洋食屋A ~ビーフのオムライス|エッセイ(全文無料)
たとえば、洋食屋へ行った。
私は大人になってもオムライスが好きなんだ。子どもの時からずっと好きだ。だからめしを食おうとなれば多くオムライスが頭をよぎる。特に休日の昼めしとなれば2回に1回は頭をよぎる。
玉子は薄いのからたっぷりとした半熟まで、かかるソースもケチャップやらデミグラスやら、いろいろある。私はどのタイプも好きで、オムライスが食べたくなって、そして食べたら、どれだけ精神的なコンディションが悪くても大抵にこにこできるのである。
さて、洋食屋なら大体オムライスをイチ押しメニューのひとつとしているようだが、それを超えて、オムライスを特に打ち出している洋食屋も多い。
そんな「オムライスの洋食屋」に、前から気になっていたのが一軒あって、ある休日の昼めしで、満を持して行ってみた。
そこのメニューにはオムライスだけでも数え切れないくらいのバリエーションがあって、オーソドックスなものからあまり聞きなじみのないものまで、たくさんあった。
私は基本的には保守的であるから、こういったときに何だかんだ迷う振りをしながら伝統的な一品に落ち着くことがほとんどだ。この時もスタンダードな数品しか目に入っていなかったが、ひとつビーフのオムライスというのが気になった。
ビーフシチューがソースでかかったものなのか、それともチキンライスならぬビーフライスが中に入っているのか。
当時私の中ではオムライスの中身はチキンライスと相場が決まっていて、それ以外の選択肢は頭になかった。となるとビーフシチューか。しかしこの店はいかにも昔からやってますという靴を脱いで床をぎしぎし言わせながら座布団に座るタイプの洋食屋だ。ビーフシチューがかかっているような今風おしゃれのオムライスが出るわけがない。とすれば、チキンライスならぬビーフライスだろうか。
これに決めた。
注文した後はあらためて店内を見回して、どこもかしこもぎしぎし言いそうな床をあらためて確認したり、カップルで来ているらしき他のテーブルを微笑ましく見たりしていた。
しばらくしてビーフのオムライスが来た。外観は昔ながらのオムライスである。食べてみると、チキンライスならぬビーフライスのオムライスだった。そのほかの玉子がどの程度ぷるぷるだとか、ソースが何色だとか細かなことは忘れた。
なんと素朴な味わい!
ぎしぎし言ってる床にいかにもマッチするこの素朴な味わい。
で、チキンライスならぬビーフライスも、悪くないじゃないか、むしろこっちの方が良いんじゃないか。
このビーフのオムライスをきっかけに、私にとってオムライスの中身は、チキンライスならぬビーフライスが一番になった。けれどもこの店以外で、チキンライスならぬビーフライスのオムライスには出会ったことがない。
私が無知なのか、探せばよくあるものなのか…
ごちそうさまでした。
*補足*
本記事は「グルメスパート!」(連載エッセイ)の一部です。
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