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【一口馬主】種牡馬エピファネイアについて考える〜「クリスエスを弄るかシーザリオを弄るか」

本日から、サンデーTCの出資馬検討をしながら、短期集中連載のかたちで「種牡馬の成功パターン」についていろいろと考察してみたいと思います。原則的に2024年度のサンデーのカタログに載っている1歳馬の父親を対象としますが、筆者は「すでにいくつかある成功例のなかから共通項を見つけ出して括っていく」という帰納法的なスタイルでしか競馬を語れないので、サートゥルナーリアやコントレイルなどの新種牡馬はすべて割愛します(例外があるかもしれません)。さらにキタサンブラック産駒に関しては、考察の最中に「最強馬イクイノックスへの出資申し込みを忘れてしまった」という生涯のトラウマと向き合わされ続けることで気が狂ってしまうかもしれないので、こちらもカットとさせていただきます。キタサンブラックファンのみなさんには大変申し訳ないです。


・成功するエピファネイア産駒の配合とは?

まずは配合の面から。しかしながら、エピファネイア産駒の血統を考えるさいに誰しもがぶち当たってしまうのがエフフォーリアの壁だと思うんですね。エフフォーリアがなぜ走ったのか、いったいエピファネイアと母ケイティーズハートのどこが噛み合ってあれだけの大物が生まれたのか。このあたりをきちんと理論立てて説明できる血統派というのはおそらく存在しないのではないか。ためしに検索をかけてみると、「サンデーサイレンスのクロスとトニービンやSharpen Up系の持続力がプラスに働いたのだ」かなんかいう解説が出てきたのだけれど、それじゃあ日本中に腐るほどいるであろう似たような血統の繁殖牝馬にエピファネイアを付ければエフフォーリアっぽい馬が量産できるのか、というとおそらくそういうことにはならないし、実際になっておらない。この文章は単に「エフフォーリアが走った」という事実の後から自分の都合のいい解釈を当てはめているにすぎない。俺自身は「飛び抜けた傑物は必ずしも血統理論で説明できなくてもいい」と思っておる派なので、エフフォーリアを完全な例外と見なしてオミットしてしまったわけですが(笑)。


・パターンその1〜シンボリクリスエスを弄る

その上でエピファネイアの配合について掘り下げてみたいと思います。代表産駒の血統表を眺めていて真っ先に目につくのがサンデーサイレンスのクロスなのでしょうが、同産駒のほとんどがサンデーのクロスを持っていて、かつ今年の日本ダービーを非サンデー系の母を持つダノンデサイルが制したことを考えると、「サンデーのクロスを持っていることがプラスに働くのだ」とは言えなさそうです。
しかしこれ、発想をひねって、単にサンデーサイレンスをクロスしているのではなく、「エピファネイア自身が4・7×5・6の割合(薄いか?)でもつHail to Reasonの血を増幅しているのだ」ととらえてみるとどうでしょうか。たとえば、ヴィクトリアマイルのテンハッピーローズはHail to Reason直仔のRobertoとHaloをそれぞれクロスしてKris S.≒ブライアンズタイム3×3。エピファネイアの父シンボリクリスエスを弄りつつ相似配合的な趣きを醸しています。一方、日本ダービーのダノンデサイルはブライアンズタイムと7/8同血のDynaformerを持ってきてKris S.≒Dynaformer3×4。ダノンの方はさらにStorm CatやSeattle Slewが入るので、テンハッピーローズ以上にシンボリクリスエスの血統を刺激した配合になっています。こちらは「シーザリオの部分を1/4異系にする」非常にレアなケースです(もちろんこれも単なる後付けの解釈にすぎないわけですが…)。


・パターンその2〜シーザリオを弄る

その一方で、エピファネイアの母シーザリオを刺激するのがもう一つのパターン。早い話が「Sadler's Wellsっぽい血統を母親から調達してくる」というおなじみのアレなので、くわしい説明はいらないでしょう。デアリングタクトとステレンボッシュとイズジョーノキセキがキングカメハメハからNureyev(サドラーと3/4同血)を、アリストテレスが母系から直接Sadler's Wellsを、ジャスティンカフェは母父のワークフォースからNureyevとSadler's Wellsの両方を取り入れています。ユニークなのが阪神JFを勝ったサークルオブライフで、こちらにはウェルシュマフィン(≒Nureyev)とHaloの多重クロスとStorm Catという、成功したエピファネイア産駒の欲張りセットのような配合になっています。

Sadler's Wells
Nureyev


・母父ディープインパクトは相性が悪い?

母父にサンデーサイレンス系の種牡馬を持ってくる配合のなかではもっとも多く試みられたであろう、ディープインパクト牝馬とエピファネイアの組み合わせ。もちろんまったく走らないというわけではないのですが、結論から言ってしまうと、これまたサンデーと同じで「ディープインパクトとの組み合わせは決してプラスには働かない」。というのは、この配合の賞金上位の血統表を見てみれば明らかで、AJCCのアリストテレスは3代母父がSadler's Wells、小倉大賞典のエピファニーは母母父のGold AwayがNureyev系、アイビーSのオーソクレースは母母父のエルコンドルパサーがNureyevとSadler's WellsとLisadell(Nureyevの母の全妹)を持っていて、1勝馬ながら1億円近い賞金を稼いだムジカは母母父がSadler's Wells。てな具合に、4頭ともディープインパクトの血統とは別のところで成功パターンを踏襲しています。実際に大物が出ていない以上、ヌレサドを持たない母父ディープインパクトのエピファネイア産駒は避けた方がよさそうです。

余談ですが、エフフォーリアとデアリングタクトにはめずらしいNearcticの傍系が母系の奥に入るんですね。前者の3代母父ノノアルコはNearcticとHasty Road、後者の4代母Impetuous GalはBriartic(父がNearctic)とHasty Roadと、組み合わせも非常によく似ています。


・成功するエピファネイア産駒の馬体とは?

今回エピファネイア産駒の1歳のころの写真を集めるなかで、もっとも驚いたもののひとつが「サンデーレーシング所属の同産駒がまったく走っていない」という事実でした。4世代で20頭募集されたにもかかわらず、重賞馬はおろかオープン馬もゼロ。歴代で一番稼いだのが総賞金5000万円足らずのエピプランセスなわけですから事態は深刻です。したがって、今回は活躍した馬の1歳6月当時の写真をいくつか並べて参考にする、ということができないわけですけど、ここではG1を勝った大物4頭の1歳時の写真を掲げておきます。

エフフォーリア(1歳9月)
デアリングタクト(1歳7月)
ダノンデサイル(1歳7月)
ステレンボッシュ(1歳6月)

写真を眺めてなにか共通点が見つかったでしょうか。俺はさっぱりでした(笑)。たしかに4頭とも皮膚がべらぼうに薄く、均整の取れた雄大な骨格のフレームに、長めの頸やスラリと伸びた四肢や、容量は大きいのだけれどもそこまで筋肉質というわけでもないトモが連結している。しかしこれは単に大多数のエピファネイア産駒の特徴を列挙しているにすぎないのであって、活躍したエピファネイア産駒に特有の共通点ではない。現にダノンデサイルは母父のCongratsやStorm Catの影響なのか平均的な同産駒よりもいささかムキムキしていますし、ステレンボッシュは2月前半生まれのわりにはそこまで馬体のバランスがよくない。こういう馬を選べば高確率で走る、みたいな傾向はないように思われます。
強いていうなら、エフフォーリアは胸の深さと腹袋のデカさがちょっと尋常じゃあないレベルですし、デアリングタクトはヨロ肉の発達具合が今まで見てきた馬の中でもトップクラスです(この写真よりも動画の方がわかりやすいと思います)。この2つはたぶん父のというよりは母父をはじめとする母系の良さが引き出された結果なんでしょうね。ちなみに今あげた点は、個人的に馬体で馬を選ぶさいにもっとも重視しているポイントのひとつでもあります。というわけで、エピファネイア産駒は「平均的な同父の馬体に母系のストロングポイントが付け足された馬を買え」という投げやりすぎる結論を出してこの稿を閉じたいと思います。

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