日本プロ野球再興戦略②〜国際展開編〜
野球がオフシーズンに差し掛かると、昨年の大谷選手をはじめMLBでの大型契約が話題となります。NPBでは想像もつかないような大型契約を結べるのは、MLBの収益規模がNPBよりもはるかに大きいことが理由です。
小林至氏著の「野球の経済学」(新星出版社)によれば、1995年のMLBの市場規模が1400億円、NPBが900億円。それが、2018年にはMLBが1.1兆円、NPBは1800億円と格差が大きく開いていることがわかります。
日本人である大谷翔平選手の活躍を日本で見られないのは、こうした経済格差に原因があったのですね。
ではNPBがMLBに追いつくためにはどうすれば良いのでしょうか。今回は国際展開の面から考えていきます。
(なおメディア面を取り上げた前回の記事はこちら。)
そもそもアメリカと日本では3倍ほどの人口差があり、純粋な国内需要だけではNPBはMLBに敵いません。したがって格差を縮めていく上では、国外需要を取り込んでいくことも必要不可欠となってくるのです。
一口に「国際展開」と言ってもさまざまな観点がありますが、今回は国際大会・選手の国際化・海外公式戦の開催の3点から考えていくことにします。
国際大会
昨年のWBCでは大谷選手をはじめとする侍ジャパンが見事世界一に輝き、日本国内でも大きな盛り上がりを見せましたね!大谷がトラウトを三振に取ったシーンをライブで見ていた人も多いのではないでしょうか。
実はこのWBC、MLBとMLB選手会により立ち上げられたWBCIという組織が主催しています。国際大会でありながら、国際連盟ではなくアメリカのMLBが運営元なのですね。
そしてWBCでは各国から得られたスポンサー料や放映権料、ロイヤルティーなどの大会収益が全て一括でこのWBCIに集められ、そこから賞金や各組織に分配する形となっています。
例えば09年に行われた第二回のWBCでは、MLBおよびMLB選手会が収益の66%ほどを受け取っていたとされています。胴元として多くの収益を得ていることもそうですが、侍ジャパンなど各国代表のスポンサー料も含めて2/3をMLBが得ている、という点は非常に巧みなモデルと言えますね。
ちなみにサッカーのワールドカップなど他競技の国際大会では、各国代表のスポンサー料が各国に帰属するのが通例です。しかしWBCでは、例えば日本代表チームに属する大谷選手のグッズが売れたとしても、収益の2/3がMLBに入ることになるのです。
前回大会の23年WBCでは1億ドル(≒150億円)ほどの収益があったとされていて、WBCという国際大会の開催によってMLBは多くの収入を得ることに成功しています。
選手の国際化
アメリカ自体が「人種のるつぼ」と称される多民族国家でもあり、MLBは海外選手を積極的に受け入れています。2023年のデータでは全体の3割近くを外国人選手が占めており、特にドミニカ・ベネズエラ・キューバ・プエルトリコといった中南米の国々が多くなっています。
日本からも1995年の野茂英雄選手を皮切りに、イチロー・松井秀喜・大谷翔平といった多数のスター選手が排出され、日本国内のMLB人気を高めてきた歴史があります。
こうした世界各国の選手を取り込むことにより、それぞれの国のファンからも注目度が高まり、放映権やデジタル収益などリーグ全体の経済規模拡大に貢献してきました。
一方でNPBでは外国人選手の一軍登録人数が5人までと制限されており、外国人選手の割合は最大でも16%ほどにしかなりません。海外選手が少なければ国際需要を取り込むことも難しくなってくるのです。
海外公式戦の開催
MLBは早くから海外での公式戦を開催し、世界中でリーグの認知度を高めてきました。1996年にMLB史上初の海外公式戦がメキシコで行われ、これを皮切りに日本・プエルトリコ・オーストラリア・イギリス・韓国などで公式戦を開催した実績があります。
特にヨーロッパでは野球よりもサッカー人気が強いという特徴がありますが、このような地域でも公式戦を開催していくことによって、未開拓の市場を開拓していこうという姿勢が伺えますね。
MLBではこうした海外での公式戦を通じて、現地のファンがMLB関連商品を購入したり、デジタル配信サービスを契約したりするなど、ローカル経済との接点を強化しています。
一方でNPBでは、海外公式戦の開催が非常に限定的です。2002年に台湾で試合をするなど過去に何度か日本国外で公式戦を開催した例はあるものの、戦略的に海外市場を開拓する動きにはつながっていません。
まとめると、MLBでは国際大会・外国人選手の受け入れ・海外公式戦などによって、グローバル市場への展開を進めてきました。一方でNPBは国内市場に依存しているため、国際的な競争力が低下し、MLBとの経済規模格差につながってきた経緯があります。
日本ではそもそも急激に人口減少が進んでいることに加え、近年では野球人口の減少も指摘されているため、海外市場を取り込んでいくことは今後の必須課題となるでしょう。
NPBが今後国際展開を進めていく上で、個人的には韓国・台湾などのリーグと手を組み、「環太平洋アジアリーグ」を発足することがひとつの解決策になると考えています。
これにより日本・韓国・台湾での合計人口約2億人を取り込むことができますし、移動などもアメリカ国内での距離に比べれば難しくありません。またリーグ再編を行うことで、放映権管理などの問題を解決するきっかけにもなるでしょう。
このようにアジア圏を包括的に取り込んで野球リーグを再編することが、MLBに対抗するための最善手ではないか、と思っています!