ジブリ映画「かぐや姫の物語」考察 5
自称作家 あまおう まあお がDVD見て原作読んで全力で考えてみた!!
月時間、地球時間
私が初見でよく分からなかったのが、この設定です。この設定が理解できないと、この話のオチが理解できないのです。
もう少し、分かりやすくしてくれてもよかったんですよ……? と思わなくもないのですが、何度か見ているうちにAHAできました(アハ体験・ご存じない方は検索のほど願います)。
原文にもしれっと書いてあったので、古典か竹取物語に詳しい方は既知の設定なんですね。高畑監督の要求してくる教養レベル、一般よりかなり高いと思うのですがどうですかね。
私の妄想だと言われかねないので原文を先に示します。
「月のみやこの人にて、父母あり。かた時の間とて、かの國よりまうで来しかども、かく、この國にはあまたの年をへぬるになん有ける
(月の都に実の父母がいます。ほんの少しの間といって月の国からやって来ましたが、このようにこの国で多くの年月を過ごすことになりました)」
「汝、をさなき人、いささかなる功徳を翁つくりけるによりて、汝が助けにとて、かた時のほどとて下ししを、そこらの年頃、そこらの金給ひて……
(そこの愚かな人間よ、ほんの少しの良い行いを翁が作ったという理由で、翁の助けになるということで、ほんのひととき姫を地球に下ろしたが、長い年月たくさんの金をいただいて……)」
前者は姫の、後者は天人のセリフです。姫は二十余年地球にいたようなのですが、この時間は月では「かた時」なのです。姫の成長がやたら速いのも「かた時」の間に色々と経験しなければならんからでしょうか。
月と地球では時間感覚が違っている。
さらに言えば、月の力で姫の時間が明らかに「巻戻っている」箇所がありました。成長が「早送り」できるのならば「巻き戻し」も可能と考えるのが筋ではありますね。
確実に巻戻った箇所は二箇所です。
一、名付けの宴で怒り心頭
二、妻子捨丸と愛の逃避行
どちらも夢オチのような処理をされているのでぼんやりと受け入れてしまいますが、一では姫が凄い勢いで戸を文字通り蹴破りながら、山里まで駆けて行って雪の中で倒れます……月を背景に月の天使が飛んで、気がついた時には姫は蚊帳の中にいましたね。宴の真っ最中。時間が戻っているわけです。
夢でなかった証拠が、割れた貝です。あれ、姫が素手で割ったんですけど、それを見て姫も何かを察しているように思いました。あの貝、神経衰弱ゲームの「貝合わせ」というやつだと思いますが(今妙なことがふと頭を過ぎった方! 反省してくださいよ? 意味が分からない方は余計なことはしなくていいです。読み飛ばしてください。世の中、知識があればあるほどいいということもないですからね?)ハマグリで作るのが一般的だそうで。……素手で割るとか、バケモノじみていますね。
その後の山を駆けるシーン、月に向かって吠える獣のような演出で細かいところまでよく練られているのを感じます。
二はもっと分かりづらくて、貝のような「確かな証拠」が表現されていないのですが、妻子捨丸が嫁に対して目を泳がせているのが印象的です。愛の逃避行の前には普通に目を合わせていそうなのに、明らかに気まずそうな顔に見えましたよ。少なくとも「罪悪感」を覚えるようなことをなさったように見受けられますが。
夢であったとしたら、目が泳ぐものでしょうかね?
夢なんだったらたとえて言えば嫁にAV見てたのが見つかった程度のことだと思うんで、あれだけ不貞不貞しく生きてる捨丸からしたら罪悪感なんてカケラもなさそうなもんですけど。どうなんですかね。
あとこれは、ちょっと証拠としては弱いと思うんですが、草刈りのカマ、二本……この行方が気になるんですよね。再会した姫と捨丸が話しながら草を刈ってるんですが、その後二人は空を飛ぶんで、それまでの間でカマを捨てているわけなんです。飛んでるときにはカマ持っていないので。
これが宴での「貝」にあたる証拠になり得ると思うのですが、どうもカマを拾ったりしていないんですよね。帰る時に捨丸はカゴを背負うんですが、姫が引き抜いた場所にカマらしきものが描いてなさそうに見えて「これか!」と一瞬目を凝らしたんですが、姫に再会する前にカゴ背負っている時にも描いてなさそうなので証拠と言い切れない感じなんです。
家に帰って捨丸がカマ二本なくしていたら、きっとそれは証拠なんですが、残念ながら描写がないので、分かりませんでした。ちなみに少なくとも姫が借用していたカマは、カゴの外にぶら下げていたものではなく、カゴの中に刺さっていました。なくしていないといいですね。
さて、これらを踏まえて、月と地球では時間の流れがまったく違うし、さらに言うと月と地球を行き来することで「ねじれる」んだと私は思います。姫だけが、時間が「ねじれ」ます。私が何を言いたいのかというと、ですね……。
ヒントはこれです。
ラストシーンは月の中に赤ちゃん時代のかぐや姫。姫は小さい頃からわらべ歌を知っていた。姫が地球に「下される」のは「罪を犯したから」。誰とも同じ属性をもっていない異端の姫、たったひとり、同じ属性のひとが出て来ます……。
お分かりでしょうか。
分かっている方は、あの映画を私と同じ解釈でみている方です。
……なかなかひどい話ですよね、あれ。