《児童小説》 吾、猫になる 1 ようこそ、キャットストリー島11

夢話ノ拾壱(11) おふくろさん

 そらがお茶漬けを待ってる間、食堂もピークが過ぎて落ち着きを見せ、オリはいつの間にか洗い物を済ませ、エプロンで手を拭きながらそらの隣へちょこんと座る。そして、一息つくようにキッチンからメガがテコテコ歩いてきて花の隣の席に座り、そらと花は夫婦に囲まれた。

 お腹が空いて何も考えずここまで来たので、そらはその時急に肩身が狭く感じて縮こまる。花は猫そのもので、食べ終わったら眠たくなったのか椅子の上でくるっと丸くなって目を伏せている。

 ペンギン夫婦は椅子をズリズリ、そらに近づけ体を近づけ、短い首をグッと伸ばして両側から挟み込むように、そらをクリクリお目目で見つめる。

 「どう?」

 ペンっとそらの背中にヒレを置き、近すぎるくらいの顔すぐ側でオリは真剣な顔付きで尋ねる。

 「ど、どう??」

 そらは慌てて、ビクビクしながらオリに視線を合わせる。

 「美味しかったでしょ?」

 「う、うん、それはもう...」

 顔が近すぎてよく分からない焦りのドキドキで、そらはどもって逃げ腰だったがオリのヒレがガッチリホールドしていて逃げられない。

 気が付けばメガも椅子ごと近づいていて、すごい至近距離でペンギン夫婦に挟まれてタジタジのそらは視線さえも逃げられず冷や汗をダラダラ、固まってしまう。

 「そっか、そっかぁーー!!」

 「それは良かった、良かったー!!」

 オリがそう言えばメガが続いて、やっとそこで夫婦同時に顔を離し、両手を合わせてほっとした笑顔を見せる。

 「やっぱりねー...初めてのお客さんには、美味しいものお腹いっぱい満足して帰ってほしーじゃない...私達が初めて...パンダのおかーさんのお店で食べた、あの感動、みんなにお裾分けしたいのよー」

 オリはそう言って両手を合わせて頬に重ねると、思い出にひたるように明後日の方向を見ている。

 「そーそー、僕ら夫婦が悩んでた時にね、パンダのおかーさんがお店に来なよって誘ってくれて、たらふく食べさせてくれたんだよー...それはそれはもーー、美味しくて心にしみてねー」

 メガも、オリと同じポーズで思い出にひたりだした。
 ペンギン夫婦は涙で目がうるうるしそうな勢いだったが、急にパンっと同時に両ヒレを叩くと何事も無かったようにニコニコ笑顔で、じっとそらを見る。

 「まーまーそんな訳でね、私達はパンダのおかーさんの手料理で救われたの。だから今度は、私達が恩返ししようと思ってねー、弟子入りしてー、今は、従業員二人に、おっきなこんなお店持つ事が出来てね。パンダのおかーさん様様で、同じ志でやってる訳よぉー!」

 オリは両手を胸の前に合わせて情緒たっぷりに喋ったと思ったら、急に気合いスイッチが入ったのかそらの背中をパンっといい音立てて叩く。そらはその一打が強すぎて、ゴホゴホと咳き込む。

 「うんうん。パンダのおかーさんはね、行くところのない僕らを実の親子みたいに世話してくれて、料理とかお店のやり方とか手取り足取りもー、今では本当の親だと思ってるんだよー!それにさー!料理って体力がすっごい使うからさー!パンダのおかーさんには楽させてあげよーって、日々頑張ってる訳なんだー!」

 オリに続き、そらの事は気にせずにそう言ったメガはオリ同様、パンっとそらの背中を叩く。

 そして何故か、お店のお客さんはそれを見てパチパチパチと手を叩いてニコニコしている。みんな笑顔で悪い顔はしていないし、恒例でました!と掛け声が飛んでいるので、どうもこれがいつもの事らしいと気づいたが、そらは、いい話の時も今も、ペンギン夫婦の圧、そして叩かれてジンジンする背中の方が気になって、ポツンと一匹あまり感動できていなかった。

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雨月そら
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