな筋肉とは別のものなので注意してください。
◯大腿筋やヨロ肉がしっかり発達している
大腿筋とヨロ肉が盛り上がり、臀部の付け根や飛節への移行部分が段々になっているぐらいがベスト。高度に発達したヨロ肉は強烈なキック力を生み出します。個人的に歴代ナンバーワンのヨロ肉の持ち主はデアリングタクト。
◎後ろから見た腰の幅は胸の幅の2倍以上で、形は四角形
さいぜんも書いたように、胸の幅はなるべく狭い方がよいのですが、後方から見た際の腰の幅は広ければ広いほどよく、その差がちょうど2倍ぐらいであってほしい。
臀部が発達した馬の腰の形は後ろからだと縦長の長方形に見えます。この時にヨロ肉を巻き込んで一体化しているとなおよい。現時点では小さい馬でも、トモの形がこうなっておれば将来的に大きくなる可能性があります。過去に出資したドナアトラエンテがまさにそういうタイプでした。筋力が足りない馬の場合はここが三角形っぽく見えてしまう。
・馬体チェックポイントその6〜脚部
◯長い前腕と短い管のバランス
前管は前腕の半分ぐらいの長さで、後管は前管の2倍ぐらいの長さ、というのが黄金比。レース中にもっとも負担がかかる箇所のひとつが前管なので、ここはなるべく短い方がいい。長い割り箸はすぐに折れますが、その折れた割り箸をもう一度割ろうとすると難儀してしまうのとイメージ的には同じです。
◯繋靱帯や屈腱がはっきりと見える枯れた管
繋靱帯や屈腱が強靭に発達した馬の脚はともすれば枯れ木のように見えます。こういう脚を持った馬は一般的に故障しづらいと言われています。
◯繋は長すぎず短すぎず、寝すぎず立ちすぎず
こちらも競走能力というよりは脚の丈夫さに直結します。繋が長かったり寝すぎていたりすると、クッションが効きすぎてしまい、屈腱などにかかる負担が大きくなる。逆に短かったり立ちすぎていたりすると地面の衝撃を吸収しきれなくなってしまい、やはり故障につながりやすくなる。
◯膝や球節は丈夫そうでかつメリハリがあって大きい
異常な膝の形には「弓脚」と「湾膝」の2種類があります。前者は前肢が逆のくの字型に反ってしまった膝のことをいい、脚に負荷がかかりやすく故障を起こしやすい。後者は前肢がくの字に反ってしまった膝のことで、弓脚ほど致命的ではないですが、程度が甚だしいものは避けた方が無難です。
ただし個人的に、横から見た前肢が「あまりにも真っ直ぐすぎる」というのも故障リスクが高いように感じています(膝の曲げ伸ばしがうまくないせいでそうなっているのかもしれない)。
膝と球節はできるだけ大きいものを選ぶ。表面がボコボコしているのは×。
◎前方から見た前肢は膝から蹄まで真っ直ぐに伸びている
横から見た前肢を今度は前方から確認してみます。大切なのは左右の脚が膝から蹄まで真っ直ぐに伸びていること。肢軸が身体の外側を向いていたり内側を向いていたりすると、体重が均等にかからなくなってしまい、故障の原因になりやすい。
▲飛節が頑丈で大きい
飛節は後肢が蹴りを繰り出す上で非常に重要な働きをします。力強い蹴りのためには巨大でかつ骨密度の高い飛節がほしい。極端な曲飛は蹴りが後ろに伸び切らず、トップスピードに乗ることができないためなるべく避けたいところ。形がよくないものも×。
▲繋の角度と蹄の角度、肩の傾斜角がほぼ等しい
あまり乖離が大きいと×。
・まとめ
◎と◯をつけた項目を並べておきます。
◎毛艶がよく、皮膚はなめらかで薄い
◎頭のサイズは大きすぎず、首は無理のない長さ、無理のない太さ、無理のない角度
◎胸は深く狭く
◎腹の線が長く、腹袋に力がある
◎腰は高いに越したことはない
◎筋肉はしなやかそうで柔らかみを感じるもの
◎大腿二頭筋と半腱半膜様筋の境目がくっきりしている
◎後ろから見た腰の幅は胸の幅の2倍以上で、形は縦長の長方形
◎前方から見た前肢は膝から蹄まで真っ直ぐに伸びている
◯前膊や前腕に筋肉が付きすぎない
◯背中は長すぎても短すぎてもいけない
◯トモは長くて深くて巨大で、前躯と比べて勝っている
◯大腿筋やヨロ肉がしっかり発達している
◯長い前腕と短い管のバランス
◯繋靱帯や屈腱がはっきりと見える枯れた管
◯繋は長すぎず短すぎず、寝すぎず立ちすぎず
◯膝や球節は丈夫そうでかつメリハリがあって大きいもの
余談ですが、冒頭で取り上げた『馬見の極意』の付録DVDには竹園氏が自身の馬体論を駆使しながら実際のセリで若駒を吟味していくもようが収められています。そこで落札されたのがあのフェリアードの03、のちの阪神JF勝ち馬テイエムプリキュアなんですね。誰からも見向きもされない落札額200万円ちょいの安馬を馬体メソッドだけで選び出す、という神かがり的な瞬間にわれわれは立ち会うことになります。本そのものはすでに絶版で、市場にもほとんど出回っていませんが、この特典映像はどこかのサイトにアップされているようなので、興味がある方はぜひ見てみてください。