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【一口馬主】種牡馬キズナについて考える〜「母父Storm Catの血を増幅せよ!」
サンデーTCのカタログの順番でいくと、エピファネイアの次はロードカナロアなんでしょうが、俺なんぞが今さらロードカナロアについて語っても仕方ないし、なによりちょうどハズレのカナロア産駒を掴んでしまったところでもあるので、すっ飛ばして今回はキズナです。かなり長いです。
・成功するキズナ産駒の配合とは?
キズナ産駒の賞金上位の血統表をチェックして、共通点を抽出し、文章にまとめようとしたところで愕然としてしまいました。というのも、NasrullahだのPrincequillo(この2つでいわゆるナスキロ)だのTom Foolだのいう、1940年代に生まれたいにしえの種牡馬たちの名前を出すことでしかキズナを語れなかったからです。
俺は『日本サラブレッド配合史』(なぜかうちに2冊あるので欲しい方がいたら声をかけてください)の笠雄二郎や望田潤や栗山求、および血統をわかりやすく「スピード/スタミナ」「アメリカ/ヨーロッパ」の二元論に還元して割り切ってしまった『血統基礎講座』でおなじみ尾林奉之などの血統理論に多大な影響を受けています(しかし最近は競馬自体をほとんど見なくなってしまったのでご無沙汰です)。先ほどのナスキロやTom Foolっちゅうのは、彼らの全盛期(?)だった80年代〜90年代〜ゼロ年代初頭ぐらいの馬を語るさいによく出てくる血統なのですが、2024年現在の今もそれらの種牡馬が絶大な影響を奮い続けている、という事実におもわず驚いてしまったわけです。
さて、肝心のキズナ産駒の成功パターンですが、一言で言ってしまうと「母父Storm Catの血を増幅せよ」これに尽きるのではないかと思います。ようするに、繁殖牝馬からStorm Catに似た血統をたくさん持ってきた配合ほど成功しやすいというわけです。これ自体はディープインパクトの成功パターンとあまり変わらないのですが(ディープの母父Alzaoは血統構成がStorm Catとよく似ている)、よりStorm Catの血にフォーカスしたのがキズナなのだ、とひとまずは言っておきたいと思います。次節ではまずStorm Catの血統表をバラバラにするところから始めてみます。
・Storm Catの血統表を解剖してみる
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Storm Catの主要な血統を抽出して列挙してみます。
・父Storm Birdのライン
Northern Dancer
Bull Page(Nijinskyの母父でもある)
Chop Chop
・母Terlinguaのライン
Secretariat(Nasrullah+Princequillo)
Imperatrice(Secretariatの母)
Crimson Satan
Eight Thirty
First Rose(Menow+Sir Gallahad)
とくに重要なものを太字で示しました。基本的には「Northern Dancer」と「太字の血統とニアリーな血」を複数配置する、というのがキズナ産駒のもっともポピュラーな成功パターンです。でもってそれを極限まで突き詰めたのが現時点での獲得賞金1位、ディープボンドです。
・Storm Catを弄くり回したディープボンド
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G1レースこそ未勝利ですが、現時点で7億円超の賞金を稼ぎ出しているディープボンドはStorm Catの血統をこれでもかというぐらいに弄くり回した格好のサンプルです。母父の父ダンシングブレーヴから見ていきましょう。この種牡馬はディープインパクトの母父Alzaoと同じLyphard(父がNorthern Dancer)とDroneの組み合わせを持っています。そしてこのDroneをさらに詳しく見ていくと、父がSecretariatの半兄Sir Gaylord、母父のTom FoolがFirst Roseと同じMenow+Bull Dog(Sir Gallahadの全弟)の組み合わせ、といった具合に、Storm Catにたいへん近しい血統構成になっています。
母父の母グッバイヘイローはこれまたSecretariatの半兄Sir GaylordやTom Foolを持っている。くわえてグッバイヘイローの母父Sir Ivorの母AtticaとTom Foolは、PharamondとSir GallahadとAlcibiadesが共通する間柄でもあります。
ディープボンドの母母父の母父JesterはTom FoolとEight Thirtyの組み合わせで、3代母父のマルゼンスキーはFlaring Top≒Tom Fool。最後に4代母父のボールドラツドはSecretariatと同じBold RulerとPrincequilloの組み合わせを持っている。
こう見てみると、ディープボンドの血統表がいかにSecretariatとFirst Rose≒Tom Fool的なものにまみれているか、いかにStorm Catっぽい血だけで構成されているか、ということがわかってもらえたのではないかと思います。ただし、キズナと相性がよいのはあくまで「Storm Catと似通った血統」なのであって、Storm Catそのものではないことに注意してください。
・シンボリクリスエスとの相性がいいワケ(理由)
キズナはシンボリクリスエス肌との配合で、マイル王者のソングラインとエリザベス女王杯を勝ったアカイイトの2頭のG1馬を輩出しています。シンボリクリスエスはNorthern Dancerの血こそ持たないものの、Storm Catと脈絡するような血統を多く持っています(ちなみにこのニックスをひっくり返したのがダービー馬ダノンデサイル)。
その最たるものがシンボリクリスエスの母父Gold Meridian。(Bold RulerとPrincequilloの)Seattle SlewとCrimson Satanの組み合わせはStorm Catの母Terlinguaと非常によく似ています。さらに母系の奥のJesterからはこれまたTom FoolとEight Thirtyが入ります。
もちろん、この2頭は血統表の残り1/4の部分が異なります。そしてソングラインに関しては正直わからないというしかない(笑)。強いていうならHaloのクロスを2本持ってくるところはディープボンドっぽいです。アカイイトは母母父のMud RouteがNijinsky(Tom Foolとニックする)系で、奥の方にBuckpasserを経由するかたちでTom Foolが入ります。両者に共通するのは、HaloとMr. Prospector、さらにキズナの父ディープインパクトのBustedを弄るような血統がいくつか含まれているあたりでしょうか(Bustedのクロスやハイハットやリマンド)。
・皐月賞馬ジャスティンミラノの配合
今年の皐月賞馬ジャスティンミラノの配合も見てみましょう。母父のExceed And ExcelからはおなじみのBuckpasserからTom Fool。ここに入るLomondという種牡馬はSeattle Slewの半弟でもあります。特筆したいのが母母父のShareef Dancer。この馬はNorthern Dancer×Sir Ivor×Tom Foolという、これまでに述べてきたことを総括するかのような累代になっています。母系の奥にSir Gaylordが入るあたりも見逃せません。
ジャスティンミラノの母マーゴットディドは父がデインヒル系で現役時代に5ハロンの英G1ナンソープSを制しています。そしてディープボンドの母ゼフィランサスはキングヘイローの子供で勝ち鞍が1200〜1600mとダート戦、ソングラインの母ルミナスポイントはダートの短距離戦を主戦としていて半妹にはジューヌエコールがおります。つまり何が言いたいかというと、俺はここで「種牡馬キズナはパワー・スピードタイプの繁殖牝馬と配合されることで真価を発揮する」という仮説を立ててみたいのです。
・キズナ×パワー・スピード牝馬
そもそも先ほどまでやっていた「Storm Catの血の増幅」というのも、典型的なパワー・スピードタイプの種牡馬であるStorm Catを再現する試みに他ならないわけですから、いま立てた仮説と根っこの部分では変わらないわけです。
ためしに重賞馬に限定して見ていくと、ブリーダーズGCなど交流重賞2勝のテリオスベルは母父クロフネで母母父がマルゼンスキー、紫苑Sなど重賞2勝のファインルージュは母父がボストンハーバーで母系の奥にNijinskyとTom FoolとLomondとSpring Run(≒Tom Fool)。ダート重賞2勝のハギノアレグリアスは母父がNijinsky系ジェネラスですが、ジェネラスは残念ながらステイヤータイプ…(これだけ例外)。チューリップ賞と紫苑Sのマルターズディオサは母がGland Sram×スピニングワールドのパワーマイラー配合でGland SramはStorm Catと血統構成が酷似。スプリント重賞3勝のビアンフェは母父サクラバクシンオー、ダービー卿CTのパラレルヴィジョンは母がマクフィ×Silver Hawkのマイラー配合。
キリがないのでこのあたりにしておきますが、やはりキズナはStorm Catの血を増幅しつつ、パワーやスピードに特化した牝馬との交配で結果を出しているように思えます。輸入牝馬との子供が募集されるケースが多いノーザン系の場合はシンプルなアメリカ血統を選ぶのが良さそうです(スプリングSのシックスペンスとクイーンCのクイーンズウォークがこのタイプ)。
・キズナ産駒の馬体は崩れていてナンボ
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キズナ産駒の活躍馬はジャスティンミラノやアカイイトのように庭先取引だったり、自家生産馬だったりするなどして1歳時の写真がなかなか手に入らないのですが、ここでは4頭の馬の立ち写真をあげておきます。サンデーTCで例年あまり人気を集めるタイプの種牡馬ではない(ソングラインとクイーンズウォークは運が良ければ新規会員でも買えた)ことからもわかるように、前回のエピファネイアやなんかと比べても、めちゃくちゃ見栄えがするというタイプではありません。とりわけ目立つのが馬体のバランスのいびつさでしょうか。胸が深いのだけれど、その分脚も長くて重心が高く見えるうえに、どの馬も腰の位置が尋常じゃなく高い。さながら「凹の字」のようなシルエットをしています。ただし、ひとつ前の馬体の見方の記事にも書きましたが、1歳のこの時期の馬がバランスを欠いているのは当然のことだから特段気にする必要はないし、深い胸と高い腰はそれぞれ心臓の大きさと伸び代の大きさを表す美点でもあります。そのあたりを最大限に尊重しつつ「キズナ産駒の馬体は崩れていてナンボ」ぐらいに考えてしまいましょう。