《児童小説》 吾、猫になる 1 ようこそ、キャットストリー島5
夢話ノ伍 吾?は吾
「そうにゃんねぇ〜、そら、にゃんね...」
よっこいにゃっとそこにはイスはないのに、オットは宙に座った。そこには見えないソファーチェアでも、あるかのように。カウンターテーブルに片肘つけて頬杖を付くと、くはぁとあくびをする。
「で、にゃ?他には覚えてにゃいにゃ〜か?」
そらは問われて、オットの方へ顔を向けた。オットの目は黄金に輝いて、魔法にかかったように目が離せない。
「...そら、そこの三毛ネコは知り合いじゃにゃいんにゃ〜ぁか?一緒に転がってたにゃ」
オットがソファーの上に気持ちよさそうに寝ている三毛猫を片方の前足で指せば、そらは魔法がパッと解けたように三毛猫の方に振り返る。
パチっと大きく目を見開いた三毛猫と、そらは目が合う。
「花ーーー!!!」
そらは花を見て嬉しそうに叫んで、目をキラキラさせている。一方、花は無言であくびを一つし、すまし顔でソファーからそらの横にぴょんっと身軽に四つ足で立った。
「...うるさい」
そう、ぼそっと呟いて、右前足でバシッとそらのおでこを叩く。
「いっにゃぁぁぁ!!花、何すんにゃ!ん?にゃ!花がしゃべにゃぁぁぁぁ!」
「うっさい」
花はもう一度いいスナップを効かせて、そらのおでこを叩く。そらは半泣きで、おでこを両手でこすっている。そんなそらに対し、花はマイペースで、前足を舐めてその前足で顔を丁寧にこすっている。
「ふむ、やっぱり知り合いにゃね、その太々(ふてぶて)しい三毛。で、どんな知り合いにゃんかは、覚えてるにゃか?」
スクっと素早く後二本足で立ち上がったそらは、右前足を胸の真ん中、左前足を腰にあて、少しふんぞり返る。
「もっちろんにゃー!このミケの花ちゃんは、わ、わ」
「わ?」
「...花ちゃんは、飼いネコにゃんよ!わた...」
「ワタ?」
「違うにゃん!わ、たし」
「たわし?」
「違う!わた、し?...わ、い?...わしわてわれ...にゃん?わーれ、われ...吾!」
「頭、おかしくにゃたかにゃ?」
少し眉間が寄って困ったような顔のオットに、胸から前足離し、そらは人差し指を一本立ててチッチッチと左右に振る。
「花は、吾、そらの飼い猫にゃん!」
ドドドーンと後ろに波が出そうな勢いで、そらは威勢よくそう言った。