【消滅都市】象の消滅RMX
このノートについて。
このノートはソーシャルゲーム『消滅都市』のドラマCD、『象の消滅RMX』の内容をテキスト化したものになります。
ドラマCDはコンプティーク2018年7月号の付録として付いていたものです。
杉田智和さん、花澤香菜さん、佐倉綾音さん等が出演する素敵な作品ですので、出来れば実際の音声で聴いてみてほしいのですが、現在ではコンプティークが入手困難であったりする関係で、せめて内容だけでも分かればとテキスト化をしてみました。
消滅都市最終章エピローグでのスズナの発言等が分からなかった方も、これを見ればなんとなく分かるのではないかな、と思います。
【追記】
公式に台本が公開されています。
ちょっとした感情のト書きもあり、今読むならそちらのほうがオススメ。
https://twitter.com/shota_shimoda/status/1397513750626717702?t=z8Qtk37w4_YgbDEAjAys_w&s=19
■
【とある親子の会話】
__あれ? まだ寝てないの?
__あのね、寝ようとしたんだよ?でもね…
__明日も早いのよ ほら眠れなくても目を閉じる
__分かった… でも、そばにいてくれる?
__もう…ちょっとだけね
__ねえ、おはなしして?
__お話?だめだよ それじゃいつまで経っても眠れないでしょう
__ちょっとだけ
__ふふ…何の話?
__いつものだよ
__そうだなぁ…じゃあ、今日は象が消えちゃった話でもしようかな
__ぞう?
__象、動物園の象。その日ね 私とタクヤの元に届いた依頼は ちょっと信じられないような内容だったの
■
【タマシイ研究所・リサーチャーに呼ばれたタクヤとユキ】
ったく・・・急に呼び出しやがって 何の用だ?
ごめんなさい タクヤ、ユキ。ちょっと無視できない情報が入ったの
無視できない情報?
象が消えたらしいわ
ゾウ?
象。動物園の象よ
__リサーチャーが言うにはね?町から少し離れたところにある動物園で、象が消えちゃったらしいの
__にげたの?
__ううん。足についてた金具も無事だったし、柵も壊されてなかった。消えちゃったとしか思えなかったんだって
はあ…どうせいたずらだろう?
それにしては状況が不自然だとは思わない?
そうか?
気にならないの?
そういうのは警察に任せておけばいいだろう
でも……
一刻も早く消滅都市、ロストを目指さなきゃならないんだ。こういうくだらない話で呼びつけないでくれ。じゃあな
ねえタクヤ
ユキ……何が気になるんだ
象が何の痕跡も残さずにいなくなるって、不自然だと思うの
だとしても、俺たちには関係ない話だろ
本当にそうかな
……どういう意味だ
象の消滅と都市の消滅、無関係とは思えなくて……
考えすぎだ
かもしれないけど……!
ねえタクヤ。ただでさえ消滅都市の情報は少ないのよ
闇雲にロストに向かっても危険な目に遭うだけかもしれない。だったら__
どんな小さな情報も見逃すな。って言いたいんだろう
分かってるじゃない
ったく、昔から変わってねぇなぁ
その慎重さでどれだけ無駄足を食ったことか……
__ケンカばっかりだね
__リサーチャー とタクヤはね、昔同じ探偵事務所で働いてたんだよ
__なかよしなの?
__そうだよ仲良し
__じゃあなんでケンカするの?
__うーん、なんでかなあ。仲良しだから喧嘩するんじゃないかな
__よく分かんない…
__スズはまだ子供だからなあ
__もお、バカにしないでよ
__ふふ、ごめんごめん。……でね? 私たちは動物園に向かうことになったんだけど……
■
【スクーターに乗り動物園へ向かうータクヤとユキ】
ったく、なんで動物園になんか
そんな言い方しないでよ 納得したんでしょ?
あんたらが必死だから付き合ってやってるだけだ
そうやって投げやりな態度でいると何も見つからないわよ
さっき言われたでしょどんな小さな情報も見逃すなって
ったく、二人揃って……
象の消滅と都市の消滅が関係ないなら、それが確認できるだけでいいじゃない
手際よく調査を終わらせましょう
分かった 今回だけだぞ
__タクヤはいつもそうやって言うんだよ。今回だけだぞって
リサーチャーは関係者の聞き込みをしてるらしい
俺たちはまず、象が消えた檻の様子を見にいこう
そこでギークと合流する手はずになっている
ギークと?
ああ、今回の件について何か気になることがあるらしい。先に調査を始めてるってさ
何だろう
どうせ大したことじゃない 合流してから話を聞けばいいさ。とっとと行こう。飛ばすぞ、掴まってろよ!
わっ……! もう、危ないじゃない!
__その時は平気だったんだけどね 動物園に近づくとだんだん頭が痛くなってきたの
__どうして?
__時々そういうことがあるの。都市の消滅に巻き込まれちゃった人たちの記憶や思いが急に流れ込んでくるのよ
__タマシイ?
__そう、よく覚えてたねえ
__うん。スズこのおはなし好きだもん
__そっかぁ。スズはこの話が好きかぁ……でもね、続きはまた明日にしよう?夜遅くなると朝起きられなくなっちゃうぞ
__バカにしないでよぉ。おきらるれるもん!
__ふふ、じゃあもう少しだけだよ、いい?
__うん!
__それでね、私たちは動物園に着いたんだけど
__ゾウさん、いなかったの?
__それがね……
■
【動物園・象の檻の前にてータクヤとユキの会話】
あれは?
象……ね
消えたんじゃなかったのか
タクヤ、ここ別の動物園なんじゃ
そんなはずはない……間違いなくここのはずだ
じゃあ、象が戻ってきたのかしら
【ギークが走ってやってくる】
ハアハア……タクヤぁー!びっくりした こんなところで会えるなんて!
ギーク、この象消えちまったんじゃなかったのか
もう、久しぶりの再会なのに何くだらない冗談言ってるのさ
ギークもこの象を確かめに来たんじゃ
なんでわざわざ象なんか
じゃあ何のために……
何のためにって……決まってるじゃないか。今日この動物園の中央広場でSPR5のライブがあるんだよ
シュプリームファイブ……
あ、もうこんな時間だ!久しぶりに話したいのはやまやまだけど、急いで言行って肩慣らししとかないと!じゃぁ後でね、タクヤ。サンダー!ファイヤー!サイバー!……
気持ち悪いな……
ねえタクヤ。シュプリームファイブって
え?ああ、消滅に巻き込まれたアイドルグループだよな
ギークも知ってるはずなのに.....
消滅について何も知らないみたいだった
一体どうなっているのかしら
ギークが記憶を失ったのか、あるいは……俺たちが普通じゃない状況に巻き込まれちまったと考えたほうがよさそうだな
どうしよう
ユキ、こういうときこそ冷静になるんだ
焦ってもいいことはない
でも…
確かにあんたの言う通りだったな。くだらない話だなんて言って悪かった。象の消滅、どうやら消滅都市と関係がありそうだ
タクヤ……
こんなことになるなんて思ってもいなかったが、不幸中の幸いだったのは二人だったってことだ
うん
さあ、調査しよう。どんな小さな情報も見逃すんじゃないぞ
言われなくてもわかってるわよ
■
【SPR5メンバーの会話・ライブ前】
ユアちゃん、お客さんは……?
数人。いつもどおりだよ
でも頑張らなきゃだよね、せっかくの舞台なんだもん
そうよ。お客さんが何人だって、私たちは最高のパフォーマンスをするだけよ
うん……それに私の実力だとこれくらいの人数がその丁度いいっていうか
まだまだ未熟な私たちなんだから、ゆっくり経験積んでいきましょう
うんうん、そうすればいつかどかんとブレイクするよ!
そろそろ時間みたい
え?なんの?
着替え
まだ大丈夫っしょ
更衣室無いから……
まじかー
車の中で一人ずつ着替える感じ?
私は外でも
ダメダメ!それだけはダメだから!
そしたら、早く着替え始めたほうがよさそうだよね
そうね
じゃあサクッといきますか!
うんっ
ホムラも行こう?
うん……
ねぇ、少し元気ない?
ううん!そんなことないよ。ちょっと……考え事
考え事って?
ナミ。このままライブ続けてればさ、いつかファンも増えるよね
もちろん
そうだよね…頑張らなきゃだよね
よし、いこう!笑顔でファンの皆に向き合わないと
■
【動物園中央広場付近ータクヤとユキ】
消滅に巻き込まれたはずのSPR5がライブをやるっていうのに、誰も驚いている様子が無いな
それに……こんな小さな動物園でライブだなんて
ファンが押しかけて大混乱になってもいいようなもんだが
ええ、おかしいわ。彼女たちの人気を考えると不自然過ぎる
なあユキ。消滅に巻き込まれた人の思い、タマシイの影響って可能性はないか
ーギークと再び出会うー
ああ!タクヤ!
ライブ会場はここなのか
あのSPR5がこんな小さなステージでライブなんて……
小さくなんかないよ!ようやくこういうステージでライブができるようになってきたんだ…こんな遠くまで遠征できるようになんて初めの頃は考えられなかった。バラバラだったパフォーマンスも揃うようになってきたし、歌だって上手くなってる!何より5人の絆がどんどん強くなってるのをステージを観てて感じるんだ!!このメンバーになった頃はそんなに仲良くなかったはずなのに、今じゃ休日にみんなでたこ焼きパーティーをしてるって sns の投稿を見て、友達て素晴らしいなぁと感動しちゃって……タクヤ以外に友だちがいない僕に友達の素晴らしさを教えてくれるそういうアイドルなんだよSPR5は!!!
やっぱりおかしいな
おかしくなんかないよ!!!!!
ねえ、ギーク。変な事言ってるって思うかもしれないけど、混乱しないで聞いて欲しいの
うん?
私たちの知ってるSPR5はね
もっとずっと大きくなってるはずなの。でも……消滅に巻き込まれてしまった
消滅?
ああ。あの日都市が消滅したとき、彼女たちはちょうどライブをやってて…
ちょっと待って、一体何を言ってるのを
ギーク……
都市が消滅って、冗談にしても不謹慎だよ タクヤらしくないなあ
なんだって
タクヤ、もしかして
ここは、消滅が起きてない世界ってことなのか
私たちいつのまにか、別の世界に紛れ込んじゃったのかしら
■
【バスの前・順番で着替えを行うSPR5メンバー】
ごめんなさい、着替えに手間取っちゃって
大丈夫大丈夫!
まだ時間ある
あああああどうしよう緊張してきた……!
レナ。深呼吸して落ち着いて?いつも通りに行きましょう
どうせ誰も見てない
うんうん!ってそれはちょっと言い過ぎだから!
そうね。ファンのみんなが来てくれてる、たくさんっていうわけじゃないけど
うん
ねえねえ 私たちさ、このままどんどん有名になって、毎日テレビに出たり 武術館でライブをやったりしていくわけじゃん
さすがユア、すごい自信ね
そしたらさ今日のことを思い出したりするのかな
不況の時代みたいな?
そそ、そんな感じでさ。懐かしく思ったりするのかな。なんて……
そうならなきゃね……
みんなで成功しようね。いつか、絶対に成功しようね!
それより私は目の前のステージを成功させなきゃ。ああ、失敗したらどうしよう……
どうせだれも…
見てるから!!
■
【ここでの情報を元に、仮設を立てるタクヤとユキ】
ここは、消滅が起きてない別の世界なのか
だから消滅に巻き込まれたはずのSPR5もいて、ライブをしてる…辻褄は合うわ
そうか……
なんとかしてここを抜けださなきゃ……でもどうやって……
分からないが、まずは犯人を探すしかないんじゃないか
犯人?
これまでこういう不思議な事件が起きるときは大抵タマシイが絡んでた。今回もきっと思いの主がいるはずだ
そのタマシイを見つけて一体どうすれば
見つければなんとかなるさ
そんな適当な……
手掛かりがないんだ。適当でも前に進むしかないじゃないか。このまま時間だけが過ぎていくのは避けたい、まずは想いの主を探そう
どんな想いなんだろう。もし私たちをこの世界に引っ張り込んだのがタマシイなら、一体どんな思いを抱えているんだろう
タクヤ、何やってるんだよ。ライブ始まるよ。ぼーっとしてないで一緒に応援しようよ
ねえ、タクヤ。のんびりしている暇はないってわかってるんだけど、でもせっかくだから…
見たいのか
SPR5をこんな近くで見れるなんて絶対にないから
……ま、少し息抜きしてからでも良いかもな。この世界を脱出する方法はライブを見てから考えるか
うん!
【場面転換ーライブの始まり】
みんなー!今日は楽しもうねー!
よろしくお願いします……!
__でもね?ライブを見ていたらなぜか頭が痛くなってきちゃってベンチで休む方にしたの。遠くで聞こえる歓声が、なんだか夢の中の出来事みたいで、瞬きをしたら目の前の風景が全部消えちゃいそうな気がして。だんだん日が落ちてきて、辺りは夕方になって……それでね?
__……スウ…スウ…
__ふふ、スズ寝ちゃったか。じゃ、続きはまた明日だね
■
【タマシイ研究所にて研究者・リサーチャー・ギークの会話】
情報を整理しよう。タクヤ君たちは動物園の中で消えてしまった……間違いないんだな
ええ、タクヤの持ってた情報端末からのデータを見ても、複数の目撃情報からしても、そうとしか考えられないのよ
動物園の中で何らかのトラブルにあったということか
でも……さすがにおかしいよ
3日も連絡なし、こちらから情報すら拾えない状況だからな
もしかして……象と同じように消滅しちゃったんだったりして……!
そんな……!
だが、考えられない話じゃない
象の消滅は実際に起こっている。人が消える可能性だってゼロではない
あれから調べてみたんだが、実は1985年にとある街で同じような事件が起きているんだ
5月17日の夕方5時過ぎにはいたはずの象が、翌日18日には消え去っていた。飼育係の男と一緒にな
そんなことって…
有名な小説家によって短編小説にもされている。それなりに有名な事件らしい
その象と飼育係は見つかったの?
いや…
それじゃ、タクヤたちも…!
同様に見つからないという可能性も否定できない
何か、何か私たちにできることはないのかしら
僕、もう一度行ってくる
どこにだ
動物園にだよ
だがこれ以上手掛かりは…
それでも行くんだよ!タクヤが帰ってこないかもしれないのに、このままじっとしてなんかいられない!みんなだってそうだろ!?
■
【夜・ある夫婦の会話】
__おかえりタクヤ。遅かったね
__ただいま。珍しいなぁ、こんな時間まで家事なんて
__スズがなかなか寝付かなくてさぁ、お話ししてくれって
__いつものだろ?
__うん。変な子だよね、なんであんな話聞きたがるんだろう
__都市が消滅した話か
__そう
__そんな話を思いつくユキもユキだけどな
__せがまれるからさ。それに、話してるとなんか続きが浮かんでくるんだよね
__浮かんでくる…
__思い出すみたいに。自分でも不思議なんだけど
__まぁいいか、親子のコミュニケーションは大事だしな
__まあね。最近難しい言葉がわかるようになってきたし、私も話して楽しいんだよね。ついつい遅くなっちゃって
__早いもんだな
__そうねぇ。ついこの間までろくに喋れなかったのに
__キャマメル
__ふふ、とうもころし。…ガッコガッコって言って手を伸ばしてきたのが懐かしいな
__最近こまっしゃくれちゃってさ、私に向かってバカにしないでよーっていうんだよ。どこで覚えてきたんだか……
__クク…
__……?なによ
__なんでもない
__このままさ、何事もなく、大きくなってくれたらいいね
__ああ、そうだな
■
【タマシイ研究所にて研究所とリサーチャー】
並行世界に移動した?
そういう可能性もあるという話だ
どういう原理かは分からないし、そんなことが起きうると証明されてるわけじゃない。だが現実に発見されない行方不明者はこの国だけでも年間1500人以上いる。5年で7500人、10年で1万5000人。不可解な事件だからニュースにはなりにくいが、決して無視して良い数字ではない
タクヤ…
象が消えた世界から消えなかった世界へ。あるいは消滅が起きた世界から起きなかった世界へ。……もし向こうの世界になじみ、こちらの世界を忘れてしまったとしたら、もどって来る可能性は限りなく低くなるだろうな
そうならないためには一体どうすれば
残念だができることは何もない。タクヤ君たちがこちらの世界を思い出してくれるよう、祈るしかなさそうだ
■
【とある夫婦の会話】
【娘のスズナが起き出してくる。だが、なにか様子がおかしい】
__パパ……
__どうした?スズナ
__ほらー、寝なきゃダメでしょう?
__パパ、どうしてここにいるの?
__お仕事終わって帰ってきたんだよ。ほら、もう遅い時間だぞ、寝なさい?
__ここにいちゃダメなんだよ
__おいおい、何言ってるんだスズナ
__ここはちがうの……ここじゃないの…
__ねえ、どうしたのスズ。怖い夢でも見た?
__ううん。夢をみているのは、パパとママなんだよ
__スズナ?何を言って…
__あのね?スズね、パパもママも大好きだよ?でもダメなの。こっちにいたらダメって、ゾウさんが言うの
__どうしたのスズ…
__ゾウさん言ってたよ
__パパもママも、本当は知ってるって…まちがってこっち来ちゃっただけなんだって…。本当はおわかれしたくない……でも、勇気をだしてってゾウさんが言うの……だからスズ、言わなきゃって……!!ぱぱとままにいわなきゃって……!!
__大丈夫、大丈夫だよ、ママはずっと一緒だからね
__それじゃだめなんだよ!!!
__ダメじゃない!……駄目じゃないよ。みんなが一緒にいるのはね、駄目なんかじゃないんだよ。ずっとずっと一緒にいられてパパも幸せ、ママも幸せ、スズも幸せ……。それでいいんだよ?
__ゾウさんは…?
__象さんのことはいいの。忘れていいの
__ほんとに?
__もちろん!象さんのことは忘れて……一緒に寝よっか!スズが寝るまで一緒にいてあげる。ずっとずっと、一緒にいてあげるから……
■
【動物園・ギーク】
ハアッハアッ……タクヤ!ユキちゃん!駄目だ、並行世界になんか閉じ込められちゃダメだ!頼むよ!戻ってきてよ!……タクヤアアアア!!!!!!
■
【とある夫婦の会話】
__寝たか
__うん……ベッドに入ってからもしばらく不安そうだったけど、多分大丈夫
__急にどうしたんだろうなぁ
__ごめんなさい、私が変な話をしすぎちゃったから
__……なあ、ユキ
__ん?
__さっきさ
__スズナの言ってた事を考えてたんだ
__やめてよ、ただの子供の妄想なんだからさ
__まあそう捉えるのは簡単だけどさ…気になっちまったんだ。スズナはどんな夢を見てそこで何に出会ったのか。象さんっていうのはいったい何のことなのか。なあ、覚えてるか?昔、動物園から象が消えたって事件があったよな
__え?
__たしか2人で、その象を見に行ったんじゃなかったか
__タクヤ…?
__細かいことは覚えてないが…ほら、スクーターに乗ってさ
__『ったく、なんで動物園になんか』
__『そんな言い方しないでよ 納得したんでしょ?』
__『あんたらが必死だから付き合ってやってるだけだ』
__『そうやって投げやりな態度でいると何も見つからないわよ』
__でも実際に行ってみたら、象はちゃんといていて……
__『あれは?』
__『象……ね』
__『消えたんじゃなかったのか』
__『タクヤ、ここ別の動物園なんじゃ』
__あの時何かを調べてた気がするんだよな。でもそれがどうしても思い出せなくてさ
__『こんなことになるなんて思ってもいなかったが、不幸中の幸いだったのは2人だったってことだ』
__『うん』
__嘘よ…
__ユキ?
__そんなの嘘。もしそれが本当なら!
__どうしたんだ
__ねえタクヤ、私たちずっと一緒だったよね。出会って、一緒になって、スズが生まれて、スズを育てて、おむつを替えて、首が座って、ハイハイするようになって…!少しずつ喋れるようになって、どんどん大きくなって重たくなってくスズを育てて…それで…
__当たり前じゃないか
__でも……私たち、私たちどうして出会ったんだっけ
__どうしてってそれは……それは……
__消滅都市……タマシイ……ロストに向かう契約……ねぇ、これって本当の話なの?だとしたら私達、どうしてここに居るの?どうして消滅は起きていないの?どうして私達、幸せに暮らしてるの?……ねぇ、スズは、スズは一体誰なの……?
【気付けば、再びスズナが夫婦の目の前に居る】
__スズはね、パパとママのスズだよ。でも2人はこの世界の人じゃない
__……スズ?
__まよいこんじゃったんだよ。ほら、見て?
__あれは?
__世界が……沢山の世界が見える
__ゾウさん言ってたよ。今ならもどれるって、今だけしかもどれないって
__スズナ、何を言ってるんだ
__もう近づくことはないって……だから今だけなんだって
__分からない……分からないよ……!
__分からなくてもいいんだって、とびこんでしまえば、全ておわるから
__全て、終わる?
__そうだよ、だから安心して?なにも考えなくていいんだよ
__なあ、もしかして、これは夢なのか?
__夢じゃない。夢からさめた夢の世界
__ここに、この光の中に飛び込んだら、どうなるんだ?
__だいじょうぶ。2人の存在は、元の世界にあわせて収束していくから
__でも、そうしたら、そうしたらスズはどうなるの?
__……わかんない
__消えちゃうの?スズも、あなたと過ごした日々も、この幸せも、全部……!
__わかんないよママ。スズにはむずかしくてわかんない。でもね、一つはっきりしてるのは、ここにちゃダメってこと。戻るチャンスは今しかないんだよ
__駄目よ……!私がいなきゃ……スズには私がいなきゃ!
__もう……バカにしないでよ。もう赤ちゃんじゃないんだから
__違う…違うの。スズと一緒にいたいの……!私……ずっとずっと……スズと一緒に……ずっと……!
__だいじょうぶ。パパとママはこの世界の人じゃないけど、スズはね、2人のスズだから
【スズナの姿が消えていく】
__スズナ!行くな!!
__いっしょにいるよ。2人が辛かったり苦しかったりしたら、スズは2人をきっと見つける。どの並行世界にいてもきっと見つける!パパのことママのこと、きっと見つけるんだから!
__待って!スズ!お願い!
__スズね、生まれ変わっても、この記憶がなくなっちゃったとしても、2人のこと、ずっとずっと、大好きだよ
■
【誰かの声が聴こえる】
……クヤ!……ちゃん!起きて!起きてよ!
【タクヤとユキが目覚めると、そこは動物園だった】
ギーク……?
ここって……
よかったぁ……!二人とも良かったぁ!急に消えちゃってから3日も見つからなかったんだ。もう会えないのかと思ったよ
3日も……?
うん。この動物園に消滅した象のの調査に来てから、ずっと行方不明になってたんだ
……長い夢を見ていた気がする。凄く、長い夢を
あぁ……
タクヤ、ユキちゃん!すぐに戻ろう!動物園の調査は後で再開すればいいよ。今はとにかくゆっくり休もう?
でも……
何?
気になるの。この動物園で起きてる事。放っておいちゃいけない気がする……
……ユキ
でもぉ……体調とか平気?
3日も何も食べてないなら、もう限界なんじゃ
それが不思議なんだが、体の調子も平気だし腹も減ってない……ユキはどうだ?
えぇ、私も
もしかして俺達、本当に消えていたのか
ここには多分、強い思いを持ったタマシイが居るわ。象が消えてしまったのも、私達が消えてしまったのも、タマシイの影響なんだと思う。このまま放置すると、もっと沢山の人達が取り込まれてしまうかもしれない。これ以上被害を出すわけにはいかない……、タマシイの声、聴いてみるわ
【場面転換】
そういえばギーク
俺たちより前にこの動物園を調査していたらしいな。何を調べてたんだ?
重大な調査だよ。そのためにはどうしてもここに来るまでの交通費と宿泊費と雑費を、研究所に請求する必要があったんだ
重大な調査……
ある文献を完成させるための調査さ
文献?
複数のコンピューターネットワークを相互接続したグローバルな情報通信網の中に保管される文献でーー!
インターネットのことよね
歴史に名を残す重要な人物たちのたどった軌跡をあまねく伝えるべくーー!
それは誰の事だ
誰!?今更それを聞くの!?SPRだよ!シュプリームファイブ!この動物園といえばシュプリームファイブに決まってるじゃないか!
え?なんで?
最後のメンバーが集まって間もない頃にライブを開催した、ファンにとっての重要な聖地だからだよ
つまり交通費と宿泊費を研究者に請求して、聖地巡礼をしてたってことか
当たり前じゃないか……痛って!何するんだよタクヤ!暴力反対!
それは横領だ
なんで?全人類のためにやってることなのに、横領だなんて酷い!
お前の持ってるその大量のグッズも、全人類の為なのか
だーかーらー、複数のコンピューターネットワークを相互接続したグローバルな情報ーー痛い!叩かないでよタクヤ!
ねえタクヤ……私たちがこの動物園についてから感じた違和感のことを覚えてる?
違和感?
ええ……、もうずっとずっと前のことみたいに感じるけど、確かあの時ーー
『消滅に巻き込まれたはずのSPR5がライブをやるっていうのに、誰も驚いている様子が無いな』
『それに……こんな小さな動物園でライブだなんて』
SPR5のライブ……!
ええ、ここが現メンバーになって間もない頃ライブを開催した重要な聖地なら、動物園で起きていることの原因はすべて、SPR5にあるのかもしれない……。そうなんでしょ!?
ユキちゃん、あれ、あの光って……!
【ギークが不思議な光に気付く】
タマシイ!?
追いかけましょう!タクヤ、この事件、 解決できるかもしれない!
【スクーターに乗りタマシイを追うタクヤとユキ】
クソっあいつ早いな
見失わないで!
ユキ、呼びかけるとか何とかできないのか
言われなくてもやってるわよ!
なんとか追いつくしか無いか……スピード上げるぞ!掴まってろ!!もっと強くだ!
うん!
【場面転換】
見て、展望台の所!
あれは……
タマシイよ。私たちに何かを伝えようとしているのかも
捕まえるか?
いいえ、声を聴きましょう。私たちにできることはそれしかないわ
【タマシイの記憶が流れ込む】
【ホムラとユアの会話】
ホームラ!
ユア!どうしたの、こんなとこで
それはこっちの台詞。なんかあった?
今日ちょっと落ち込んでたみたいだけど
そんなことっ
ごまかしたって駄目。分かるんだから
どうして……?
仲間だからだよ
そっか……。あのね?なんだかね、最近考えるようになっちゃって。本当に夢は叶うのかなーって。諦めなければって、信じて信じて信じ続けてるけど、でもブレイクするタイミングなんて来ないかもしれない。そうしている間に、ファンの皆離れていってしまうかもしれない
そんなこと無いよ!きっと
うん、
新しいファンが増えてるってのも分かってるし、パフォーマンスだって上手くなってると思う。でもね、昔いたファンの人がライブに来なくなっちゃったり、前は私たちのことばかりsnsに書き込んでた人が、全然別のことを発信してるのを見たりすると何とも言えない気持ちになっちゃって……
ホムラ……
半年後にはもっとファンが減ってる。1年後にはもっともっと減ってる。2年後には数人しかいないかもしれない……そんな風に考えちゃう自分が許せなくて……
ー物陰からSPR5メンバーがやってくるー
そうね。だった数人のファンのためだけに歌い続けることは出来ないわ
私たちだってご飯を食べなきゃ生きていけないし
サークルでも慈善事業でもなくて、アイドルですもんね!
みんな!
どうしてここが……?
ふふ……仲間だからよ
もう……
だからさ皆、ここで誓いましょ?ファンを増やすためだったら何でもする。皆に忘れられないためだったら何でもやる。夢を叶えるとか夢を与えるとか、そういう甘いことを言ってるのはもう終わり。私たちは夢の向こう側に行くの!どんなにつらいことがあっても苦しいことがあっても、私たちは絶対に諦めない!そう誓いましょ
もう楽しいだけは終わりだね。ちゃんと有名になろ?
できることは何でもしなきゃ
みんなが脱ぐなら私も……!
脱がないから!!
みんな……。みんなありがとう。私続けたい!みんなと一緒に、アイドル続けたい!
【タマシイの声を聴いたユキ・タクヤ・ギーク】
ウワアアアアアア!!感激だよぉ!!!あの!“展望台公園の誓い”!!!!
なんだそれ
SPRファンの中では伝説になってる出来事なんだ!この日を境にして、SPR5はより一層の人気を獲得してスターダムへの道を歩みだした!インタビューでは断片的に語られているものの、その全容は明らかになってなかった!それが!今!今目の前にぃぃぃぃ!!!
はぁ……
あああ!!全部!全部聴けなかった!お願い!お願いだからもう一回再生して!!
そういうのじゃないだろ……
【SPR5・タマシイの記憶】
じゃあ、いつものやっちゃう?
うん
やろう
そうだね
じゃあホムラ!
え、私?
当ったり前じゃん!ほら!
分かった。じゃあやるよ〜……行くぞ!!夢の向こう側へ!!
おおー!!!!
■
【ユキ、ホムラのタマシイとの対話】
ありがとう。私たちの声を聞いてくれて
ごめんね。すぐに気づけなくて……
ううん、思い出せてよかった。諦めないって決めた、この日のこと。
私も聞けてよかったよ。あなたたちの想い。大切なことに気づけた
何?
すごく当たり前のこと。今更馬鹿みたいだけど、私の生き方はさ、私が決めるものなんだね
■
【場面転換】
(朝起きて、夢が消えて行くのを時々寂しく思うことがある。)
ねぇ、タクヤ。覚えてる?私たちがいなくなってた時のこと
…はっきりとは覚えていないが、夢を見てた気がする。
幸せな夢?
ああ、多分
(朝の光。暖かいベッドの中で、消えてく夢のしっぽを掴もうと、もう一度目を閉じる。でも、夢の中を生きてた実感は、いつもすぐ消え去ってしまう。)
ユキ、大丈夫か。もし具合が悪ければもう少し休んでからでも
平気。 ありがとねタクヤ
珍しいな、ユキが素直に礼を言うなんて
うるさいわね、たまにはそういう気分の時もあるの
(とても大切だった筈のあの時間よりも、目の前のぬくもりによりかかってしまう。そんな私は、残酷なんだろうか。)
■
【タマシイ研究所ー研究者とリサーチャーの会話】
なるほど。アイドルの想い、か。
でも不思議だわ。どうしてアイドルにタクヤとユキを消してしまうほどの強い力がーー
いや、タマシイの力ではない
どういうこと?
おそらく今回の並行世界はユキ自身の中から生まれたものだ。タマシイの思いが引き金となり、ユキ自身の思いが表出した結果だろう
ユキ自身が?
消滅に巻き込まれ、生き残った少女。あの子はロストの中で、一体何を見て、何を内に抱えているんだろうな……
■
【調査を終えてータクヤ・ユキ】
しかし、消滅都市の情報は得られなかったな。どうやらこのままロストに向かうしか無さそうだ
……ねぇ。タクヤは諦めないよね
さあな
え?
アンタ次第だ
そんな…
なんでだ?それが一番大事だ
仲間だから?
ただの契約相手、だ
えぇ?……うん、そうだね
【いつかの記憶】
__『スズね、生まれ変わっても、この記憶がなくなっちゃったとしても、2人のこと、ずっとずっと、大好きだよ』
fin.