《児童小説》 吾、猫になる 1 ようこそ、キャットストリー島10
夢話ノ拾(10) おふくろの味
お元気三ネズミは気づくといつの間にか何処かへ消えていて、そらと花は二匹の背丈に合わせて置かれたカウンターのイスに座った。
目の前の海鮮丼に目をキラキラさせながらよだれがたれそうなゆるんだ顔で小さな前足をちょこんと合わす。
「「いただきます」」
同時に言った二匹は、海鮮丼を食べ始める。ただ、そらはお盆に乗っていた木のスプーンで器用にすくって食べるのに、花は近くの刺身を一枚歯でかんで小皿に乗せてから手は使わずに刺身をそのまま口から食べている。
新鮮な魚はどれもこれも油が乗って美味しいくて、そらはあっという間に半分をぺろっと食べてしまったのに、花は食べづらそうでちょこっとしか食べれていない。
それに気づいたそらは、当たり前のように自分のスプーンで花の海鮮を小皿にこんもりと盛ってあげる。
花が食べている時は、一緒に食べて、花が食べ終わるとまたそらがすくって小皿に乗せるを繰り返した。
もちろん、そらの方が早く食べ終わって味噌汁のおわんを両前足で器用に持って飲んでいると、花は半分くらい食べ終わったら食べなくなってしまった。
「にゃ?どうしたんにゃ?」
「お腹いっぱい」
「味噌汁も飲めないかにゃ?」
「半分くらいなら飲める」
そらの味噌汁はちょうど半分くらいになっていて、そらは花の味噌汁と自分の味噌汁の骨を取り除いて交換した。
「あらまぁ〜、少食なのねぇ〜」
ぱんだが注文票を持って後から二匹へ近づくと隣の空いたイスにぴょんと飛び乗って、花のテーブルを覗き込んでいる。
びっくりした二匹は、尾っぽをピンっと立てて目を見開いているが驚きで言葉が急には出て来ない。
「どうする?持って帰るぅ〜?それとも、あ・た・しのスペシャルお茶漬けはどぉ〜?」
「ぱんだのおかーさんのね、スペシャル出汁はもーほっぺた落ちるよー!これぞ、おふくろの味!」
「そー、そー、もうどれもこれもぱんだのおかーさんが考えたメニューでおいしーんだけど、その中でも一番私は好きー!あったかい気持ちになんのよー」
もうここまで囲まれてすすめられると食べないわけにもいかず、そらは食べて小さくぽっこりしたお腹を見つめて前足で丸くさする。
「...じゃ、じゃぁ、食べるにゃん!」
「そうこなくっちゃねぇ〜!あたいが作ってあげるわぁ〜!」
ぱんだは花の半分残った海鮮丼をひょいと手に取ると、手慣れた感じにお椀を掌の上に乗せてぴょんとイスから飛び降りるとキッチンの中へ消えていった。