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「100年前の人がカッコ悪いと見做した物が、現代の私たちには新鮮で素敵に見えたりする。その移ろいを垣間見るのも興味深いです。」パリ在住ブロカント業・小泉彩子さんへのインタビュー

フランスに行きたいと思ったきっかけを教えてください。

美術大学生の時分に初めてパリを訪れて、フランスという国が大好きになりました。それまでは特に興味があったわけでもないのですが、たまたまツアーに組み込まれていたので成り行きで到着したら、街の景観にひと目ぼれです。街角のどこを切り取っても絵になっていて、映画のセットの中にいるみたいで、まばたきする間も惜しんでルーヴル美術館を飲まず食わずで歩き回りました。ミュージアムショップではフランス語の美術館ガイド本をわざわざ選んで買って、「いつかこれを読めるようになるぞ」と決心。

数年後には会社勤めの合間を縫ってフランス語教室に通い始めました。重い仏和辞書を持ち歩いて通勤電車の中で読んだり、フランス語会話教材のCDを丸暗記するまで繰り返し聴くなど、フランス漬けの生活を送りました。心はもうすでにフランスに旅立っていたのだと思います。こうして思い起こすと、よっぽどフランスに行きたかったのだな、と自分でも感心しますね。

フランスと関わるお仕事を始めることになったきっかけを教えてください。

ひっそり受け続けていたフランス語検定試験の2級に受かった頃に、フランスでもワーキングホリデーヴィザ制度が始まることを知りました。第一期募集に応募してみると選考を通過することができましたので、会社を辞めていよいよパリでの生活が始まりました。

ワーホリ期間終了後は学生ヴィザに切り替え、パリ第八大学の芸術学部に編入し、修士過程終了まで在籍。2007年に起業して、現在はグラフィックデザイナーとしての活動に加えて、アンティークの食器と雑貨を販売するネットショップを経営しています。
毎年秋には日本で古物とヴィンテージ服を売るポップアップストアを、2015年から友人と共同開催しています。
Glam rock shopperと名づけたショッパーの製作と販売も2020年の年末から始めました。

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小泉様が考える骨董市(あるいは古いもの)の魅力は何ですか。

骨董市の魅力は、「思いがけない出会い」に溢れているところ。ブロカントに来ている人たちのほとんどは、特定のものを探しているわけではなくて、想定外の何かと出会えることを無意識に期待しています。自分なりの「目」さえあればとんでもない掘り出しものが見つかるし、ボーッとしていたら何も見つからない。日頃の観察力と決断力が試され、狩猟本能のようなものが刺激されて、狩りの快感があります。

また、骨董市で売られている古いものの多くは、ざっと2つにわけることができると思います。1つ目は、人々に良いものだと認められて、大事にされてオフィシャルに引き継がれてきたもの。美術館とか私蔵コレクション、または個人が大切に持っていたものなどです。
2つ目は、特に気に入らないし使わない(または売れない)ものの捨てるわけにもいかず何十年も納屋にしまわれていたのを、誰かが見つけて掘り出したから。この後者の消極的な理由で生き残った物が、意外に面白いんです。人々の価値観は変わっていくので、100年前の人がカッコ悪いと見做した物が、現代の私たちには新鮮で素敵に見えたりする、その移ろいを垣間見るのも興味深いです。

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フランスの骨董市で見つけた、今までで一番の掘り出し物があれば教えてください。

たくさんあるのですが、コレクションの中でずば抜けて珍しいものの1つは、1870年頃の消防士のスモックでしょうか。藍染めのリネン地に、フェルトの鮮やかな赤色が映えて、いま見ても素晴らしいデザインだと思います。スタンドカラーには今でも消防士とジャンダルムリーのシンボルであるGrenade enflammée(燃える手榴弾)が刺繍されています。最初は濃紺色だったと思われるスモックが、150年間なんども洗われて生まれた色褪せがこれまた凛々しいです。もともとこれは友人の個人コレクションだったのですが、特別に譲り受けたものです。とっても大切にしています。ときどき着ていますし、これは生きている限り手放さないでしょう!
骨董市の魅力には、普通のお店と違って大事にしてくれそうな人やこの人に持っていてほしいという、人と人とのやり取りが働くことも挙げられますね。

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誰かが使ってきたものだからこそ生まれる感動とは一体何でしょうか。

その物が纏う歴史の一部に、自分も加わる実感があることです。特に洋服。1970年代あたりまではまだまだ多かった手縫いの服の縫い方などから、作った人や以前の持ち主がどういう人物だったのかを想像するのが楽しいです。また、この洋服を作った人は、まさか50年後に日本人に着られることになるとは思ってもみなかっただろうな、とも。
うちに来たことを洋服に後悔させないように、丁寧に洗ってアイロンをかけ、補修します。物は私よりもずっと長生きなので、いつか他の誰かのところに行く時まで借りている、という気持ちは常にあります。

フランスでの仕事に関する忘れられないエピソードなどがあれば教えてください。

ヴィンテージの服に合わせるバッグを自作してパリで持ち歩いていたら、欲しいという人たちが現れたので販売を始めたのですが、最初に買ってくれたフランス人女性のことは一生忘れないです。私が新しく作った「価値」を誰かが認めてくれて、素直に好感を示してもらえるのはうれしいです。生きていてよかった!と思えた瞬間でした。

フランスで幸せを感じる瞬間は何ですか。

とりあえず誰かに聞いてみることのハードルがほぼ無いのがフランス、ハードルが高いのが日本かな、と思います。「そこにいる人に聞いてみて答えが得られなければまた他の人に聞けばいい」という、見ず知らずの他人に話しかけるフランス人の気軽さは、つい考え過ぎて堅くなりがちな日本人としては見習うところがあるな、と。スーパーのレジ待ちの列で「すみません、そのバッグはどこで買いましたか?とても素敵!」みたいなコミュニケーションが生まれるのもいい。デパートではわざわざ後ろから呼び止めて褒めてくれた店員さんもいました。ささいなやりとりと言われればそうかもしれませんが、褒められた人は嬉しい気分になりますし、小さな豊かさを感じられる瞬間ですね。

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