「方角音痴」
与太話、
というより愚痴に近いかもしれない。
私も地球に生まれ落ちて28年そこそこ生きた人間なので、「東西南北」くらいは知っている。
上が「北」
下が「南」
右が「東」
左が「西」
小学生の理科の授業で習った。
覚えてしまえば簡単なものだ。
だがどうだろう。
世界はあまりに広すぎる。
私は「東西南北」という言葉は知っていても、その方角がてんで分からない。
例えば今実家にいて、「北はどっち?」と聞かれても見当がつかない。分からないからと言ってわざわざ聞き返したりはしない。聞いたところで、活用する自信もないからだ。
いくら方角が固定されていても、我々人間は生きている限り仕事やプライベートで移動をする。右へ左へと路地を曲がる間にも、東西南北はぐるぐると回りつづける。もう訳がわからない。
なので、「南へ直進しろ」だとか「駅を出て西に向かえば〜」とか言われると非常に困る。私に通用するのは前後左右だけだ。
そんな壊滅的に方角がわからない私だが、日常で不便に思ったことはない。何故ならこの地球上にはあらゆる建造物が立ち並び、信号があり、標識があり、色々な目印があるからだ。
私であれば北へどうこう南へどうこう、
などとは言わない。
「ローソンがある通りを山側へまっすぐ」
「黄色い建物が見えたらすぐ左の路地へ」
「信号2つ越えたらデカい緑の看板が見えるからその手前を右」
こんな具合に説明する。
私は仕事柄地図をよく見るし、山や海沿いなどいろいろな所を配達している。その際に方角など気にしたことがないし、コンビニだとかスーパーだとかに目星を付けておけば十分だ。
そもそもこの広すぎる世界を「東西南北」という漢字4文字で区切るというのが無理な話だ。更には「北東」だの「南西」だとか言う曲者までいる。頭が痛い…………。
大通りや建物などの目印は把握しているし、道にも迷わないから、私はきっと方向音痴ではない。
言うなれば「方角音痴」だろう。
仕事の事務の方にお客さん対応を頼まれた時、それとなくこの話をしてみると、「面倒な子だね〜」と言って電話を切られてしまった。
たまたま近くにいたという理由だけで配達担当者の代わりにクレーム処理を任された僕は、少なくとも面倒な社員ではないと信じたい。