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すし屋A ~粒ぞろいのネタを一通り|エッセイ(全文無料)

 たとえば、鮨屋へ行った。

 この店は初めの時からネタがとってもおいしくて、気に入って、以来、何度か行った。
 夏のころから、サンマが食べたいと思って、行こう行こうとして、行けないで、時季を逃してしまって、でもいいやと思ってこないだとにかく行ってきた。

―瓶ビール下さい。
―何にしますか。アサヒ、サッポロ、エビス…
―じゃエビスで。

 やっぱり鮨屋のカウンターは格別とネタのケースとホワイトボードを行ったり来たり。

―白身は何ですか、じゃヒラメを下さい。生牡蠣も。しばらくつまみで。
―ヒラメは薄造りにしてポン酢でもいいんじゃないですか、牡蠣はレモンでもいいですね。
―じゃあ、それで。

 鮨や鰻屋などへはさほど頻繁には行けない。しょっちゅう食べてたら口がばかになりそうだし、お腹いっぱいになっちゃうし。

―あん肝ももうありますよ、ひと切れからいいですよ。
―じゃあ、それも貰おうかなあ。

 カウンターに先客があった。六十から七十代くらいの男女3人連れだった。落ち着いた会話が弾んでいた。
 ひとつあるテーブル席にも先客があった。こっちは多少若い感じの、ワイワイした雰囲気。

 鮨屋で最初の刺身を待ちながら飲むグラスの高揚。
 もうお腹減ってるよ、限界だよ。
 でもビールの泡で腹がふくれるから、いつも、それほどがっつかなくても大丈夫だった。ビールの泡によわいのだ。

―貝はホッキ貝とか。
―じゃそれと、イワシください。
―カンパチの焼いたの、サービスです。稚鮎のあぶったの、サービスです。

 鮎のわたが半生でとてもうまい。頭をかじってとろっと出てきたのがとてもうまい。

―ぬる燗ください。
―夏でも冷酒でなくて、燗がお好きですか。
―冷酒は家でも飲めるけど、燗酒は自分じゃ面倒くさいから。レンジは味が変わるし。

 ちょうどいいぬる燗が来て、ますます勢いづいていく。だんだん気持ちよくなる。そろそろ何食ったか覚えてなくなる。

―そろそろにぎってもらいます。マグロと…
―づけとかおいしいですよ。生イクラも食べといた方がいいでしょう。
―食べます。アジも。イワシもう一回いこう。みそ汁もらいます。
―サバも脂のっててうまいです。
―食べる。
―玉子サービスです。芽ネギも。
―とろたく。
―ネギとろとハーフも行けます。あるいは半分シソ入りもいける。
―とろたくで、半分シソ。

 途中は何を食べたか忘れた。
 調子にのって、久しぶりにめいっぱい鮨を食った。

―もういいとこでしょ。
―アジおいしかった。久しぶりなんで、海苔や、づけだれまでおいしかった。

「そうよねえ、おいしいわよねえ」
カウンターのご婦人たちもこの店を気に入っている様子だった。

 もう腹一杯だ。
 いい加減、ごちそうさまでした。


*補足*

 本記事は「グルメスパート!」(連載エッセイ)の一部です。
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