星のナビゲーション
あれから何日か過ぎわたしは毎日MoonChildに来ていた
アレックスはここでわたしに何をさせるでもなく
自分のペースでいいからここにあるものすべてと触れ合うようにと言った
触れ合うって、、
どういう意味なのかしら
自分なりだけど言われた通り
「触れ合う」をやってみることにした
ここにあるものと言ったらパワーストーンのアクセサリーとかわたしに馴染みのなさそうな本とかそんな感じのものばかりで
逆に新鮮だったから最初は割と楽しんでいたのかもしれない
だからそれらをゆっくりとひとつひとつ見てまわるのが日課のようになった
わたしは普通の女の子がやるように気になったアクセサリーを自分に当て、似合うかな、なんてやったりもした
不思議とくつろいでいた
今までは買い物へ行っても
これは絶対に合わない、とか
着てみたい、つけてみたいって思っても周りの視線が気になるから躊躇して肩を落とし
いつの間にか自分に合わせることすらしなくなっていた
楽しい
久しぶりの感覚かもしれないって思った
自分に関係なさそうなもので
楽しさを思い出すなんて
本当に不思議な感じだった
ひとつだけ、、
あの白い半透明の石のアクセサリーだけは触れることはなかった
もちろん「すべてと触れ合う」って言われたのを忘れたわけじゃないけど
やっぱりあの時の感覚が生々しく思いだされて怖くて手が出なかった
アレックスがあまりなにも言わないように
わたしも彼に深く聞くことはなかった
今わたしには時間があったから
自分が感じたこと
アレックスに対して
「この人を離しちゃだめ」
って感じたことを信じて
言われたひとつのことを淡々とやっていた
でもそのうち
毎日が同じように、ただ、ここにあるものを見てまわったり手に取ったりするだけで時間が過ぎていくことに飽きてきたせいもあって
これはいったいどういうことなんだろう
アレックスは何を求めているんだろうと思うようになった
きっと何か意味があるんだろうけど
わたしにはそれが何かわからなかった
それでもわたしは少しずつここが好きになってきた
何となく心地いい感じかする
すごく気にいっているのは
晴れた日のお昼前後に陽をうけたガラス玉がきらきと光を放ってそこら中が虹色になるところ
すごく気持ちが軽くなるのが自分でもわかった
何日か目の昼下がりに
あの時と同じようにまた女の人がやってきてアレックスはラップトップを見ながら30分くらいテラスでその人と話をしていた
あの時の人とはたぶん違う人
わたしがMoonChildの中に置いてある本の表紙を眺めている時だった
洋書ばかりの本だったから今までは内容とか気にせずにいたけどその時はある本に目がとまった
イラストがとても綺麗で印象的だった
子供の頃 絵を描くのが好きだったなぁ
ふと思い出した
なんでやめてしまったんだろう
いつの間に描かなくなってしまったんだろう
本を手に持ったままぼーっと思い返していた
帰りに色鉛筆とスケッチブックを買って帰ろう
そう思った
その本をパラパラめくっているとアレックスがやってきた
「気に入ったの?」
「絵が綺麗だから見てるの 英語だからよくわからないけど なんとなく星座のことの本なのかな、って」
「うん 占星術の本だよ」
「占星術?、、、って?」
「生まれた時の星がどこにあったのかをみてその人の深い部分を知っていく術だよ」
「星占い?」
「星占い、ともいう」
星占いの本か、、、
朝、出勤前にTVでやるやつ
雑誌とか電車の中でも見かける
今週の〇〇座さんは? って言うのだ
占いは嫌だ
12個の星座に分けられてわたしを判断されるのは嫌だった
そうは言っても当たってることがある
でも当たってないことだってたくさんある
そんなもの、そんな不確かなものになんの意味がある?
でも、、
でも、、、
どうしても気にしてしまうわたしがいた
わたしは蟹座
今週の蟹座のあなた
前半は楽しいことが続きますが後半になると一転
身体に不調を感じそう 食べ物に気をつけて
ラッキーアイテムはオレンジ色のピアス
こんな星占いを読んだだけで
もう週末に具合が悪くなることばかり考えてしまう
それにオレンジ色のピアスなんて持ってないよ!
「ネガティブなことを言わない占星術は片手落ちなんだ」
怪訝な顔をしていたのかアレックスがこう言った
アレックスは本当に心が読めるのかしら
本気でそう思うようになってきた
「占星術はナビゲーションなんだ 星と友だちになって 彼らの力を借りて自分を知り 歩く道を照らしてもらう」
「性格判断じゃないの? 運命とか運勢とかのことじゃないの?」
「そういうこともあるけど それで終わってしまったら その認識で終わってしまったら すごく勿体無い」
何気にナビゲーション、という言葉に惹かれた
今わたしは行き先を見失っている というか今どこにいるのかさえわかっていない気がする
今まで ”ナビゲーション”的な星占いなんて聞いたことなかった
占いは、「良い」とか「悪い」とか「あなたの性格は?」とかしか思いつかない
と思った瞬間
アレックスと話をしていた女の人たちはこの話をしていたんじゃないかなって思った
なぜかはわからないけど変な確信があった
それにアレックスには人を導く力があるってなぜかはっきり感じた
アレックスは星?
アレックスは占い師?
彼への不思議な信頼感と
占いに対する軽い嫌悪感、
そしてひょっとしてそこに、自分がちょっといかがわしいって思っているものに足を踏み入れるのかな?っていう不安みたいなものが混ざり合った感情が一瞬にしてわたしを満たした