日本プロ野球再興戦略①〜メディア編〜
野球がオフシーズンに差し掛かると、昨年の大谷選手をはじめMLBでの大型契約が話題となります。NPBでは想像もつかないような大型契約を結べるのは、MLBの収益規模がNPBよりもはるかに大きいことが理由です。
小林至氏著の「野球の経済学」(新星出版社)によれば、1995年のMLBの市場規模が1400億円、NPBが900億円。それが、2018年にはMLBが1.1兆円、NPBは1800億円と格差が大きく開いていることがわかります。
日本人である大谷翔平選手の活躍を日本で見られないのは、こうした経済格差に原因があったのですね。
ではNPBがMLBに追いつくためにはどうすれば良いのでしょうか。今回はメディア面から考えていきます。
メディア面はMLBの収益を支える基盤なのですが、特にテレビ放映権による収益は莫大な額になっています。加えてデジタルメディア戦略でも先を行っており、この2点はNPBの経済的基盤を拡大する上で避けては通れないテーマといえます。
テレビ放映権
かつてNPBのテレビ放映は、主に地上波放送に依存していました。2000年ごろまで巨人戦ナイターの視聴率は20%前後を推移しており、バラエティ番組などの放送よりもプロ野球中継の方が視聴率を取れていたという背景があったのです。(今考えるとすごい時代です、、、)
しかし2000年代以降はスマホの登場などでメディアが多様化したことや、動画やゲームなどエンタメコンテンツの幅が大きく広がったことなどにより、地上波でのプロ野球中継が大きく減少しました。
対してMLBでは2000年代以降、全国的なテレビ契約が急増しました。特にESPN・Fox Sports・Turner Broadcasting Systemの3社との契約が収益を大きく押し上げており、例えば2022年には、上記の3放送局だけで年間総額17億6000万ドル(約2540億円)の放映契約が結ばれました。これは1球団平均で約5,900万ドル(約85億円)をもたらしたことになるのです!
日経の記事によれば、現在NPBの放映権収入は総額500億円と推定されており、MLBはその10倍ほどの放映権収入を得ているようですね!
ではなぜこんなにも放映権収入に差が開いたのでしょうか。
それは放映権の販売方法に秘密があります。
MLBは全国放送については放映権を一括で販売し、リーグとして収入を得る形をとっています。そして得られたリーグ収入は、各球団に均等に分配することで還元していきます。このように全国放送に対して全球団の放映権を一括販売することが、高額な契約につながっているというわけですね!
ただし地方局などでは特定球団の中継のみを流したいというニーズもあるため、そのような場合はチーム収入として放映権販売も行っています。
対してNPBは基本的に各球団が放映権を管理する形をとっています。そのためトータルとしての放映権収入はなかなか伸びてこないのですが、親会社に大手メディア企業の多いNPBでは、まだ放映権管理の改革が進まないのが現状です。
デジタルメディア
MLBは2000年に設立したMLB Advanced Media (MLBAM) を通じて、世界初のリーグ単位のストリーミングプラットフォーム「MLB.tv」を立ち上げました。またスマホで使える「At Bat」というアプリの開発も手掛け、スポーツアプリとして最大級の売上を誇っています。
こうしたデジタルメディア面での先進的な取り組みにより、アメリカ国内はもちろんグローバルな視聴者層を取り込むことにも成功し、デジタル収益が飛躍的に拡大していきました。
対してNPBにはMLBのような統一されたデジタルプラットフォームが存在せず、収益機会は今のところ限定的です。このモバイル全盛時代にNPB公式アプリがない、というのは悲しいところがありますね。。。。
ではデジタルメディア面でなぜここまで差が開いたのでしょうか。
その理由としては先ほどの放映権の問題が大きく関わっています。
近年のデジタルプラットフォームでは動画が中心を担っています。MLBでは放映権をリーグで管理しているため、試合の動画を集めて配信することが容易だったのですね。しかしNPBでは放映権を各球団が個別に管理しているため、NPB公式のメディアを作ることが難しかったのです。
またNPBの中でも、セリーグとパリーグではデジタルメディア面で大きな差があるのですが、その背景には歴史的な経緯が関係しています。
先述した通り、かつて「巨人・大鵬・卵焼き」という言葉が生まれたくらい、巨人戦はコンテンツとして非常に人気がありました。そのため、特に巨人の属するセリーグの各球団は、巨人戦がある限り大きな赤字とはならなかったのです。
一方で人気の面でセリーグに大きく劣っていたパリーグでは、MLBAMを参考にして2007年に6球団共同でパシフィックリーグマーケティング(PLM)を設立し、「パリーグtv」の運営やインターネット配信への放映権の一括管理などを開始しました。
こうしたパリーグ全体でのデジタルメディアの取り組みにより、パリーグのネット配信視聴者は近年大幅に増加しています。
一方でセリーグは旧来の名残で地元放送局との関係性が強いこともあり、デジタルメディアの配信は未だ個別球団との契約で行われています。そのため「ネット配信大手のDAZNでは11球団の主催試合を視聴できるが、広島東洋カープの主催試合だけは見られない」といった事態が起きてしまうのですね。
まとめると、MLBは全国的な放映権の一括販売とMLB Advanced Media (MLBAM) によるデジタルメディア戦略の成功を通じ、メディア収益を飛躍的に拡大させてきました。そしてこれらのメディア収益はMLBを支える大きな収益基盤となっています。
一方でNPBは放映権の一括販売が進まず、加えてMLBのような統一デジタルプラットフォームがないため、メディア収益はMLBの1割ほどにとどまっているのが現状です。
NPBが今後この差を埋めていくには、リーグ全体で放映権を一括管理することがカギになると考えています。これはデジタルメディア戦略を進めるための必要条件にもなるのですね!
次回の国際展開編はこちら!