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星野道夫氏が愛した「北国の紅葉」を見に行く ‐アラスカ一人旅④

星野道夫氏は野生のクマに襲われて帰らぬ人となった。映画 "into the wild" の主人公のモデルとなったアレックスはアラスカの自然を過小評価して亡くなった。アラスカの自然は恐ろしい。だが、人智を超えたその存在になぜだか惹かれるし、行かなければならないのである。

これから向かうのは「デナリ国立公園」。デナリというのは北米大陸最高峰のことである(標高6190m)。最近までは「マッキンリー」と呼ばれていて、あの植村直己氏が消息不明になった山として知っている方も多いと思う。

第二章 デナリ国立公園編

その山脈と、そこからなだらかに広がる広大な荒野がデナリ国立公園として登録されており、その雄大な景観と、自然のままに生きる野生動物が魅力的でアラスカでは人気の観光地になっている。

そして僕がここに訪れようと思ったのは他でもなく星野道夫氏のエッセイに度々この場所が登場するからだ。

彼のホームページに僕が一番好きなエッセイ「北国の秋」の一部が公開されているのでイメージを掴むためにもとりあえず見ていただきたい。↓

ワイン色に染まったツンドラの絨毯

彼がこの地を愛する理由に野生動物の存在がある。彼は写真家として多くの野生動物を捉えてきた。ここデナリ国立公園にはカリブー(トナカイ)、ムース(ヘラジカ)、ブラウンベアー、ジリス、ナキウサギ、ドールシープ、オオカミ、ライチョウ…など様々な種類の野生動物が生息し、人間の手が一切加わっていないありのままの自然と生の営みを感じることが出来る。

そして、エッセイ内では「北国の秋が良い」と何度も繰り返されていると思う。アラスカの秋は非常に短く、特にその中の紅葉のピークはたった一日であるという。この北国の紅葉も彼を引き付ける理由の一つだ。

冬が一年の大半を占める極北のこの地では8月下旬から寒さが堪える秋の気配がし始めて、ツンドラも赤く染まりだす。9月上旬に紅葉のピークが訪れて、その一週間後には初雪が降り始め、冬が始まる。…このスピード感が北国であることを如実に表していると思う。

道夫氏は「秋は人の気持ちを焦らせる」とこのエッセイ内で述べているが、全くその通りだ。刹那に染まる紅葉はまるで絨毯のように見渡す限りのツンドラの大地を秋色に染める…。動物たちは冬に備えて栄養を蓄えるため忙しく動き回る。植物も動物も、自然の何もかもがマイナス40℃にもなる極北の長く厳しい冬の準備を始める。

何度もエッセイで読んで憧れた野生動物とこの秋の情景を実際にこの目で見てみたいと強く思い、8月下旬(つまり秋のはじまり頃)にデナリ国立公園に訪れることにした。

8月22日

午後3時アンカレジ発のバスでデナリ国立公園に向かう。アメリカらしいでっかい国土の周りに何もない広い道を走っていく。

しばらくはトウヒの森の中を走っていたが、デナリを取り囲む山脈が見えてきて標高が上がってきた頃、木々も少なくなってきた。

まばらな木々と湿地みたいな地面(ツンドラ)…初めて見る景色なのに夢で訪れたことがあるような既視感があった。…そうあのエッセイに描かれていた場所がすぐそこまで近づいてきているのだ。

雲の隙間から差す西日に照らされる山肌。バスの中から眺めた景色は非常に壮大だった。今までの自分の中にある「自然」とか「荒野」というものの定義が修正されていくような気持ちがした。

バスの中から野生のムースを見た。
バスに驚いてバスと同じ方向に走り出した

アンカレジから5時間ほど経ち、午後8時ごろようやくバスはデナリ国立公園に着いた。…と思ったらそれを通り過ぎていく。やがて降ろされたのは見知らぬ高級ホテル。

国立公園の中のキャンプ場に行きたいのに、そこまでどうやって行くのかとバスドライバーに聞いてみたら、ホテルのフロントに聞いたら?と他人任せ。今度はフロントに聞くと、バス停があるからそこ行きな、と言われて行ってみると最終バスはとっくに出てしまっていた。

誰も自分に優しくない…と思っていたら、ホテル客の送迎を終えたばかりであろう国立公園の公式なツアーバスを発見。わずかな希望にかけて運転手に状況を伝えてみると、厚意でキャンプ場まで連れて行ってくれるとのことだ。これは本当にありがたく、助かった。

そうして辿り着いたのが今日泊まるライリークリークキャンプ場 ↓

国立公園のキャンプ場のためしっかり整備されている。主な設備として水洗トイレ、水道、フードロッカー、シャワー(有料)、ランドリー(有料)、マーカンタイル(簡易的なショップ)がある。コインランドリーやショップがあるから長期滞在もしやすいと思う。

料金はウォークインのテントオンリーで一泊25ドル(4000円弱)なので高い。そしてアラスカいちの人気観光地ということだけあってキャンパーはたくさんいるが、雰囲気も落ち着いていて森の中の良いキャンプ場だった。

今夜と翌日はここでキャンプをして、その次の日からデナリ国立公園の内部、つまりバックカントリーに向かう。


続きは以下の次の記事から↓↓↓


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