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両方のことをいっぺんにやる
松渕さいこさんのコラムを読んだ。
チェロを弾くことに憧れていた。
カザルスの動画を見た時からだ。
あんなふうにがさがさと引っかかりと野性味がありながら、空気を大きく膨らませて自由に漂ってゆくすべらかさ。
ある時、チェロを弾く夢を見た。
まだチェロに触れたことがなかった頃だ。
私は夢中になって、チェロを抱え込んで、からだに密着させて弾いていた。
肺の空洞とチェロの本体の空洞が一緒くたになって共鳴して、鳴っている音が自分の呼吸なのかチェロの音なのか分からない一体になっていた。
あの時の感覚を、いまでもからだに再現することができる。
私はずっとからだのことを考えてきたから、そして言葉のことを考えてきたから、それに対してうんと自由だろうと長いこと勘違いをしてきた。
でも静かな夜に目を閉じて、静かに座ってみたら、からだのあちこちに小さく自分にも気づかないテンションがかかっているし、呼吸ひとつしても小さな筋肉の動きに違和感がある。
肩の位置、指が触れているもうひとつの指、左右均等じゃない腰の位置、すべてがぎしぎしと神経にさわった。
そして頭のなかには、ことばになりかけのなにか、ことばからことばじゃないなにかに溶けたなにかが駆け回って、とてもうるさいのだった。
なんだこれは。
もっと、遠くに響いてゆくようなものにしなければ。
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